コーヒーの精選方法
収穫されたコーチーチェリーから生豆を取り出す工程のことを
『精選(せいせん)』といいます。本記事ではこの精選方法の種類、
精選方法による特徴を私の知る限りまとめましたので、よければご覧ください。
コーヒーチェリーの構造
生豆を取り出す方法を説明する前に「コーヒーチェリー」について説明します。さくらんぼに良く似ていることからコーヒーチェリーと呼ばれるのですが、中身もひじょうにさくらんぼににています。
上図のような構造となっており、外側から①果肉、②粘液質、③パーチメント(殻)を全て取り除くと、生豆と呼ばれる種子が出現します。この種子を焙煎することで、コーヒーとして飲用することが可能になります。
非水洗式(ナチュラル)
ブラジルやベトナム、エチオピアなどのコーヒー生産国で行われる精選方法で収穫してきたコーヒーチェリーを真っ黒になるまで乾燥させます。
チェリーを収穫後、枝や葉っぱを取り除く選別除去を行った後に、①果肉②粘液質③パーチメントのついた状態で乾燥させます。上図一番右側の画像のように真っ黒になるまで乾燥させ、その後①果肉②粘液質③パーチメントを一気に取り外し(脱殻)、生豆を取り出すという方法です。
<工程面のメリット>
後述する精選方法に比べると、選別除去⇨乾燥⇨脱殻という3工数で生豆を取り出せるので工程がシンプルで管理する面が少ないという点がメリットで、大量にコーヒーを生産する国ではこの方法を用いないと、精選処理が間に合わないと思います(特にブラジル)
<風味の特徴>
果肉をつけたまま、乾燥工程を行うので果実感のある味わいになりやすいです。悪く言ってしまうと、ちょっと雑味感がありますがそれを濃厚とも感じられます。
収穫されたコーヒーチェリーの熟度度合に関わらずまとめて乾燥してしまうため、完熟していないコーヒー『未成熟豆』が混入してしまいます。
生豆になった段階で、重さ、大きさ、色などによる選別が行われ、未成熟豆は除かれますが、全ては除去できず、混入してしまうというデメリットがあります。
水洗式(ウォッシュド)
コロンビアや中米などの生産国で行われる精選方法で、
収穫してきたコーヒーチェリーを粗選別後、果肉を除去します。
この『パルパー』と呼ばれる機械で、果肉だけを除去することができるのですが、ここで、完熟した果実は果肉が容易に剥けますが、緑色の果肉が固い未成熟果実は果肉が剥けないように刃の調整をしており、果肉を剥けなかった未成熟果実は選別されます。※完熟果実だからといって果肉が完全に除去できるわけではなく、薄く残る場合もあります。
ナチュラルとは異なり、精選の初期段階で「未成熟果実」を取り除くことができるのがこの水洗式(ウォッシュド)のメリットです。これからパーチメントに付着した果肉・粘液質をどのように取り除くかによって
精選処理名がかわりますので、2つご紹介します。
発酵槽処理(フリーウォッシュド)
粘液質を微生物や酵母によってパーチメントについた粘液質や残った果肉を分解する方法です。
果肉や粘液質はこの発酵槽処理によって、水で簡単にはがれるようになります。ただし、この発酵後の排水は有害である恐れがあり、環境面での懸念があります。実際、この発酵槽処理をしている現場では鼻をつんざくような刺激臭がします。この発酵槽処理の後、乾燥されパーチメントコーヒーの状態で保管されます。
・メリット
発酵槽処理ならではの独特なフレーバーがつきやすい。
未成熟豆の混入率が低く、クリーンカップ※になりやすい。
・デメリット
発酵槽処理の時間が長いと嫌なフレーバーがつく(管理が難しい)
排水が環境面での懸念がある。
※クリーンカップ・・・フレーバーを損なう苦味や渋みなどの雑味が無い味わいのこと
・フリーウォッシュドドライファーメンテーション?
水質汚染等の問題から水に浸さず、そのまま発酵槽に置いておき、ビニール等で覆い、粘液質を除去する方法です。フリーウォッシュドに比べると水を使用しない分環境にやさしい。
正式な名称はわかりませんが、私は『フリーウォッシュドドライファーメンテーション』と呼ぶようにしています。後述するパルプドナチュラルとほぼ一緒なので、水洗式なのか?と産地の方に聞きましたが、「美味しいコーヒーになれば工程名なんてなんでもええんやで」と言われたので、納得。
機械処理(パルプドアンドデミューシレージド)
残った果肉や粘液質を機械で強制的に剥離する方法です。
上図のような円筒状の機械が粘液質を強制的に剥離する機械です。
洗濯機のように内部が回転する構造になっておりまして、
壁面のスリット部分に豆が衝突して、粘液質が削り落とされ、
豆同士の衝突によって、粘液質が削り落とされることで、
粘液質と残った果肉を強制的に剥離します。
剥離後、水洗い経て乾燥され、パーチメントの状態で保管されます。
・メリット
発酵槽処理に比べて排水量が10分の1ほどで済み、環境面に優しい
未成熟豆の混入率が低く、クリーンカップになりやすい。
・デメリット
小規模農家が導入するには初期費用(機械導入費)が高い
上記、発酵槽処理(フリーウォッシュド)と機械処理(パルプドアンドデミューシレージド)を含めて、水洗式(ウオッシュド)と呼ばれています。いずれの粘液質除去方法でも果肉を除去するパルパーで未成熟果実を選別できることがメリットです。
パルプドナチュラル
ブラジルでは非水洗式(ナチュラル)での精選が主流ですが、
品質向上のために水洗式を行いたいが、フリーウォッシュドでは
大量生産=大量の環境汚染排水発生となってしまうのが懸念点でした。
発酵槽処理による排水が問題なら、水洗式の1番のメリットである
『パルパー調整による未成熟豆選別』は採用して、粘液質と果肉のついた
パーチメントコーヒーは従来通り乾燥させればいいやん! という発想で
コーヒーの精選機器メーカーが誕生させた精選方法だそうです。
・メリット
未成熟豆の混入率が低く、クリーンカップになりやすい。
ウォッシュドに比べて使用する水量がすくなくて済む
果肉、粘液質に残った糖分をつけたまま乾燥するので、甘味やコクのある味わいになりやすい
・デメリット
粘液質をつけた状態での乾燥となるので、糖分が結晶化しベトベトするため、扱いが難しく、乾燥に時間を要する。全体的に均一した乾燥を行うには何度も攪拌して乾燥を促す必要があり、乾燥したという見極めが難しい
※粘液質の残し具合は後述するイエローハニーぐらいの25%ほどだと思います。
ハニープロセス
パルプドナチュラルとほぼ同じ精選方法なのですが、パルプドナチュラルという言い方はブラジル産のコーヒーに代表されますので、果肉・粘液質の残し具合によって呼称が異なることから分けて説明します。
コスタリカやグアテマラなど中米生産国では水洗式(ウォッシュド)が主流ではありますが、品質の向上、環境面の配慮から、果肉除去後の果肉と粘液質のついたパーチメントをそのまま乾燥させる『ハニープロセス』という精選方法を行っている生産者もいます。
上述のパルプドナチュラルとほぼ同じなのですが、パルパーにて果肉を除去する際、細かな調整を行うことで、粘液質をどこまで削り取るかを調整しています。この粘液質の残す割合によって、呼称を変えているそうです。
・ブラックハニー・・・粘液質をほぼ除去しない、果肉も残るレベル
・レッドハニー・・・・・粘液質を50%ほぼ残す
・イエローハニー・・・粘液質を25%ほど残す
・ホワイトハニー・・・粘液質をほぼ除去する
※コスタリカのある生産者が言っていた割合ですので、世界共通とかではナイです。他国の方に聞いたら『レッドは100%粘液質残すで!』と仰っていました。
イエロー、ホワイトぐらいの調整だと味わいに与える影響は繊細なものですが、ブラック、レッドぐらいになるとわかりやすい風味差が感じることができます。
ただしパルプドナチュラル同様、乾燥処理が難しいそうです。
ブラックハニーぐらいになると、果肉まで残すぐらいの調整になるため、
乾燥工程にはより注意が必要です(乾燥中に欠点豆が発生しうるため)
・メリット
未成熟豆の混入率が低く、クリーンカップになりやすい。
ウォッシュドに比べて使用する水量がすくなくて済む
果肉、粘液質に残った糖分をつけたまま乾燥するので、甘味やコクのある味わいになりやすい
・デメリット
・粘液質をつけた状態での乾燥となるので、糖分が結晶化しベトベトするため、全体的に均一した乾燥を行うには何度も攪拌して乾燥を促す必要。
・レッドハニーぐらいになると果肉も残るため、乾燥処理中にしっかり管理されていないと 乾燥中に水分過多等の問題で欠点豆が発生する可能性が高くなる
正式な名称は判りませんが、機械で除去した粘液質を取り出して、これから乾燥させる粘液質に塗りたくる(添加する)方法もあります。後づけハニーとでも名付けよう。
スマトラ式(セミウォッシュド)
スマトラ式はインドネシアで良く行われる精選方法です。
この方法では収穫して果肉を除去するところまではウォッシュドと同じなのですが、ここから粘液質をつけたまま、水分量が30%ほどで乾燥を終了します。(ウォッシュドであれば約11~12%ぐらいまで乾燥させてます)
その後、パーチメントを取り除き生豆を取り出してから、
さらに水分量を下げるために乾燥させるといった工程を経ており、
この2回目の乾燥によって、独特の深緑色の生豆になります。
代表的な精選方法まとめ
上記が代表的な精選法でした。まとめるとこのようになります。
様々な精選方法
これまでナチュラル(非水洗式)、ウォッシュド(水洗式)、パルプドナチュラル、ハニープロセス、スマトラ式という代表的な精選方法について説明してまいりましたが、ここからは一部の生産者しか行っていないこだわりの精選方法について記載します。
※明確な定義や手順はありませんので、私の中での解釈となることご了承ください。
アナエロビック(嫌気性発酵)
フリーウォッシュドでは発酵槽にて粘液質を除去するという説明をしました。ほとんどの場合この処理は屋外で行われますが、このアナエロビックという精選では密閉された発酵槽や、タンクの中で無酸素状態で粘液質除去を行います。
有酸素状態(屋外)では活動できないが、無酸素状態で活動できる微生物によって粘液質を分解させることによって、独特のフレーバーが生まれます。
この無酸素状態での発酵をアナエロビック(嫌気性発酵)といいます。
密閉されたタンク内でこの精選が行われている場合は、粘液質を分解した際に発生する二酸化炭素によって内部圧が上昇することによって、生豆に成分が浸透しやすくなり、独特で特徴的な風味をもった風味のコーヒーが完成します。
※果肉感を強める目的で、コーヒーチェリーの状態でこの発酵処理を行う場合もあります。
※チェリーの状態、さらには粘液質のついたパーチメントコーヒーの状態でも行っている ものもあり、 ダブルアナエロビックと謳っているものもあります。
カーボニックマセレーション
粘液質のついたパーチメントを密閉されたタンクに入れ、炭酸ガスをタンク内に注入します。これによって内部の酸素を追い出すことができるので、前述のアナエロビック同様に嫌気性発酵を行うことができ、さらに炭酸ガスの注入によって内部の圧力が高まっているので、生豆に成分がより浸透しやすくなり、特徴的な風味を持ったコーヒーが生産されます。
アナエロビックの強化版という解釈をしています。ただ、ガスを注入しなくても時間経過でタンクの内圧はパンパンになるので、最近はあんまし見ないかも・・・
※果肉感を強める目的で、コーヒーチェリーの状態でこの発酵処理を行う場合もあります。
セミアナエロビック
密閉されたタンクではないが、ビニール袋等で酸素を追い出し嫌気性発酵を行うという方法。
ただ、実際には嫌気性発酵になっていないケースも多く、アナエロビックに比べると差別化されるほどの風味特性があるかといえば個人的には微妙なところ。
カルチャリング
コーヒーチェリーや粘液質のついたパーチメントコーヒーに、発酵を促す目的でマンゴーやバナナ、イチゴといった果肉を投入し、独特の風味を得るという目的です。フルーツ等を入れてフレーバーを加味する『インフューズド』という方法と違う点は発酵を促進させる目的で果肉等を投入しており、フレーバーは副産物的な位置づけとの事。
ただ、発酵を目的としてるとはいえ、果肉のフレーバーが強すぎるのでカルチャリングとインフューズドは正直違いがわかりませぬ・・・。
インフューズド
これは生豆の取り出し方というよりは、生豆にフレーバーを加味する工程になるのですが、コーヒーチェリーや粘液質のついたパーチメントの状態で、フレーバーを加味する目的で、ピーチや、ストロベリー、ライチなどといったフルーツの果肉を投入し、生豆にフレーバーを付加させます。ものすごくフレーバーがつき特徴的な味わいになります。
※上図の商品は、果肉をつけた状態で密閉されたタンクでイチゴとワイン酵母を加えて嫌気性発酵を行い、 果肉除去後に、粘液質をつけたままイチゴの果肉とワイン酵母を加えてさらなる嫌気性発酵を行った、 「ダブルワインイーストカルチャリングアナエロビックハニーストロベリーインフューズド」という 私が過去に扱った商品の中でも史上最長の商品です。フルーツガムのような香りがしました。
『いや、それって焙煎した後のコーヒーにフルーツの香料かければいいんでね?』なんて野暮なコトは言わないでくだされ。そりゃあフレーバーを付けるという観点から言えば、焙煎したコーヒーに香料かけた方が安く仕上がります。
ただ、果肉でフレーバーを加味したインフューズドコーヒーは単にフレーバーがついただけではなくなにか果肉感というかフルーツの濃厚感を感じます。なにより、少しでも付加価値をつけて高くコーヒーを販売したい!
という生産者の努力が感じられます。
しかし、生産者の中には「生豆に香料ぶっかけてインフューズドとして売っちゃお!」とか販売者の中にも「焙煎豆に香料ぶっかけてインフューズドとして売っちゃお!」と考える輩もいるそうで、注意が必要。
これは「フレーバーコーヒー」なのか「レギュラーコーヒー」なのかという議論があるのですが、私は生豆の精選段階で果肉等でフレーバーを加味したものはレギュラーコーヒー、焙煎豆の段階で香料でフレーバーを加味したものはフレーバーコーヒーという解釈をしてます。
正直なところ、インフューズドコーヒーと言われずに飲んだらフレーバーコーヒーだと勘違いしてしまうと思いますが、付加価値を生み出すために試行錯誤した努力を一括りにフレーバーコーヒーにまとめる必要は無いと考えてます。
バレルエイジド
これは精選途中というより、生豆の状態またはパーチメントコーヒーの状態で、使用済みの酒樽の中で、一定期間保存することで、お酒のフレーバーを付加するというもので、生産国で保管中に行うこともあれば、消費国で行う場合もあるそうです。
そのお酒ならではのフレーバーがホワっと感じられるので、
お酒好きの方には喜ばれるコーヒーです。
以下の画像はコーヒチェリーをラム酒を製造するのに使用した樽に投入し、
嫌気性発酵(アナエロビック)をした、ラムオークバレルエイジドアナエロビックです。
私自身お酒は弱く、お酒の知見もないのですが、
「購入後の生豆を自社でバレルエイジドしたら高く売れるぞ!」という興味とスケベ根性で両手の大きさぐらいのオーク樽を購入し、内面が真っ黒になるまで焼いて、スーパーで購入してきたウイスキーを1か月ほど入れた後、ブラジルの生豆を一か月ほど保存させたなんちゃってバレルエイジドブラジルを作成したことがあります。
販売していないことからご察しかと思いますが、な~~~~~~んの風味変化もない通常のブラジルコーヒーでした。やはり長期間お酒を保管した樽でないとフレーバーは移行しないようです。
まとめ
かなり長くなってしまいましたが、私の知る限りの精選方法を記載させていただきました。精選はコーヒーの生産において栽培に次いで重要な工程で、最終的に一杯のコーヒーになった時の風味に大きく影響します。
ナチュラルなら果肉感のある後口やわらかな味わいかな・・・?
ウォッシュドならクリアーで繊細な味わいかな・・・?
ハニープロセスなら甘味ある滑らかな味わいかな・・・?
という想像ができるので、消費者も販売者もひとつの目安にできる
重要な工程なので、風味の判断材料の1つとして理解しておくと、
より素敵なコーヒータイムが過ごせると思います!
以上、ここまでご覧いただきありがとうございました。
また新たな情報出次第、更新していきたいと思います。
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