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俺のミスはお前のミス お前のミスもお前のミス

「おめぇがよぉ~っ!さっさと言わねえから着けなかったんじゃねえかよぉ~っ!!」
「す、すいません!」

どうも。元東京消防庁職員、消太です。

タイトルと導入からして、また不穏な感じがしますね。
一体どこに着けなかったんでしょうか。そして、怒られている方は道案内にでも失敗してしまったんでしょうか!?気になります!

さて、4月から半年間の消防学校での訓練を終え、10月にとある消防署に配属になりました消太くんが最初に配置された小隊※は、「姥捨て山」ならぬ、「爺捨て山」のような様相を醸し出しておりました。
その理由として、隊長のL消防司令補、機関員(運転手)のZ消防士長、1番員(隊員の中で一番階級が上もしくは同階級でもベテランの職員)のN消防士長が、その年度で退職する予定のベテラン職員だったのです。
※小隊:消防では基本的に、「車両」ごとに「小隊」が構成されています。例を挙げると、「〇〇署のポンプ車」は「〇〇1小隊」となります。

最初は、「ベテランが多いから安心できるな」と思ったのですが、それは大きな勘違いでした。ベテラン職員の方々は、やる気も無くただ漫然と消防署で長年過ごしてきただけで、心技体の全てが最低ランクの恐ろしく戦力の低い小隊でした。
スラムダンクの安西先生の有名なシーンで、アメリカに渡った教え子の谷沢くんの1年後を見て「まるで成長していない・・・」と言うところがありますよね。1年間成長していない谷沢くんを見ただけで、安西先生は冷や汗を流していたので、40年間何も成長しなかった彼らを見ると安西先生はどうなってしまうのでしょうか。恐らく心臓発作を起こしてお亡くなりになってしまうのではないかと思われます。
おまけに彼らはPCをほぼ使えず、事務処理も何もできず事務は他の職員が全て行っていたので、当時のあの小隊が突然ブラックホールに吸い込まれて消滅したとしても、某署は何も困るところがなかったと思われます。(もっとも、交代制は3部制なので、残る2部は消防車が消えたことにより困ったかもしれません)

この小隊で消太くんはいろいろな洗礼を浴びるとともに、救助隊からの猛攻も受けどんどん目が死んでいくことになるのですが、今回は配属して2当番目に起きた事件についてお話します。

当番の夜、出場指令が署に鳴り響き、緊張しながら消防車に乗り込みます。
指令内容は「PA連携」という指令で、これは救急現場においてポンプ車(Pumper)と救急車(Ambulance)が連携して活動するという種類の出場でした。
余談ですが、「PA連携」というのは、東京消防庁は表向きには「ポンプ隊も救急活動に協力して都民サービスアップ!」というお題目を絶叫しておりますが、実は、「火災が減って消防隊にやることが無くなってしまい、予算を削られないために苦肉の策で編み出した秘策である」と職員の中ではまことしやかに言われておりました。データとしては、東京消防庁管内では昭和40年代は火災が9000件、PA連携の始まった平成12年で火災が7000件、今となっては令和6年中で4500件と、どんどん火災が減っていっております。
私が消防隊として勤務していた時も、火災出場はほぼなく、PA連携が大半でした。

まあそれはさておき、私の小隊はPA連携にサイレンを鳴らしながら出場しました。出場先は詳しくは言えないんですが、とある大規模施設の周辺道路の路上でした。大規模施設周辺の道路に着いたのですが、なかなか現場にたどり着けません。
大規模施設の周辺の道路が少し複雑になっており、上下2段に分かれて道路が円を描くようにグルグル通っているんですが、施設の周りを3周ほどしたところで、皆おかしいことに気づきました。
L司令補(小隊長)「〇〇番道路上って指令で言ってたけど。大丈夫?」
Z士長(機関員=運転手)「あーもう!分かんない!」
隊員一同「!?」

そう、Z士長は現場の場所がいまいち分かっておらず、とりあえず施設周辺の道路をグルグル回れば現場に着けると思っていたようです。
車を一時道路脇に止め、出場時に指令室から出された地図で現場の位置を確認するも、既にパニック状態のZ士長は「分からない」と壊れかけのRadio(レディオ)のように繰り返すだけで、もはや使い物になりません。
Z士長は勤続40年のベテランで、その署に5年程おり管轄内の道路もすべて把握しており、執務服の襟には、優秀である機関員が貰える金のバッジが付いていることを初当番時に彼から誇らしげに言われていたので、ベテランでもこういうことがあるんだな、と私は思いました。

止まっていてもしょうがないので再度周回をはじめ、5周目くらいになったところで、私が車外を見ていたら下の道路に救急車が止まって活動しているところを発見しました。すかさず「下の右の道路です!救急車がいました!」と叫んだところで、Z士長は「そこだったか!分かった!」とようやく把握できたようで、やっとのことで現場に到着することができました。

ただ、救急車の近くに車を止め、隊員たちが車から下りた瞬間に救急車が「ピ~ポ~ピ~ポ~」とサイレンを鳴らし、出発してしまったのです。救急車が走り去るところを皆無言で見た後、無言で車に乗り込み、車内では終始無言で帰署しました。

帰署した後は、隊員と機関員が整列し、隊員たちにケガや体調不良が無いか隊長が確認してから解散となります。もっとも、今回は何もしていないのでケガなどあるはずもありません。
降車後、整列して機関員のZ士長がエンジンを止めて車から降りてくるのを待っていたら、降車しながら吠えるZ士長の声が車庫に響き渡りました。
Z士長「おい!消太よぉ!」
消太「は、はい!」
何やら修羅のような顔をして、休めの姿勢で立っている私に詰め寄ってきます。そして、

Z士長「おめぇがよぉ~っ!さっさと言わねえから着けなかったんじゃねえかよぉ~っ!!」
消太「す、すいません!(はぁ!!!!!?????)」

そう、彼が現場に着けなかったことを何故か私の責任にしてきたのです。というより、私が救急車を発見して伝えてようやく現場に着けたので、功労者であるはずです。全く意味が分かりません。
全く理解できませんでしたが、消防学校を出たばかりで従順な戦士に調教されていた私はただ謝るだけでした。そして、流石におかしいので隊長が何か言ってくれるかと思いきや

L司令補「まあ、そういうことだ。消太も今度から気を付けるように。別れ(解散)。」
消太「(ええー!?いやいやいやいやいやいや)」

その後、一緒に車に乗っていた先輩が「なんで消太のせいなんだか。この隊マジで終わってんな。」と言ってきたので、ああ、この隊はかなりヤバい隊なんだな、ということをようやく理解したのでした。

おしまい


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