「お高い」「お安い」を考えてみた
最近気になるのが、値段の高い安いを「お高い お安い」という人が増えたことです。
だいぶ前になりますが、私よりずっと若い友達と話していたら、彼女が普通に
「あれってお高いわよね」と言ったのです。
一瞬私は、冗談で昭和のドラマのマネをしたのかと思いました。
(「まぁ、このお洋服、お高くなくて?」のような気取っていてちょっと笑っちゃうレトロなイメージ…すみません、わからなかったらスルーで)
値段の「高い 安い」に「お」は要らない
というわけで、今回は名詞や形容詞などにつく接頭語の「お」がテーマです。
(「お」はこれ以外にもさまざまな問題をはらんでいるので、この先も取り上げていきます。)
「お」の使い方について例を挙げますと、たとえば
「先生からお電話いただいた」
のように、相手への敬意を示すための尊敬語として。
あるいは
「お花」「お弁当」
のように、単にきれいないい方をするための美化語として使います。
形容詞なら、相手に関わってくる場合に「お」をつけます。
「おきれいですね」
「お寂しいことでしょう」
などはそれにあたります。
しかし値段の「高い 安い」は人にかかっているわけではないので、「お」をつける必要はありません。
ちょっと話はそれますが。
同じ「高い」でも、たとえば
「お高くとまる」(すましていたり、人を見下した態度をとっていること)。
これは人に関わる表現ではありますが、それよりも、そのすました態度を揶揄(やゆ…からかうの意)するため、逆説的に「お」を付けているように思います。
もっともこのフレーズは現在の日常会話ではあまり使われなくなっており、私はやっぱり昭和のドラマを連想してしまいます。あるいは大昔の少女マンガ。
「お高こうございます」ならバランス的にOK
話し言葉も書き言葉も、全体のバランスが取れていないと奇妙に感じられるものです。
もし値段の「高い 安い」にまで「お」をつけるのなら
「お高うございますね」
とまでいけばアリだと思います。
「お高い」に限らず話し言葉全体が丁寧で、さらにその人の佇まいとか身のこなしとか。
そういうものすべてが整っている人から「お高うございます」というフレーズが出たなら、私は美しいと感じると思います。
だいぶ前になりますが、料理番組で「おいしゅうございます」という女性料理評論家の決め台詞?が話題になったことがありました。彼女はまさに“そういう人”で、視聴者もおそらく「上品」と感じつつ、でもあまり聞いたことがないセリフなので、笑いと称賛が入り混じった不思議な受け止め方をされたように記憶しています。
値段の話に戻ります。一方、「買い物にいったら欲しかったものがあったんだけど、お高いから買うのやめた」というのはどうでしょう? へんに感じませんか?
最近はこういうカジュアルな会話の中でも「お高い」という人がけっこういます。
「欲しかったものがあったんだけど」と来たら、
「高いから買うのやめた」のほうがすんなりきますよね。
上の句下の句じゃないけれど、話し言葉というのはそういうものです。
(ただ敬語も地域によって違っているらしいので、「お」の使い方にも地域差があるかもしれません。私がここで書いているのは東京近郊で使われている標準語の敬語についてですので、あしからずご了承ください)
ビジネスや接客での「高い 安い」
ではビジネスシーンはどうでしょうか。
ビジネスマンどうしの話の中では
「いま市場ではこういったお高い機種が支持されています」ではなく、「高額の機種」「高額商品」などというのがふさわしいのではないでしょうか。
高額という言葉が合わないときでも、
「消費者がこれを高いと感じでいるなら…」というように、「お」をつけない方が場にふさわしいしスマートです。
一方接客業において、消費者に直接商品を勧める際は
「クオリティは同じでも、こちらの方がお安いのでおすすめです」などと言いますね。
これは「安い」ことに対してではなく、お客さまへの敬意を表すための「お」ということです。
さて。さんざん「高い安いに お は不要」という話をしてきましたが…。
これは前にも書いたことですが、言葉は大多数の人が使い始めると、その使い方が主流となっていくことが多いのも事実です。
私にはまだ、日常会話の中で「お高い」というのはかえって品がなく感じられていますが、ともかく最近「お高い」を聞く頻度が高まってきているので、この先はどうなっていくことやら。
しかし、なぜ「高い 安い」に「お」がつけられはじめたのか。
その原因ははっきりわかりませんが、けっこうメディアの影響だったりするのかとも思います。人間、TVなどで誰かがいうと…
というところまで書いて、ふと「あれ?もしかしてTVの影響?」と思い、いま検索したところ…
でもお高いんでしょ?
というワードがバンバン出てきてびっくり。
読んでみると、なるほど、TVショッピングの常套句のようです。ほとんど見たことがないので知りませんでした。さらに、あるバラエティ番組でギャグ的に使われて話題になっていたこともあったようです。
なんと「でもお高いんでしょ」という文字入りTシャツまで販売されていました(笑)。
TVショッピングにおいては、いわゆる接客用語として「お高い」が使われてきたのでしょう。
でもみなさん、これはあくまで接客用語であることをお忘れなく。しかもこれって、ある意味ちょっと笑わせにいっている気がするのですが…どうでしょうか。
とはいえ案外このあたりから「お高い お安い」がじわじわと視聴者の脳に浸透していったのかもしれませんね。