【書評】戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則 本田哲也著
本田哲也氏の「戦略PR」。2009年に初版が発売となり、戦略PRという言葉を日本に定着させる契機となった著作。
本書で提示された3つのキーワードが
おおやけ:社会性を担保。マスメディアの得意領域
ばったり:偶然性を演出。SNS/クチコミの得意領域
おすみつき:信頼性を確保。インフルエンサーの得意領域
「商品便益」「世の中の関心事」「生活者の関心事とメリット」この3つをカバーするストーリーを作り、発信する。
この例えはわかりやすいですね。相手(生活者)の関心事に寄り添い、世の中の関心事(社会性)も取り込んだ上で、商品便益(自慢)を伝える。
この「戦略PR」の続編にあたるのが「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」。
2017年4月発売の書籍で、ちょうどこの年の7月に私がマレーシアから帰任し、米国でのPRプロジェクトの責任者を任命された。当時、何度も読み返し使い倒した書籍です。
今回は、「おおやけ」「ばったり」「おすみつき」に、「そもそも」「しみじみ」「かけてとく」が加わり、6キーワードとなった。
そもそも:普遍性の視座
しみじみ:当事者性を醸成
かけてとく:機知性の発揮
言われれば納得する普遍的な内容であるが、日常、あまり意識することがない。従って、改めて焦点があたると新鮮に感じ、印象に残る。「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換。
そもそもの事例として紹介されていたのが、ポーラ化粧品の「Call Her Name」プロジェクト。
子供ができて母親になってしまうと、家庭では一人の女性とは見られなくなる。それに対し、「ママ」ではなくファーストネームで呼ぶことで19名の被験者の内、美のホルモンと呼ばれるオキシトシンの平均濃度が15.9%増加したそうだ。
「おおやけ」がその時点での「社会的な横の広がり」だとしたら、「そもそも」は時間の流れを見る「縦の時間軸」という説明は実にわかりやすい。
「しみじみ」とは、当事者性の醸成。自分ゴト化させ、感情に訴えるストーリーテリングとも言い換えられる。
しみじみの事例は、フィリップスの「Breathless Choir(息のできない合唱団)」
呼吸器官に障害や病気を持つ、同社の呼吸補助機器のユーザーを集め、著名な指揮者を招聘。合唱の特訓を行い、ニューヨークの伝統あるアポロシアターで公演を行うという壮大な企画。
英語の動画ですが、英語ができない人でもほぼほぼ理解できる内容と思います。
呼吸補助機器も動画にさりげなく登場していますが、それ自体の効果よりも感動のストーリーを通じて、フィリップス社への好意度があがる。コーポレートブランディングとしての効果がメイン。
「かけてとく」とは機知性の発揮。一休さんで有名なとんちをPRクリエイティブに応用すると考えるとわかりやすい。
かけてとくの事例として紹介されたのが、バーガーキングの事例。
LGBTを支持するイベント「プライド(Pride)」期間中に発売された特別仕様の「プラウドワッパー(Proud Whopper)」。
虹色のラップに包まれた謎のバーガーが突如登場。店員に尋ねても「私も良くわかっていないの」との回答。
気になって購入して食べてみると中身は通常のワッパー。そして、ラップの内側には「We are all the same inside(中身は皆同じ)」というメッセージが。
機知性の高いコミュニケーションは、受容性の向上や拡散性の強化といった本質的なPR効果を狙う大切な要素。PRプランナーの腕の見せ所。
本書最後の事例は、「片づけの魔法」で有名な近藤麻理恵(こんまり)さん。米タイム誌で「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた同氏の事例を戦略PRのフレームワークに当てはめて解説。
こんまりさんの事例は、同書をプロデュースした土井英司さんの記事がわかりやすいのでご紹介します。
以前、土井さんのセミナーを受講した際に聞いたエピソードが印象的です。土井さんが夫婦関係で悩まれていた際、こんまりさんが「私が相談に乗るわよ。なんと言っても、私は不要なものを捨てるプロなんだから」と(笑)。
本田さんのフレームワークで言うと「おおやけ」×「かけてとく」という感じでしょうか?