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10/31(日)千葉旅行2日目

この日は朝から雨だった。

朝起きて、ホテルから見える景色は素晴らしいのに、雨模様なのは残念だった。しかし、そんなものは保育園児には関係ないらしい。海に行こう、海、海。それしか言わない。ショートスリーパーのわんこ番長は、ロングスリーパーの我々がぼうっと支度しているわきで、てきぱきと部屋の片付けをしてくれていた。この人は体力があるだけでなく、笑顔で氣働きができるんだなあと感心した。

感心しているだけではしょうがないので少しでも早く身支度を終わらせ、出発する。番長は海岸へ連れて行ってくれた。私は、10月末の、しかも雨降りで寒い日に、海水に入るつもりなどない。つっぴょんのおかげでせっかくここまで体調がよくなったのだから。私は傘をさして、砂浜を歩くだけだよと子に言うが、頑として聞かない。子はカッパを着ていたが、すでにかなりおでこのあたりが雨粒で濡れている。しかし、子は海に入りたがった。するとわんこ番長が、子を抱きかかえて波に向かって駆け出した。子は大喜びして、番長と波と対峙している。

すごいなー、と思いつつ、私は自分の体が心配でとても追随できない。ところが、子が駆けてきて、ママも行こうよと誘ってくる。わんこ番長はすでに濡れねずみになっているのに、自分がここで嫌だというわけにはいかないだろう。

傘を砂浜にさして、私も波へ駆け出した。最初は冷たかったが、時間が経つと慣れてきた。三人で雨に濡れ、海水に濡れ、そして笑った。そうだよ。私は何しに来たんだっけ。ワクチン打た旦那め、バカヤローって、叫びにきたんだろ。ウオー!とかヤー!とか吠えてみた。波がザーンと押し寄せ、それに応えた。

濡れたままわんこ番長の車に戻った。私は完全に風邪を引いてしまった。子も引きかけているのがわかった。わんこ番長は一人で外に出て、近くの屋台で伊勢海老の味噌汁を買ってきてくれた。温かくて、エビの脳みそがたっぷり溶け出していて、最高に美味しかった。

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子を着替えさせると、スパゲティが食べたいと言いだした。房総に来ても海の幸よりスパゲティがいいらしい。街道を走っていくと、番長がいい感じの店を見つけてくれた。いかにも洋食屋という風情だが、さざえカレーなるものもメニューにあるところから、海の幸も提供しているのだろう。

店の中がこれまた独特だった。

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メニュー一覧と、首都圏の路線図。貝焼味噌、というのも惹かれる。

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まるで昭和の列車のなかのような造りだ。あとで分かったことだが、ここは鉄道ファン御用達の店だったらしい。

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私はキンメ丼。キンメダイとサザエの照り焼き、カツオのタタキが乗っている。

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子はナポリタン。

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わんこ番長はさざえカレーを注文した。

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それぞれお互いの料理をシェアしたが、どれも美味しかった。


その後はシーグラスの体験工房に連れて行ってもらった。

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シーグラスとは、海に流れ着いたガラス片のことで、もともとはビールなどの瓶だったようだ。それぞれ曇りガラスのような風合いで、薄水色やミントグリーン、薄茶色など、趣のある色味である。それらをアクセサリーにしたり、照明器具にしたり、遊び方はさまざまだ。

アルミのフレームの中にシーグラスをレイアウトし、はんだ付けしていく。

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レイアウトがそもそも難しい。どう配置すれば素敵に見えるのか、考えてみるものの、イメージが掴めない。


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我が子は非常に斬新である。文字通り「枠組みを越えて」きた。幼児の感性って素晴らしい。


レイアウトが決まったら、シーグラスの縁に薬液を絵筆で塗っていく。その上に、高熱のはんだごてで、はんだを溶かし、各シーグラスを接着していく。この工程がとても楽しい。

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その後は工房の先生に洗ってもらい、ネイルカラーのトップコートを塗っていく。


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私はキーホルダーにしてみたが…うーん。上手にできなかった。

ただ、先生との会話がとても楽しかった。先生はわんこ番長と知り合いで、「気づいている」人だった。そして何よりポジティブで、工房にやってくる人たちとの交流を心から楽しんでいるようだった。

先生の作品を見た人が、これはもっと高値で売ったほうがいいとか、独身でいるならもっと楽めとか、ありとあらゆることを先生に言ってくるらしい。先生は聞き上手、引き出し上手だから、訪れた人が何を話したがっているのかがよく分かるようで、毎回毎回、愉快で個性的な人が面白いネタを落として行ってくれるらしい。これも先生の人徳があって成せる技だろう。

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下手くそな作品も、こうやって照明にかざすと素敵に見える。さらに、もっとこうすれば次からは素敵なやつが作れるかもしれない、というイメージも少し湧いた。まさに、知性の木とはこのことだ。

私が先生の話を聞きながらはんだ付けをやっている間、子はわんこ番長と再び海と対峙してきたらしく、ずぶ濡れになって帰ってきた。1日に2回も海に連れてってもらえて、子は心から満足げだった。

しかし、案の定、子はしっかり風邪を引いたらしい。私も同じく風邪を引いている。引いていないのは番長だけだ。番長の車でホテルに帰り、先に風呂に入らせてもらった。それから、前日とは別のスーパーで買い込んできたお刺身とお惣菜で、再び楽しい夕食会をした。前日のお刺身よりこの日のお刺身の方が品質が良く、とても美味しかった。

その後はみかんやお菓子もつまみながら、私も番長も子も長い時間、リビングでおしゃべりをして過ごした。最近の辛い話から、若い頃の番長の武勇伝まで、実に多くのことを、何時間も話した。それが楽しかった。沢山泣いたし、沢山笑った。