見出し画像

Interview vol.19 住田明世さん(元町映画館理事)「神戸のみなさんが観たいと思うような映画を上映したい」 

 第19回は元町映画館の開館準備段階から携わり、2013年から一般社団法人元町映画館の理事を務める住田明世さんです。


■社外の目線から映画館についてコメントすることが自分の役割


―――住田さんは元町映画館でどのような立場を担われているのですか?
住田:私は現場の代表でもある高橋勲と二人で、一般社団法人元町映画館の理事をやらせていただいています。もともとは、2010年に元町映画館を立ち上げた際、発起人であり、同館が入居しているビルのオーナーである堀忠さんにお声がけをいただき、最初に出資をした一人です。2013年に代表理事、2019年からは理事として元町映画館に携わっています。月に一度開催する経営会議で意見を述べ、映画館の運営に必要な議論を行っています。理事の一人は現場で働いている高橋なので、私は社外の目線からコメントすることが自分の役割だと思っています。

―――元町映画館は今年の8月で15年目を迎えますが、アフターコロナ時代になっても観客動員数が戻らないという苦境を脱せず、昨年4月からサポーターズクラブをスタートさせました。これは一般社団法人元町映画館の社員によるプロジェクトとして立ち上がっていますが、改めてこのサポーターズクラブの狙いについて教えてください。
住田:元町映画館は映画ファンがお金を出し合ってできた映画館で、日頃の映写やお客さまの受付などの諸業務は専従スタッフが行っています。しかし作品数が増えスタッフの仕事も手一杯になっていることから、もう少し広く、映画館運営を手伝ってくれる方を募ってはどうかという話は前々から社員の間で出ていました。この一般社団法人元町映画館の社員というのは、立ち上げ時のメンバー(出資者)もいますが、途中で社員になった方もいらっしゃり、専従スタッフとともにいろいろな人の力を合わせて運営していくという考えがベースにあったということがまず大きな前提でした。

 ただコロナ禍を経て、お客さまが前の動員数に戻らなくなってしまった今、何より金銭的に元町映画館をサポートしてくださる方の力を今借りなければ、映画館の存続が難しい状況になってしまったので、このサポーターズクラブという制度を新たに立ち上げたんです。


2年目となるサポーダーズクラブ、2025年のカードカラーは水色に赤文字

■本当にありがたいサポーターズクラブのご支援とこれから


―――毎月発行しているスケジュールチラシの裏面下には、個人のサポーター様や法人サポーター様の数を公表させていただいているのですが、住田さんからみてこの制度を1年取り入れてみた感想や、今後の展望は?

住田:2024年4月にサポーターズクラブがスタートしましたので、まだ1年経っていませんが、これまでの業績をみると、サポーターズクラブのみなさんのご支援がなければ閉館というところまで来ているのが実感です。ですからとてもありがたく思っています。実際に、サポーターになってくださった方は一般料金より600円お得な1200円で映画をご鑑賞いただけますので、そこはメリットも感じていただけるのではないでしょうか。ただこれからは、もう少しお互いの顔が見える形にしていけるといいのではないかと思っています。来年度はその取り組みをしていきたいですね。

―――具体的な構想はありますか?
住田:まずは毎月の上映スケジュールなど、映画館のお知らせをメールなどで密に送らせていただきたいと思っています。もともと元町映画館には会員制度がなかったので、SNSでお知らせを投稿していたのですが、サポーターの皆さんだけに届く情報を出していきたいですね。また、以前はシネクラブといって、3つぐらい鑑賞推奨作品を決め、みんなで鑑賞した映画について話す会を映画館の2階で行っていたのですが、そのような映画についてお話できる場を作ることは考えていきたいと思っています。


(C)43eparalleleproductions

■2月上映の『キノ・ライカ 小さな町の映画館』で初心に返って


―――2月22日より当館でも昨年1月に最新作の『枯れ葉』が大ヒットしたことも記憶に新しいフィンランドの名匠、アキ・カウリスマキが仲間たちと彼の故郷である鉄鋼の町・カルッキラでコロナ禍に映画館を作る姿や町の人たちの様子を捉えたドキュメンタリー映画『キノ・ライカ 小さな町の映画館』が公開されます。先に試写で拝見しましたが、映画館の運営に携わる人なら、初心に戻った気持ちになれそうですし、何より映画館ができることへの町の人たちのワクワク感が伝わってくるのが素敵なんですよ。本当にカウリスマキの映画のようなドキュメンタリーです。
住田:人口9000人のカルッキラと人口149万人の神戸とでは、街の規模は明らかに違うわけですが、一方で映画館を作ってやりたいことはすごくわかる気がするんです。これは発起人の堀さんもおっしゃっていたのですが、神戸は大きな街だけど、地元の人、神戸で生活する人たちにに来ていただける映画館にしたいという想いは開業時からずっと抱いていました。やはり映画は身近な娯楽なので、そんなに遠くまで足を運ぶことは稀だと思うのです。大阪、京都、それぞれに地域のミニシアターがあるので、元町映画館に来てくださるのは、やはり神戸のお客さまが中心だと考えているし、神戸のみなさんが観たいと思うような映画や、逆に神戸のみなさんに観ていただきたい作品を上映したいと、すごく感じます。さきほど話題に出たサポーターズクラブも、ぜひ地元神戸の方に会員になっていただき、映画館に足を運んでいただけたら嬉しいです。『枯れ葉』が好きな方は『キノ・ライカ〜』もきっと好きになっていただけると思います。ぜひ観に来てください!


(C) - 2023 - ALVA FILM PRODUCTION SARL - TAKES FILM LLC

■3月の国際女性デー関連企画


―――元町映画館では周年記念の特集上映を毎年組んできましたが、今年は3月に新しい特集上映を企画していますよね。
住田:3月8日の国際女性デーに合わせて、女性映画特集を企画しています。発案者はスタッフの高橋未来さんなのですが、女性監督や女性プロデューサーが製作する作品や、様々な世代の女性が主人公の作品も増えてきているので、女性のエンパワメントについて考える機会になればという想いで上映準備を進めています。

―――それに先駆けて2月8日からはジョージアのエレネ・ナベリアニ監督が中年女性の思わぬ人生の転機をオフビートに描く『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』が公開されます。住田さんもパブリシストの岸野令子さんと上映後トークをされますね。
住田:2月16日の上映後にトークをさせていただきます。トークというよりは、お客さんが感想を述べ合えるような場になるとよいな、と思っています。というのも、どんな立場の女性でも何か語りたくなる作品だからです。結婚して子供を育てるのが女性の幸せ、とされるような田舎の村で、独身で生きる女性が主人公です。ある事をきっかけに、初めて男性と関係をもつところから物語が始まり、村の人間模様や主人公に起こる出来事が描かれます。時には戸惑いながらも自分の道を貫く主人公に勇気をもらえますし、既婚・子持ち女性の悲哀や強さも感じられ、様々に想い巡らせることのできる作品だと思います。映画が終わった後に主人公がどんな選択をするのか、考える余地が残されているのも楽しいですね。

―――国際女性デーに話を戻すと、フェミニズム系書籍を手厚く取り扱っていらっしゃる神戸の独立系書店、1003さんが毎年3月にNINE STORIESと合同で「WOMEN’S READING MARCH」を開催されているので、それの映画館版になりそうな予感がします。ぜひ続けていきたい企画ですね。
住田:国際女性デーは近年こそ、日本でも少し知られるようになりましたが、まだ関心が薄いのではないかと思っています。私は学生時代にフランスへ留学していたのですが、当時は国際女性デーの日にデモを行っていたんです。特別なイシューがあるわけではなくても女性の権利向上のために多くの方が参加されていて、留学する前は知らなかったけれど、現場で国際女性デーがあることやその意義などを知ることができました。それが日本でもっと広がればいいと思いますし、女性の人生について改めて考えるきっかけになればということでトークも企画中です。

―――女性監督特集というのは今までも行われて来たと思いますが、国際女性デーと関連して映画館単体が企画するというのは珍しいかもしれません。これからはそういう自主企画を丁寧にやっていくということの第一歩にしたいですよね。
住田:そうですね。映画が配信でも観られるようになり、ミニシアターの存在意義について関わっている人は皆考え、悩んでいると思うのです。正直なことを言えば、ミニシアターは求められていないのかと弱気になることもあるのですが、ただ無くしてしまうのは惜しいし、何よりサポーターズクラブにこんなにもたくさんの方が賛同くださっている、という事実があります。さきほどの『キノ・ライカ〜』のように地元の人がふらっと観に来て、その映画について喋ったりできるような場が続けられればいいなと思いますね。少ないスタッフで厳しい状況ではありますが、お客さまのためにできることがないかを、みんなで考えていきたいですね。


2021年8月21日、書籍「元町映画館ものがたり」刊行記念トークに登壇した住田さん(右から二人目)

■人々の心に余裕がない今、映画館や映画業界について思うことは?


―――映画館で映画を観る良さは、一度来てもらえるとわかっていただけるのですが、最初の一歩のハードルが年々高くなっている気がします。その一因に年代を問わず忙しない日々を過ごさざるを得ないことが挙げられるのでは?
住田:私は日頃会社員をしていますが、二人目の子どもを産んでからはほとんど映画を観ることができなくなってしまいました。昨年「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」(三宅香帆著 集英社文庫)が話題になりましたが、映画にも当てはまると思うのです。単純に時間が取れないというだけではなく、それだけ心に余裕がないんですよ。そういう理由で映画を観られない人は、私を含めてすごくたくさんいると思うし、ミニシアターに人が来なくなった原因の一つになっているのではないかと。お金の余裕がないだけでなく、心に余裕がないわけです。一方、先ほどからお話している『キノ・ライカ〜』の町の人たちは気持ちに余裕を感じます。

―――そうですね。そもそも鉄鋼の町として一時は華やかな時期もありましたが、今は自然豊かな田舎町という状況で、馬に乗りながら自分の好きな映画の話をしたり、効率重視の日本とは違い、みなさん自分のペースで地域に根ざして生きておられるなと感じます。他に娯楽もないので、隣にワインバーのある映画館ができるのを楽しみにしているんですよ。
住田:本当は元町映画館もそういう場にできれば!と思うのですよね。だから、映画館があんまり頑張りすぎてもだめなのかなと感じます。理想論になりますが、映画館で働いている人がまず精神的な余裕を持てることが本来はあるべき姿ですし、お客さんにも「何かわからないけど面白そうな映画やってるな~」とふらっと入って見るくらいの余裕があれば…。

「元町映画館ものがたり」公式サイトで掲載中の濱口竜介さんのインタビュー(【2024−2025濱口竜介監督×元町映画館、年末恒例茶飲みトーク】)で「映画館で寝るのは悪いことじゃない」とお墨付き(?)をいただきましたし、それくらいのテンションで映画館に来ていただけると大変ありがたいな、と思います。実際は、宣伝されておらず、評価の定まらない作品はなかなか入らない、という厳しい現実があるのですが…。観る人もお金と時間を使うのであれば確実に面白いものを観たい、という傾向があるようで。せっかくいい作品があっても、宣伝されずどんな作品かわかりづらいミニシアター系の作品は敬遠されてしまうのかもしれません。

―――製作費が削られれば、宣伝費も大幅に削られますから、特に地方にそのしわ寄せが来ますよね。一方で、『マミー』や『どうすればよかったか?』など、今後配信予定のないドキュメンタリー映画は全国的にミニシアターでヒットしています。
住田:ドキュメンタリーの方が入るというのはわかる気がします。何かの問題をわかりやすく、深く取り上げている作品は観客にも訴求しやすいですし、観やすいですよね。『どうすればよかったか?』は当館では異例の5週間興行となりました。本当は我々も1週間ごとに上映作品が変わるようなことはしたくないし、今後もいいと思う作品は3週間以上続けてかけていきたいと考えています。こちらは他館でも上映していますが、震災後の世代を描く『港に灯がともる』も1月18日から4週間興行です。今後も皆さんが観たい、皆さんに観ていただきたい作品を、丁寧に届けていくことができれば、と思います。

(2025年1月3日収録)

<住田明世さんプロフィール>


大学時代を神戸で過ごし、アサヒシネマやKAVC、シネカノン神戸などのミニシアターに通う日々を過ごす。神戸映画サークル協議会に参加し、元町映画館発起人の堀忠氏と知り合う。卒業後、大阪で会社員をしながら元町映画館に関わっている。

いいなと思ったら応援しよう!

元町映画館
もしよろしければサポートをお願いいたします!いただいたサポートは劇場資金として大切に使用させていただきます!