ノーマスクを貫いて外出しまくる

もうバカ旦那に感情を使うのはもったいない。エネルギーの無駄である。
昨夜、私は感情に蓋をして黙々と仕事をした。ときどき涙が出たが、泣くのがもったいと思ったら止められた。私はこの仕事が好きだ。日本語を扱う仕事には幸福感がある。
早めに区切りをつけて眠り、朝になった。旦那がおはようと言ってきたが、頭のてっぺんから足のつま先まで無視してやることにした。

「今日、在宅ワークにしたから」
旦那がさらに言ってきたが、尚も無視した。だからどうした。在宅ワークなどされたところで私は1ミリも助からないし、半休か全休がとれないなら意味はない。会社に行け。家に存在されるだけ、私は息が詰まる。

私が一言も発さないので、子が不安げに私に近寄ってくる。不憫なので無言で抱きしめた。もう、母親の私ですら、この子にとって害悪になっている。この糞コロナ騒動が終わるまで、優しくて笑顔でいられる女性のもとで育っててほしいとすら、思ってしまう。

旦那は「会社行ったらすぐ戻ってくる」と言い、家を出た。当然見送りはしなかった。子に朝ごはんを食べさせ、洗濯物を干して、外出の支度を整える。本人は保育園が休みだと聞き、嬉しそうだ。普段は行かないパン屋さんに行く、と意氣込んでいるので、連れて行ってやることにした。

旦那はパソコンを抱えて帰宅した。手にはコンビニで買ったらしいカップ麺が山ほど入った袋をさげている。
「これ、食べればいいかなと思って」
旦那がおずおずと言う。私の労をねぎらってるつもりらしい。そんなくらいで、だからどうした。
「あと、もしかしたら、明日、半休とれるかもしれないんだ」
旦那は必死だ。

それは昨日、喧嘩になる前に聞きたかった言葉である。私はそれすら無視して、子を連れて出掛けた。

「パパはこないの?」
「こないよ」
「なんで?」
「お仕事だから」
私だって仕事がしたい。

「やだ。3人で行きたい」
「そうだね」
私は抑揚のない声で答える。
「今日はどんなパンが売ってるかな」
私は楽しい会話になるよう仕向けた。

パン屋に到着した。「絶対マスクしろ」という趣旨の馬鹿らしい掲示を無視して、ノーマスクで入店する。子はあれこれ食べたいものを指差す。私は何も考えずに指されたものをトレーに乗せる。店員は何も注意してこない。

会計が済むとテラス席を指差して、ここで食べたいと子が言い出す。子に抗うのも疲れるし、本人に楽しく過ごして欲しいので、それに従う。つい先ほど朝食に食パンを一枚食べたばかりだというのに、チーズのパンとチョコ蒸しパンにがっつく。私に似て食いしん坊な我が子だ。無邪氣に、嬉しそうに食べる顔を見ていたら、凍りついた心が溶かされていった。

帰宅して、私は夕食の下拵えをした。そのわきで、子はチョコ蒸しパンの残りを食べていた。食べ終わって退屈しているようなので、今度は公園に連れていった。
歩いて数分で着く公園である。道具を持って、砂遊びをやることにした。私がスマホを持たず、積極的に砂山を作ったり、水をかけたりしているのが嬉しいのか、子も活発に砂遊びを始めた。

すると、小さな男の子と、そのママが近づいてきた。まだ保育園にも幼稚園にも通っていないらしい。ママは、マスクをしている。

私がノーマスクな状態でも氣にしないのか、彼女は活発に喋りだした。ママあるあるの、育児の悩みである。おにぎりとうどんとフライドポテトしか食べないとか、まだオムツがとれないとか、最近お昼寝してくれないとか、そんな話だ。ついこないだまで、同じ話を私も色々な人にしていたな、と思った。

彼女は会話に飢えている。この際、相手がノーマスクでも関係ないのだろう。よそよそしさも感じないし、積極的によく喋る。どれだけ子どもを可愛がっているのかも、よく分かる。私は彼女にいろいろ質問してみた。どんなふうに1日過ごしてるんですかとか、社交的なお子さんのようだけどパパさんに似たんですかとか。

1つ聞くと10、返ってきた。彼女はとても生き生きして話し出す。私が察したとおり、「普段あまり話せないので」とこぼした。私も、家の近所で人とこんなに沢山話すことは久しぶりだったので、にわかに嬉しくなった。通ってる保育園のことや、どうやってトイレトレーニングをしたかなどを話して聞かせた。

我が子の方が彼女の子より歳上だけど、体も小柄なので、一緒に遊ぶにはちょうど良いようである。おしゃべりに忙しい我々母親達を置いて、芝生広場へ追いかけっこしにいった。キャーキャー騒ぎながら泥まみれ、芝生まみれになって丘を転がっている。

散々喋って、私たち親子は昼ごはんのために帰宅した。昼食後は長めに昼寝して疲れをとった。夕方はレゴブロックで遊び、入浴して夕食を取った。寝かしつけは旦那にやらせて、私は仕事をした。

彼女はどう思ったんだろう。子どもを保育園に預けているはずなのに、仕事もせず、保育園に連れて行くこともなく、なぜか平日の朝から親子で公園にきていて、しかもマスクをつけていない、私たちのことを。

夜があけたら、また似たようなことをして、外出を楽しむつもりだ。