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小説の種01◆鬼ばばぁ

 鬼ばばぁだった。まさき君のお母さんは、顔面の半分がずる剥けた息子と玄関先に佇む僕を見て。「あ」と言った後。「いやああああああ」と悲鳴を上げると僕の髪の毛を掴んで狭い玄関の中に引きずり込んだ。まさき君は、へらへら笑い出して気ちがいになってしまったみたいだった。
 鬼ばばぁは、僕を小脇に抱え階段で二階に上がり、僕の両手両足をおんぶ紐で要領よく縛り上げると押し入れの中にぶん投げ、閉じ込めた。
 まさき君の手首がよく赤くなっていたのは、そういうことか。と吞気に考えていた。しばらくすると玄関のドアがバタンと閉まる音がして、誰も居なくなった。
 まさき君は、僕のお母さんが言うとおり「空気の読めない」子だった。あやちゃんのお母さんが社宅のアパートから突然居なくなった日。
 「あやちゃん可哀そう。捨てられちゃったんだね」
 あやちゃんの目の前で、泣きそうな顔をして言ったのだ。なんでお前が泣きそうになってるんだよ。僕はそう思って。どうしてか? ものすごく怒りたい気持ちになった。そして、まさき君の頭に脳天チョップをおみまいした。
 まさき君は、びっくりしたみたいで、僕のことを追いかけまわした。シャツの襟首を掴まれて後ろを振り返ると、血走った眼があってものすごく怖かった。必死で手を振り払おうと思いっきりカラダを左右に振ると、シャツから手が離れ、態勢を崩したまさき君は、転んだ勢いのまま左顔面をザラザラのコンクリートに打ち付けながら滑っていた。
 リトルリーグの練習で見た上級生たちのヘッドスライディングみたいだった。と、あとであやちゃんが言った。

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