SaaSスタートアップで働くために必要な5つの覚悟について
この記事はSaaSビジネスアドベントカレンダーの18日目です。
僕は今年の5月にデジタルマーケのコンサル企業から、デジタルマーケのSaaS企業に転職しました。デジタルマーケ業界は8年目ですが、SaaSビジネスに関しては1年生です。同じデジタルマーケ業界ですが、実際に転職してみると色々と勝手が違い、多くの発見があります。上手くいかなかったこともたくさんありました。
この記事は、転職前の自分に読ませたいと思って書く記事です。SaaSの特性を理解して努力すれば、もっと少し早く成果が出せたんじゃないかという反省を、過去の自分へのメッセージとしてまとめました。SaaSへの転職を考えている方も、参考にしていただければ幸いです。
SaaSスタートアップに転職して6ヶ月が経ちました
今、僕はReproというマーケティングSaaSで、Webサイト向け部門の事業責任者をやっています。Reproは元々アプリ向けマーケティングプラットフォームとして成長してきましたが、昨年末よりWeb版がローンチされました。今年の5月からプロダクトを引き継ぐ形で、0.5を100にする、みたいなフェーズに取り組んでいます。
業務内容は、事業の売上責任を持ちつつ、マネジメント・メンバー育成・採用・開発との交渉・セールス実務・エバンジェリスト的な登壇活動などを行っています。業務領域としては向井さんのカンマネ記事にあったものと近しい感じがします(自分はこんなにうまく立ち回れてないですが…)。
前職ではナイルという会社に新卒から7年勤めており、コンテンツマーケティングやSEOを中心としたデジタルマーケのコンサル事業に所属していました。当初コンサルタントがほぼ存在しなかった状態からJOINし、最終的には30名近いコンサル部門のマネージャーをつとめました。前職でも、部門のPL責任を負いつつセールスおよびコンサルティングの実業務を行う感じで、職務領域としては現在と大きく違いはありません。
しかし事業領域も職種も似たような形ではあるものの、実際に転職してみると取り組みの感覚はまるで違いました。SaaSスタートアップの特性や勢いを理解して時間を投資していく必要を感じました。この記事では、僕がReproに入社して半年経って学んだことをアウトプットしてみます。
SaaSスタートアップで成果を出すためには、いくつかの覚悟が必要です。
①トップラインの”劇的な伸び”にフルコミットする覚悟
SaaSはストックモデルであるため、順調に顧客基盤を広げられれば指数関数的な事業拡大が可能になります。ただ逆に言えば、イケてるSaaSスタートアップは半端なくトップラインを伸ばさないとダメだよという暗黙の前提があります。いわゆるT2D3というやつで、当たり前にしている数字感がかなり異なります。
SaaSビジネス界隈でよく見るグラフ。
https://techcrunch.com/2015/02/01/the-saas-travel-adventure/
逆にコンサルは人日単価は高くなるものの基本的に人工商売であり、人の採用および育成と事業がおおむね正比例します。そのため2倍・3倍といった成長は規模が大きくなるほど構造的に難しいのが現実です。
SaaSスタートアップで働く人は、劇的な売上成長が常に目の前にあり、現状と同じ状態が続くことはありえないと覚悟する必要があります。前職もベンチャーなので半年~1年に1回くらいは体制を変え、僕自身もやることをピボットしてきていましたが、それ以上のスピード感があります。
重要なのは、このトップラインの伸び幅が一定以上のペースでないと、後述する投資活動が制限され、一気に勢いが鈍化してしまうということです。特にPMF段階にあるサービスにおいては責任者が現場に出まくって顧客のニーズをつかみ、「どうすれば売れるのか」にまず一番頭を振り絞るというのがめちゃくちゃ大事です。
僕ははじめ割と多方面で問題解決をしようとしすぎ、売り方の解像度を高めるのに時間がかかってしまったという反省がありました。マネジメントの立場であれば、一番顧客に近いところから順に解像度を上げていくのがよいでしょう。
またSales以外のポジションメンバーにおいても、「売上目標も人員規模もバカみたいなスピードで伸びていくものだ」と認識し、変化を受け入れ先手を打つ意識が常に必要でしょう。
②大胆に先行投資を行い、気合でワークさせる覚悟
SaaSのメリットの一つは、先行投資がしやすいということです。基本的に年間契約で、中期的な売上が立つことが見込まれているため将来の売上を前提とした大幅な先行投資がしやすいビジネスモデルです。いわゆる40%ルールというやつで、売上成長率が高ければ高いほど大胆な投資が可能になります。
一方で、この先行投資がワークしなければSaaSビジネスは瓦解します。先述したトップラインの劇的な伸びのためには、先手を取ってマーケティングを成功させ、また人員も確保して規模拡大に備える必要があるのです。
大きな伸びを支えるためには、通常の会社では考えられないような非連続的な発想によるマーケティング投資や採用のドライブが必要になります。ここでビビらず踏み込むという覚悟が必要になります。
リスクを承知でプロアクティブに踏み込みたいという人には最高の環境ですが、失敗をためらってしまうような人には向かないかもしれません。
僕も入社直後から早速、過去参加したことのない大規模なマーケティングイベントや相当数の展示会などへのスポンサー参加の意思決定が求められました。基本的にはすべてGOとし、入社3ヶ月くらいから自分でも登壇したりしました。回数を重ねる中で個別の施策もブラッシュアップされ、ちょうど今のリードを支えてくれる結果になっています。
正直、やると決めた施策をすべて卒なくこなせるわけではありません。失敗の方が多いくらいです。現場は常に人材不足であり、今あるメンバーの中で施策をやりきる必要があります。失敗を許容して試行を積み重ねながら、重要な投資に対しては「最終的には絶対に成功させる」という気合ドリブンでワークさせるしかなかったりします。
なので、SaaSスタートアップにジョインされる方におかれては、「やったことないわりにデカい投資」は発生するものだと受け止め、なんとかする精神でやってくのが大事だと思われます。特にマーケ部門と人事部門はヒリヒリすることが多いと思います。笑
③顧客バリューと新規獲得を両立する覚悟
SaaSのもう一つの特徴は、顧客と相互に作用し合い、サービスのレベルアップを常に行うことで、チャーンレートを極限まで下げる努力が行われるということです。古賀さんの記事にあったように、
Always in Betaで、アップデートし続けていく必要があること
はSaaSの大きなポイントです。
コンサルやその他ビジネスでも当然既存顧客の維持継続およびアップセルは重要命題ですが、SaaSではプロダクトそのものとカスタマーサクセス体制を合わせて一つのサービスとして扱うことができるため、改善の余白が柔軟であるというのが面白いポイントだと思います。
これにより急速な事業拡大と顧客成果が矛盾することなく同居可能なのが、SaaSの大きな特徴だと言われています。が、、、やはりそんなスムーズにいくことばかりではなく、課題はたくさん発生します。それでも全力で両立を目指すという覚悟がSaaSプレイヤーには必要でしょう。
これに関してはうちのChief Customer Officerであり海外責任者でもある佐々木さんが書いた記事がぐっと来ますね。KPI達成のための分業が進むと短期思考・部分最適化に陥るが、最終的には顧客バリューが至上命題。「お前のKPIは俺のKPI」作戦。
④みずからは黒子に徹し、プロダクト価値を押し上げる覚悟
Reproが手掛けるデジタルマーケティング領域には数多くのSaaSが存在し、しのぎを削っています。その中でReproがひとつこだわりをもってやっているのがカスタマーサクセスです。
プロダクトの価値とはつきつめると「売上を伸ばす」と「コストを削減する」の2種類にいきつくわけですが、その中でも特に「売上を伸ばす」タイプのSaaSは運用負荷が大きく、SaaSを導入したはいいけれど使いこなせずにただの金食い虫になってしまうパターンも多いという現状があります。
これはある種業界の影の部分でもあります。耳障りのいい言葉で導入を勧めるものの、身の丈にあっていないプロダクトを導入してしまうというケースです。これは提供者側(ベンダーor代理店)も、導入側にも責任があります。
これを防ぐため、Reproでは以前よりカスタマーサクセスチームの編成に力を入れており、マーケティングノウハウの提供力を競争優位性になるまで磨き上げています。
クライアントとCo-Growthしている様子
ところが、このカスタマーサクセスによるノウハウ提供の強みにこだわるあまり失敗がありました。営業提案の段階からコンサルのようにやたら事前分析を行い、具体提案を作っていったのですが、労力の割に全然響きませんでした。
コンサルはある意味顕在化している課題+αに対して「私がその課題を解決できますよ」ということが証明できれば売れるのですが、SaaSでは「このプロダクトが継続的にその課題を解決してくれますよ、長期的にはもっと良いことがありますよ」ということを示さねばなりません。営業が考えた具体的な施策案自体はさほど意味を持たなかったのです。
必要なのは、ヒアリングを通じてプロダクトが解決できる顧客課題を広げ、大きな絵を書いてあげることでした。このあたりについては坂本さんの記事からぜひどうぞ。
あくまでバリューの主体はプロダクト、主役はクライアントであり、カスタマーサクセスは並走する黒子なのです。クライアント課題を解決するメインソリューションはプロダクトである、という前提で商談を導かないと導入には至りませんし、導入後もあとあと大変です。
⑤開発チームへ、現場のニーズを伝えすぎるくらいに伝える覚悟
SaaS顧客の成功・維持および新規獲得のためには、プロダクトのアップデートが命です。顧客のニーズを常に拾い、プロダクト自体を育てなくてはなりません。
無限に湧き出る要望に対して開発リソースは有限ですから、いくら優秀な開発陣でも実現できるのはほんの一握りです。だからこそ、次に開発する機能の選択はものすごく重要になります。開発の順序一つで現場にたいへんなインパクトが生まれるという緊張感を、開発も現場も共有してコミュニケーションを取ることが必要です。
僕が入社してまだ数ヶ月くらいのとき、機能面でとあるクライアントのニーズを満たせていたかったため、次善策としてCSチームが運用でオリャっとカバーする力技を行っていました。ある時の全社集会で、CSチームの苦労を皆に知ってほしく、ねぎらいも意味を込めて「これをカバーしてるのってすごいよ」という話を全社に向けて共有しました。
反応としては、CSチームへの称賛もありましたが、後々エンジニアから「あの発表はめちゃめちゃプレッシャーになった」という話をされました。開発スピードへの間接的な圧力と捉えられたようです。笑
僕としてはプレッシャーをかけるつもりはまったくなかったのですが、そこで初めて「現場の状況というのはこんなに伝わっていないものなんだ」と実感しました。なんとなく話して伝わった気になるのではなく、個別でも全体でも何度も繰り返し話していく必要があるのだと感じました。
余談ですが、コンサル事業をやっていた自分にとって、「サービスを伸ばす」とは「人を採用するor育てる」とほぼ同義でした。もちろんこれはこれで重要で面白い仕事なのですが、エンジニア部隊が全力で並走してくれて、自分の手の外でサービスがどんどん良くなっていくというのは凄く感慨があります。
まとめ
転職して6ヶ月。SaaSスタートアップで成果を出すには、
①トップラインの”劇的な伸び”にフルコミットする覚悟
②大胆に先行投資を行い、気合でワークさせる覚悟
③顧客バリューと新規獲得を両立する覚悟
④みずからは黒子に徹し、プロダクト価値を押し上げる覚悟
⑤開発チームへ、現場のニーズを伝えすぎるくらいに伝える覚悟
という、5つの覚悟を持ち続けることが重要だと学びました。SaaSは美しいビジネスモデルだと言われますが、その内実としては凄まじいスピードで変化する荒波の中を、バランスを取りながらもがいて直進する泥臭さが必要なのだと思います。
まだまだできているとは言えないですが、改めてこの覚悟を胸に事業に邁進していきたいと思います。
覚悟という割と強めの言葉を使いましたがw、進化するプロダクトのそばで、優秀なメンバーと一緒に試行錯誤しながら仕事をしていくのは本当に楽しいですよ。ホントですよ!w
おわりに: 宣伝とバトンタッチ
Reproでは、複雑化するマーケティングコミュニケーションを最適化し、Customer Engagementを広めるための仲間を募集しています。簡単ではないけどヒリヒリワクワクする仕事を一緒にやりませんか?
Sales・CS・Marketingなど全方位で人材募集中です。事業はここからさらに加速していきますよ。
僕のTwitter・Facebookからのご連絡もお待ちしてます。
また、1月22日(水)にRepro初の大規模カンファレンスを行います!
「Customer Engagement」をテーマに、USバーガーキングのMarketing Managerをはじめ、名だたる企業のトップマーケター、さらには元メジャーリーガーの松井稼頭央さんも登壇!
面白い予感しかしませんね。そしてなんと参加費無料です。早くも席が埋まりつつあるので申し込み急げ!
明日はAppsFlyerカンマネの大坪さんより、「組織とリーダーシップ」についてです。お楽しみに!