③ 「人」は悪い言葉ではない
最近気になるのは、「人」と「方(かた)」の使い分けです。
前回、犯人にも敬語を使う人がいるという話をしましたが、その続きといいましょうか。
これまた前回と同じくテレビの街中レポートで、その日にオープンしたお店に並んだ人を見て、レポーターがこのように言いました。
「朝からおおぜいの方が並んでいます」
どうでしょうか?
これに違和感を覚える人は、少ないかもしれませんね。
はい、別に間違いではないのです。
でも、ここで「方」という必要もありません。
前回も書きましたが、「方(かた)」は、敬意を込めた言い方です。
お店の列に並んでいる人は、通りすがりの人が見たら、尊敬する誰かではなく、ただの「人」です。
メディアの中だけでなく、リアルに人と話していても(実感として)「方」を標準と考えていると思われる人が最近多いし、さらに年齢が下がる、つまり若くなればなるほど「方」を使う人が多くなるようにも感じでいます。
この前ある美術番組で、縄文時代の土器の模様について数人で話をしているシーンを見ました。
40〜50歳代と思しき専門家の女性は「(縄文土器を)作った人の手の跡が…」と言っていましたが、それを受けて、隣りにいた10代の女性タレントは「作った方は…」と言いました。
私は瞬間的に「縄文人に敬語…」と思いました。でもたぶんそうではなく、彼女にとって人前で話す時は「方」が普通なんでしょうね。
ビジネスにおける「人か方か」問題
もうひとつ、ビジネスにおける「人か方か」問題をちょっと考えてみます。
社内会議で、たとえば“今後の見込み客”の話になったとしましょう。その場合、たとえ特定の誰かでなく架空の人物だったとしても、将来顧客になってくれる可能性があるならば、当然「方」となりますよね。
ただし、社内に限らず大勢の人に向かって世の中全体の動向などを話すならば、(たとえば好みの色についてだとすると)
「この年代層では、明るい色を好む人が多数を占めています」
でよいと思います。
「この年代層では、明るい色を好む方が多くいらっしゃいます」
でも間違いではないですが、何かを伝えたいとき、言葉数が多いとそれだけ内容がスッと頭に入っていきにくくなります。
つまり不要な敬語を使わず言い回しはなるべくシンプルに。というのおすすめします。
「人」か「方」かを、その話その場で自分で判断する
「相手に敬意を持っているかいないか」が、「方」を使う原則。これは「人」なのか「方」なのか迷った際の判断基準となってくれます。
つまり機械的に「人」「方」を選ぶのではなく(それは無理)、自分で判断して、迷わずその場にふさわしい言い方を選べるようになるということです。
そしてもう一度言いますが、「人」は、悪い言葉でも乱暴な言葉でもないので、人前で話すときに使っても問題はありません。
「方」派が主流になったとしても
どんな言葉も、多くの人が使うようになり、その使い方が世間に浸透していくと、最初に持っていた違和感も次第に薄れていきます。
私個人としてはまだ「方」の多用に違和感があるのですが、それでも最近はだいぶ慣れてきました(笑)。そのうち特に敬意を込める必要がないシーンでも主流になるのかもしれません。
しかしオフィシャルなシーンでボリュームのある内容を人に伝えるとき、不要な敬語は極力使わないほうが内容が伝わりやすいし、スマートな話し方といえると私は思っています。
最後にオマケ。この前あるところで聞いたのが
「僕の知り合いの方が…」
という言い方。
これはあきらかに間違いです。
「方」うんぬん以前に、「知り合い」という言葉はすでに「人」を意味しているので、そこに「方」をつけると意味が重複してしまいます。人を指す言葉は1回でOK。(「知り合いの人が…も」も重複していますよ!)
これもおそらく、丁寧に話そうという意識があってのことだと思います。