タイタニックで見た百名ヒロキさんの話
東京公演
2018.10.1(月)〜10.13(土)
日本青年館ホール
大阪公演
2018.10.17(水)〜10.22(月)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
[劇作・脚本]ピーター・ストーン
[作詞・作曲]モーリー・イェストン
[演出]トム・サザーランド
加藤和樹 / 石川禅 / 藤岡正明 / 戸井勝海 / 相葉裕樹 / 津田英佑 / 渡辺大輔 / 上口耕平 / 小野田龍之介 / 木内健人 / 百名ヒロキ / 吉田広大 / 栗原英雄 /
霧矢大夢 / 菊地美香 / 小南満佑子 / 屋比久知奈 / 豊原江理佳 / 安寿ミラ /
佐山陽規 / 鈴木壮麻 / 須藤香菜
※敬称略
天使だ。天使がそこにいたのだ。
私の推しは天使なの~♡だなんて日頃から言うタイプのヲタクではないけれど(むしろ彼の場合は天使よりもかわいい悪魔の方がしっくり来る)、タイタニックのベルボーイはまじで天使だった。
1番最初の彼の出番はベルボーイではなくて石炭係の服装の民衆の1人なんだけれども、早替えして藤岡さんが歌い出したと同時に下から飛び出て来た瞬間からもう天使だ!と思った。
帽子を取って胸に抱き、客席の後方、つまり大きな船タイタニックを見上げているキラキラした純真無垢な笑顔。
最初の彼の見せ場?は冒頭のところで、まずはベルボーイの芝居歌。
「7000の新鮮なレタス、タイタニーック」
「36000のオレンジ、タイタニーック」
その後も牛肉とか魚とか食べ物の話ばかりしていたので、お腹空いていたのだろうかwかわいい。
次に出航の準備をしている皆がステージ上で歌っている中1階の客席を走り回ってあちこちに挨拶しまくるというところなんだけれども、まぁとりあえずやたら元気wだって14ちゃいだもんね?何度か通路近くの席で見ることは出来たんだけれども、表情を観察する間も無いほどあっという間に駆け抜けて行ってしまった^^;日によって通路横のお客さんに握手を求めたりもしていたらしいwどうか握手した幸運なお客さんがあの子可愛い!ってファンになってくれますように。
一等客が乗り込むのをアリスの歌に合わせて見守る場面、東京では通路に降りる階段を降りて行くので女性に対してはエスコートで手を差し出してあげるんだけれども、男性の時は普通なのに女性客に対してだけニヤニヤしてたのは14歳の思春期の少年を表現していたのだろうかw
タイタニックがいよいよ迎える出航の場面、メインテーマである「征けタイタニック」を歌う表情がまた良かった。嬉しさと感極まってちょっとだけ泣きそうにも見える顔と。
最後は1番下手に行って、チケットに見立てた紙をちぎってばら撒くのだけれども、ベルボーイはいつも左にいる豊原さん演じる三等客女性の手元をちらっと見て、真似っこし始めるのがまたかわいかった。
あとこの序盤で2回くらい、ブリッジの下を通って捌けて行く時に最初に右の方にトコトコ歩いて行って、木内さん演じるベルさんにおい!逆!ってジェスチャーされてからうえーーーい!って感じで左に走って捌けて行くのがスーパーかわいかった。客席から見てると結構奥の方だしほんの少し走って行くシルエットが見えるだけなんだけど。
出航した後はまた石炭係の姿に早替えして、藤岡バレットが歌う後ろで石炭を掘りつつちょっと踊る。
これは東京公演限定だったようなのだが、この石炭係の時には髪の毛をセットしてないラフな感じで、これがちょっとやさぐれた感じの色気が出ててとても良かった。
同じ石炭係にはKODAIくんと渡辺さんがいて、ガタイのいい男性に囲まれて明らかに細身の百名さんは途中で倒れてしまう演出ありw
その後はしばらく給仕係としての登場。
ベルボーイと給仕係は多分別の人格だと私は思った。給仕係は凄くピシッと堂々としていて、歩き方も姿勢も腰の後ろに当てた手の形も細かく研究して来ていた。
手に持った銅鑼を鳴らして、「2月〇〇日〇曜日、一等客室ダイニングサロン、皆様、ディナーのお時間です!」も滑舌良く聞きやすかったな。
最後の「食後のデザートとコーヒーを、カフェパリジャンでご用意しております!」を言う前にオケの演奏するリズムにぴったり合わせて歩いてくるところ、あそこは1拍でもタイミングがずれると銅鑼の音がぴったり決まらないので、地味に練習したのではないかと思う。
1幕のまだ平和な頃、給仕係として少し目立つところが他に2つほどあって、まず「なりたいメイドに」の曲に合わせて三等客が自分の夢を語り出すところ。この時は他のキャストの大半が三等客に扮している中、百名さん
は1人で給仕係として参加している。
最初は酔っぱらった三等客の藤岡さんが椅子に立ち上がったのを控えめな感じで降りるように促していたりしていたのに、三等客の夢と希望に溢れた空気に呑まれて最後には彼らに肩入れして仲良くなってしまう。
途中で階段を駆け上がって、ブリッジの高いところで歌い出すんだけれども、この時の百名さんの表情はとても晴れやかでもあり、どこか切羽詰まっているようでもあり凄く良かった。
「認めてくれるさ、ほんとの自分」
期待と不安を胸にアメリカでの新生活を夢見る三等客と、同じように期待と不安を胸に必死に日々を過ごしている自分とが重なったかな。
凄くいい顔で歌っていただけに、1フレーズでいいからソロで歌わせて欲しかったです……
”ほんとの百名さん”がどういう人かよく分からない部分も多いし、それはヲタクだから当然なんだけれども、とりあえず大好きです(なぜかここで突然の告白w)
時々息苦しいのですよ、沼が深すぎて。
歌が終わった後、エッチスさんがケイトから取り上げたナフキンに包んだパンを投げて返してやるんだけど、あのパンキャッチも何気に毎回ちょっとした緊張の瞬間w そして日によって鳴り方に差がある指笛。とりあえず指笛はちゃんと吹けるのだと分かって良かった。
大阪では酔っ払い藤岡さんをなだめて椅子から降ろした後に、自分も椅子に座って藤岡さんのビールを飲んじゃうという演出が加わってた。
それから木内さん演じるハートリーの先導で一等客が歌い踊る場面。
給仕係の百名さんはメイドのビーチャムさんと一緒に自分達も後ろの方でこっそり踊ろうとしていたら、イスメイさんが現れてビーチャムさんを連れて行ってしまうw仕方ないので1人で踊っているんだけれども、1人なのにエアーで女性がいるようなそぶりで、他の男性陣が女性を抱き上げてリフトする場面で自分もエアーで同じ動きをw寂しいwww
途中でビーチャムさんが戻って来るので、大喜びで2人で踊り出して、どさくさに紛れて一等客女性ともペアで踊ったり。
ビーチャムさんと百名さんの踊り方は振付が他の男女ペアとちょっと違っていて、ウェイウェイしてたり全体的にかわいい味付けになっていた。
1幕終わりの方で再びベルボーイ。
氷山衝突の直前、藤岡バレットとお喋りしたりエッチスさんから渡されたライター?を興味深く眺めていたりしつつ、こーだいくんが歌う為の階段をこまめに動かす。衝突する直前には静かに捌けて行くが、この瞬間がベルボーイに扮していることからも百名さんの本役はベルボーイなのだと分かりますね。
2幕、いよいよ本格的に沈没し始めるところで見せ場の芝居歌3連発。(エッチスさんと2人で起きて起きてコールもあった)
「一等客の皆様~サロンへ~救命胴衣をお手元に~そのままで~」
「二等の~皆さん~一等のサロンへどうぞ~」
「三等客の~皆様~お聞きを~」
芝居歌だから歌うことについて夏より上達しているのかどうかははっきり分からないけれど、とりあえず声は間違いなく出るようになってた。
2月のマタハリからまだ1年も経たないのによく頑張ったなぁと。
本人さぞしんどかっただろうと思うけど、私はあそこで一度ズッタズタになったのが良かったと思うんですよね~。
それに、矛盾するようだけれども彼が最初からある程度歌える人だったら、私は多分沼に落ちてない。何て言うか、単にヘタと言うよりも歌い方をまだ全然知らないって感じで、でもその分必死で、1本の命綱だけにぶら下がって音を何とか掴まえようとしているような、あの切羽詰まった感じにグッと来てしまったんですよね。
筋トレ頑張った~!といいつつまだまだ華奢で線は細いし、大人の男性よりも少年の役の方がしっくり来るけれども、それでも段々と俳優としての足場を固めて、見られることに慣れて行って、少しずつでも自信を付けて行って。多分その過程と歌の進歩の過程はリンクしているような気がする。
なんせ周りのレベルが高いしまだまだやっとスタート地点に立ったくらいだと思うけど。
ただ今回、私が彼のことを追いかけるようになってから初めて見たんですけど、明確に歌い出しを間違ったことが1度あったんですよね~w
「さんとうきゃくの~」の歌い出しをトチって、多分2拍分早く歌い出してしまい、慌てて歌い直す。
いや人間だから、誰しも間違いはあるし。イスメイさんが台詞出て来なくなって「えーと、あれだ、あれ…!」って言ってた時もあるし、船長の台詞が微妙に違ってた時もあった。
もしこれをご本人が読んでたら、きっと怒るかもしれないけど、でもね、私はこの間違いは「慣れ」が引き起こしたんじゃないかなぁと。
今までは不慣れなだけに凄く緊張感を持っていたからこういう間違いは無かったんじゃないかな?音程が不安定になることはよくあったし、緊張しているぶん肩に力入りまくってガチガチだなぁって時もあったけど。
今回は初日からある程度形が出来ていて、初日と楽にめっちゃ差があるなんてこともなくてそこは凄く良かったんだよね。
でもまだまだ歌うことが体に染み付いてない状態で、「慣れ」てしまうのはちょっと危険かなぁ。
ニコ生で言ってたとおり、ヲタクにダメ出しなんかされたらイラつくよね~wごめんね~wでも書く~w
一応フォローしておくと、「慣れ」と言うと聞こえは悪いけど、言い換えれば少し余裕が出て来たということなんだろうと。
今までの百名さんはいつでもいっぱいいっぱいで、頑張る!という熱意は凄いけれどもいつか糸がプッツリ切れるんじゃないかという怖さもあり、見ているこちらがヒヤヒヤするような感じもあった。
でも今は少しだけゆっくり息が出来るようになって、少なくともプッツリ切れそうな危うさは無くなったかな。
もちろん数少ないソロの歌い出しを間違えるのはやっぱりダメだと思うけどw
そして二幕のクライマックス。
出発する救命ボートを見送る時の曲、「また明日、きっと」
基本的には別れの曲だし悲しい場面ではあるんだけれども、悲しいながらもどこか力強い愛情を感じさせるような名曲で、何とか歌詞を覚えようと思って集中したのだけれども何度見ても感情が高ぶって冷静に聴いてはいられないような状態だったので結局無理だった。
ここの百名さんはベルボーイとして最後まで荷物を運んだりしてから当然自分も船に残り、ブリッジの上で離れて行く救命ボートを見送りながら毅然とした表情で歌っているんだけれども、悲しい曲がほんの一瞬だけ優しさに包まれる瞬間があって、それが相葉さん演じるチャールズのソロの「愛の言葉~交わし合い~」のフレーズのとこなんだけれども(相葉さんの声はもともと陽なタイプだと思うけど、あそこで一瞬だけガラッと空気の変わる歌い方をしたのは多分演出の指示かな)、百名さんはいつもそこで曲に合わせて少しだけ表情を柔らかく変えていた。
ただ大阪の大千秋楽だけはそれまでと違っていて、歌いながら目元は潤んでいたように見えたし、チャールズのソロ部分でもどこか泣き笑いみたいな顔をしていた。
他のキャストも台詞が涙声になっていたり、みんなやっぱり終わってしまうのは寂しかったのだろう。
「もし もう 明日が 来ないなら
今この時を どうか」
救命ボートを見送った後、いよいよベルボーイ最後にして最大の見せ場がやって来る。それまでの無邪気なかわいらしさも、全てはこの瞬間の為の前フリだったように思える。
「20槽の救命ボート、全てが海に降りました、船長」
「ありがとう。君はいつも溌剌としてるねぇ。いくつだ?」
「14歳です、船長」
「そうか。私が14歳の頃は給仕係だった。名前は?」
「エドワードです、船長」
「本当か。私もエドワードだ」
文章にするとたったこれだけの何てことない会話だけれど、この台詞ひとつひとつの間には一言では表現出来ないくらいの色々な空気が流れていて、見ている方も何とも言えない気分になる。ベルボーイの表情も、船長の表情も、一言発する度に、相手の言葉を待つ間に、微妙に変わる。
そして、あぁベルボーイは天使だったのだなと思ったのはまさにここの場面だった。
周りは皆大人の中、たった1人だけまだ子供であるのに、死がすぐそこまで迫って来ているベルボーイ。でも不思議と悲壮感や使命感のようなものは感じられず、どこかふわふわと漂っているような。自分がもうすぐ死ぬことも特に気に留めていないような。
そういうどこか現実味の無い存在で、船と共に沈む運命を悟り、多くの乗客を結果的に殺してしまうという事実に直面し、もはや心が死んでしまったかのような船長に最期に笑いかける。
最初はベルボーイの顔ばかり見ていたけれども、途中から名前を尋ねるあたりで船長が少し微笑みながらベルボーイの顔を見つめていることに気づいた。それまでずっとどこか虚ろな目をしていた船長が、ベルボーイとの会話で最期に自分を少し取り戻したような気がした。
私はもう14歳の少年の心に寄り添うことは難しくて、どちらかと言えば船長や周りの大人たちの立場で見てしまうのだけれども、船長はきっと最期にあの笑顔に救われたのだろう。
これから死にゆく人達の心を救ってあげるなんてまさに天使ではないか。
死ぬ運命からは逃れられないけれど、絶望の淵で死ぬのか、最期に少しでも救われてから死ぬのか。
もちろん実際にタイタニックの事故で亡くなった人達とはまた別の話だ。
船長との会話が終わった後、最後にとびきりの笑顔を見せて、敬礼してからベルボーイは去って行く。
あの後もベルボーイは出てくるし、1人で船室に残ろうとするアンドリュースに逃げてと叫ぶ場面もあるのだけれども、私はあそこで去って行ったベルボーイは人間のベルボーイとしての役割は終えたんだろうと思った。
ベルボーイはこれから海の底に沈むけれど、死んだ肉体は脱ぎ捨てて、きっと共に沈んだ人達の魂を連れて天国に帰るんだ。
作品のフィナーレは、生き残った者と海に沈んだ者が一緒に再びタイタニックのメインテーマを歌う。メインテーマ自体は壮大で華やかな曲なので、あの曲を最後歌い上げて終わるのは微妙だと言っている人も見かけた。
でも海に沈んだ人達の姿は実は幻想でしかない。その幻想の姿を見て、涙を流しながら歌うイスメイさん。
このタイタニックという作品を通じて、何を演出家のトムさんが伝えたかったのかは正直よく分からない。深く考えなくても、非常に贅沢な役者の使い方をしているので歌を聴いているだけでも楽しめるし。
ただトムさんがただの悲劇の物語にしてはならないと言っていたという話、これが最後全員でメインテーマを歌い上げるところに繋がっているような気はする。
多くの人が亡くなったことについては悲劇でしかないけれど、その人達が生きて来た人生まで全てが悲劇になる訳ではない、そんな感じだろうか?
少しだけ百名さん以外の人の話を。
何と言っても一番泣かされたのは安寿ミラさん演じるストラウス夫人だった。非常に高貴で品があり、美しく、お金がたくさんあって豊かであることがそのまま心の豊かさにもつながっているような。
救命ボートの席は約束されているのに、それを断って旦那と共に死ぬことを選ぶなんて。いかに愛する人がいようとも、最後にその道を選べる人がどれだけいるのだろう。驚くことにこの話はほぼ実話らしい。
https://ameblo.jp/englishsongs/entry-11753768977.html
「貴方のいらっしゃるところに、私も参ります!」のアイダの決め台詞から全てが動き出す展開は毎回鳥肌が立った。美しく気品に溢れているのに、あの時だけは旦那も何も言えなくなるような凄味があって。
タイタニックは群像劇で、主演の和樹アンドリュースさえほとんど目立たないし、ストラウス夫妻にだけ特別にスポットが当たっているわけでもないのにあの存在感。プロって凄い。
歌については藤岡部長の優勝。もちろんみんな上手い人だけしか出てないんだけれども、藤岡さんのミュージカル歌唱とはちょっと違う、あの特徴的な歌い方と声質、俳優よりもやっぱり本来は歌手なんだろうと思わせる上手さは特別なものがある。宝塚BOYSでち〇こち〇こ言ってた人と本当に同じ人かね?w
上口さん演じるブライドとのデュエットがまた至高でした。
最後百名さんについてまとめると、1つの作品が終わるごとに確実に成長しているし、私が最初にこの人は、と思ったことにやはり間違いがなくて本当に嬉しい。
不思議なことに、私がこんな風になって行って欲しいなぁと願っている通りになっているのだ。先のことは分からないけれど、今のところは彼の目指しているものと私が願うものとが一致しているらしい。
彼は今、ゼロからスタートして色んなことをどんどん吸収している最中なので順調に見えるけれども、ある程度のことが身について来てからがまた大変なのだろうなぁ。
でもきっと頑張ってくれると信じているし、何となく苦しんだり悩んだりしている様子もまた魅力的だったりするw
いつか私が死ぬ時は、あのベルボーイの恰好した天使が迎えに来てくれますように。
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