一方的に約束したこと
どういうワケか、当時、我が伊勢原中学校は、ヤンキー系に属していた。
これが、不思議なことに各学校により色が違うのだ。高校に進学した俺は、ヤンキーがダサいみたいな風潮があるとは、微塵も思っていなかった。
「伊勢原ヤバい。いまだにヤンキー」
世はカラーギャングなるものが流行しだし、オヤジ狩りや、エアマックス狩りなるものが、横行していた時代である。西暦なら1998年くらいの夏。
わりと集団に馴染めず、中心ではなく、ただ集まるのは好き。だがダサいとは思われたくない。そして、気になる子にも好かれたい。そんな虚栄心に満ち溢れていた時間。
そして俺は、同じような男に目を惹かれる。
それが、コバだ。
コバは、制服の下に赤を着込んでるほどの中学時代だったが、高校でしばらく過ごした彼も、俺同様ヤンキーは時代と違うのではないかと気付いていたと思う。
なんとなく、似た空気を感じた俺は、コバと自然と話すようになる。
特に、何を話すワケでもなく居心地いい時間が流れるので一緒にいる時間が増えていった。
コバは絵を描くのが好きだった。
コバの部屋には、デッサン用の石膏像があった。
俺は、石膏像を買うって人がいること自体知らなかった。そもそも絵は、才能あるもののみが、スラスラと書けるものだろうと本気で思っていたのだ。
コバの石膏像のデッサンする姿を見ながら、首振り扇風機を強にして、洋楽を聴いて本を読む。何時間も何も喋らない時間は、結構好きだった。
コバは、シルバーアクセサリーもデザインしたりしていた。自分のデザインのチョーカーをよく作っていて、俺にくれたりしてくれた。
一度聞いた事がある。
「コバは、何をしたいの?」
コバは、「椅子を作りたい」って答えた。
イームズチェア。これのデザインに痺れたらしい。
俺は、まさか椅子をデザインしたいなんていう人が友人にいるとも思わずただ、ビックリした。
本棚から、雑誌でどういう椅子かと、写真を見せながら熱く語ってきたので、ほんとに好きだったんだと思う。
人のほんとに好きな物の熱量とは、こんなに伝わるのかと思った。
「でも、自分が出来るとは思ってないよ。だけど、何かのデザインはしていたい」
漠然と、有名人になって、モテモテになるんだくらいにしか考えていなかった俺は、やけにコバがカッコよく見えた。
強がったのか、負けたくなかったのか、その時の自分の気持ちは、思い出せないけれど俺はコバにこう言った。
「いつか、絶対俺は何かやる。その時は、必ず何か一緒に作ってくれ」
外のアブラゼミもガンガン鳴いていて
部屋の洋楽もガンガンなってる夏。
扇風機だけが頷きがちに首を振っている。
話し半分に聞いてる感じじゃなかった。
なんのはなしですか
コバは、デザイン関係の仕事をしている。
そして、この約束は2015年に果たされる。
およそ20年後だ。
それは、僕達と大関との伊勢原での最初のイベントにて。
コバは約束を覚えてた。2人で打ち合わせた。それはどこか幸せな時間だったし、どこか照れ臭い時間だった。
俺とコバの形がこれ。
悪くないね。