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アトツギの挑戦#7「人・環境に優しい板金工場をつくる4代目 意外な最終目標とは」
新規事業や組織改革に取り組む筑後地区のアトツギ経営者にフォーカスする「ネクストリーダーズ」
第7回は柳川市のものづくり現場から。自然・アウトドアをこよなく愛する4代目が、将来に向けた新たなチャレンジに動き出しています。
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「設備がすごい板金屋さん」
「中山の大藤」が有名な柳川市三橋町中山、みやま市との境に程近いこの地域で板金業を営む株式会社ヤスナガ。
精密機械から水産機械、さらには橋の部品まで、様々な企業の依頼を受けて、金属に「切る、曲げる、溶接する」といった加工を施していく会社だ。
働くスタッフたちにこの会社の特徴を尋ねると、皆口を揃えて「設備が充実した会社」と答える。
90年程前に鍛冶屋として創業したヤスナガだが、これまで少しずつ業態を変えてきた。
【ヤスナガの変遷】
初代 鍛冶屋として創業(1930年頃)
2代目 鉄板を切ることに特化した「シャーリング業」を始める(1964年)
3代目 曲げ・溶接の工程も含めた「板金業」を組織化(1990年代初頭、現社長)
ヤスナガは設備投資にも積極的に取り組んできた。
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また、ヤスナガは主要な機械の多くを2台所有しており、万が一片方が故障しても生産が続けられるような態勢を整えている。
変化と投資を欠かさず成長を続けてきた工場だといえる。
4代目は異業種からのUターン
そんなヤスナガの4代目が安永翔太さん。(現在、品質保証部に所属)
同業の企業で経験を積むアトツギも多い中、翔太さんは全くの異業種を経て家業に入った。
アウトドア用品の大手「モンベル」に新卒から6年間勤務。主にカヤックやラフティングのガイドとして、全国のアウトドアフィールドを駆け回ってきた。
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翔太さん
「大学に進学する時には父から『継がせないから好きなことをやるように』と言われていたので、戻るつもりはなかったのですが・・・」
ちょうど結婚を機に、福岡へのUターンを検討している時期に家業に入ることを打診されたという。
翔太さん
「独立してアウトドアのツアーガイドをやることも考えていたのですが、経営者としての視座を上げ、幅を広げるためにも家業に入る決断をしました」
板金工場で生かす、アウトドアの視点
アウトドアの領域で自然の恵みに触れる経験を重ねてきた翔太さんは、家業に入ってからもその視点を大事にしている。
翔太さん
「自分が美しいと思ってきた景色や自然が汚されつつあるという感覚があった。普通の人よりもSDGsについては自分事として捉えられた」
時代に合わせて業種の形を変え、積極的な設備投資で成長を続けてきたヤスナガ。
4代目の翔太さんが取り組んでいる変革は「サステナブルな板金工場づくり」だ。
翔太さん
「これまでは、品質・納期・コストが製造業の付加価値の基本でしたが、そこに『サステナビリティ』という新たな価値を加えていきたいです」
具体的には次のようなことに取り組んでいる。
【株式会社ヤスナガ 4代目が実践するサステナビリティへの取り組み】
1. 各課ごとにSDGsへの取り組みを決めて実行。3か月後に社内で活動報告をする。
→これまでに「アルミ缶回収」「紙コップ&ペーパータオル削減」「ペーパーレス」「地域清掃」といった活動が展開され、現在も続いている。社員がSDGs活動を自分ごととして捉え、「環境に対する活動=当然やるべきこと」と認識されつつある。
2. 環境マネジメントシステム ISO14001の取得
→事業を行っていくうえでの環境リスクを低減し、社会的な信用を得ることができる。
参考: https://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/04-iso14001.html
3. CO2の排出量=燃料を月にどれくらい使ったかを計算し公開する(準備中)
→取引先のサプライチェーン上の算定に貢献できる他、自社のステークホルダーに取り組みをアピールできる。
「親亀こけたら皆こける」
翔太さんが、企業としてSDGsに取り組む必要性を強く感じるきっかけになったのが「SXの時代」という本に登場するこちらの図。
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「経済」すなわち企業の活動は「社会」の上に成り立っていて、さらにその下の土台に「環境」があるという考え方を、重なった3匹の亀になぞらえている。
親亀である「環境」が崩れてしまうと、「経済」も共倒れになってしまうということを示している。
翔太さん
「この絵を見た時に『なるほど!』と思いました。環境がないと自分たちの幸せはないのかと。社内のメンバーにSDGsをやっていく理由を説明した際にも、この絵を見てみんな納得してくれました」
意外な最終目標
自然環境に対する思いは、翔太さんが生涯をかけて取り組みたい目標にも表れている。
翔太さん
「日本各地の海・山・川にシェアハウスのような拠点を持ち、その拠点で自然を楽しむライフスタイルを広げたいです」
彼が「アウトドアBASE計画」と呼ぶこのプラン。
自然との触れ合いを通して環境を大切にする心を育んできたという経験が根底にある。
板金屋として何ができるか
翔太さん
「会社の事業としてやる以上 “ものづくり” という縛りがある。BASE計画につながるような体験価値を提供できる商品を模索していた時に、あるデザイナーさんから『小屋』というアイデアをいただきました」
ヤスナガの技術を使って、先述のシェアハウスの役割を果たす小屋を作るというプラン。
自分の子供のような未就学児でも安心して自然を満喫できる使い方をイメージしている。
少しずつ見えてきた家業と「アウトドアBASE計画」との交差点。
このプランは、交流のあるアトツギ仲間やアウトドア仲間からも多くの共感を得た。
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新規事業に向けた胎動が始まった
翔太さん
「とはいえ、BtoBに特化している今の会社で、いきなり小屋を作り始めるのはハードルが高い。ということで、まずはこんなものを作ってみました」
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車の後ろに取り付ける「ヒッチキャリア」と呼ばれる金属の台だ。
本来は車に入り切らない荷物を乗せて運ぶ用途がメインだが、写真の通りテーブルや腰掛けなど、アウトドアでの様々な使い方ができる。
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車で気軽にデイキャンプを楽しめる公園等も多い筑後地区。
このエリアで子育てをしてきた翔太さんは、「子連れのアウトドア」という視点も大事にして試作に当たった。
翔太さん
「小さい子供を見ながらキャンプ用品を組み立てるのは想像以上に大変なので、“即出せる” という要素も大事なんです」
「アウトドアBASE計画」の第一歩として試作したヒッチキャリアだが、これから安全面のテストを重ね、ゆくゆくは商品化したいと考えている。
「発信」が次のきっかけを呼ぶ
アウトドアを軸に人生を豊かにしてきた翔太さんは、積極的にSNSで家業やプライベートについて発信している。
早速、ヒッチキャリアの投稿を見たアウトドア関係者から別の商品製作の相談も受けた。
こうした発信が次の商品開発のヒントにつながることを実感する機会にもなったという。
翔太さん
「最終的にはこういうBtoCの商品を作り広めることが、会社を知ってもらうことにつながり、本業のBtoBにも寄与すると思っています」
「自然・アウトドア」に対する4代目の思いを原動力に、サステナブルな板金工場は新たな一面を見せ始めている。
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