『憧れの地』から『戻りたい場所』になったニュージーランド
ニュージーランドは、私にとって長らく憧れの地だった。
憧れたきっかけは単純で、小学生の時に親に連れられて映画館で『ロード・オブ・ザ・リング』という映画を見た。ピーター・ジャクソン監督の作る三部作のファンタジー映画で、元々読書が好きでファンタジーも大好きだった私はその世界観と映像美にのめり込んだ。
その映画のロケ地がニュージーランドだったのだ。ピーター・ジャクソン監督の故郷であり、また自然が多かったことから、映画の舞台に選ばれたのだと聞く。
小学校から高校生になるまでに何度『ロード・オブ・ザ・リング』という作品を繰り返し見ただろう。その後成長するにつれてニュージーランドへの憧れは強まり、『いつかはニュージーランドに行かねば』と思うようになった。
2015年、憧れのニュージーランドへ8日間の一人旅
初めてニュージーランドの地を踏んだのは2015年の夏だった。就職して会社員としても数年経った年のことで、年に一度の夏休みに一人で憧れの地へ行くことを選んだ。
その旅行が、とてつもなく良かった。
その当時、ニュージーランド政府も世界的に成功した映画『ロード・オブ・ザ・リング』とその関連作の『ホビット』で観光客を招致することに力を入れており、まず空港についた時点で、映画に出てくるキャラクターの巨大なオブジェがお出迎えしてくれたことにも圧倒された。
夏休みの期間をぎりぎりまで費やしてもたった8日間の旅行であり、行ったのはニュージーランド北島にある首都のウェリントンとオークランド周辺だけだったが、私はその旅行が忘れられず、いつしか『ニュージーランドにまた行きたい。できれば住みたい』と思うようになっていた。
2018年、ワーキングホリデーでニュージーランドへ
そうして迎えた2018年の夏。私は会社を退職し、海外に最大一年間滞在できるワーキングホリデーの制度を利用して、ニュージーランドに渡ることを選んだ。
そこからの一年間で、私は旅行した時には分からなかった憧れの国の柔らかさと温かさに触れることができたのだ。
ニュージーランドの形は日本と少しだけ似ていて、大きく北島と南島に分かれている。私が住むことを選んだのは、その北島にあり、旅行でも来たことのあるオークランドだった。
ニュージーランドに到着した時、日本の気候はすでに初夏めいていたが、南半球にあるニュージーランドでは冬が本格的に始まるところだった。
現地のレストランでの仕事
冬の間は仕事が少なくなると聞いて、最初の3週間ほどをゲストハウスで暮らしながら情報を集めた。紆余曲折あったが、履歴書片手に飛び込みで入った現地のレストランで運よくホールスタッフとして雇ってもらうことができた。
中国人のマネージャーに面接をしてもらい、どきどきしながら英語で受け答えしたことを今でもよく覚えている。
そこは、マレーシア人のオーナーが巨大なショッピングモールの中に店を構えているマレーシアン・レストランだった。
マレーシアン料理というと、上の写真にあるような『ラクサ』と呼ばれる麺もの、それから『ナシレマ』と呼ばれるココナッツライスなどが人気だ。
スタッフは全員で30人以上いたが、主に中国人とマレーシア人で、日本人は多い時でも私含めて3人だったため、英語を含めて沢山の異文化に触れることができた。
良い記憶も、苦い記憶も沢山ある。
私はこのレストランで働いた9ヶ月間のことが忘れられない。
国際色豊かな同僚とお客様
ニュージーランドは国際色豊かな国だと思う。
ネイティブはキーウィと呼ばれるニュージーランド人だが、それ以外にもアジア人や欧米人、中東から来た人達も暮らしている。
現地のレストランで働きながら毎日多くのお客さんと接したが、肌の色や言語、宗教、髪の色や服装まで含めても、感じる限りでは『定型』というものがなかった。
例えば上の写真はヒンドゥー教の『ディーワーリー(Diwali)』というお祭りをお祝いするオブジェだ。このオブジェは頻繁に変えられていて、各宗教のイベントごとに即したものが置かれていた。
身近に聞こえる言語でも、同僚達はマレー語や韓国語、中国語で話しているし、お客さんも英語やヒンディー語、ドイツ語やフランス語で話している。共通語は英語だったが、現地で仲良くなる人が増えるにつれて、色々な国の言葉で挨拶などを少しずつ覚えていくことができるのはとても嬉しいものだった。
格好についても同様で、日本生活の中でそれなりに『無難』な服装を学んでいた私は、建物の中でも裸足で歩いたり、髪を鮮やかな青や虹色に染めたり、自由な格好をする同僚やお客さんを見ていて随分とびっくりした記憶がある。
ただ、それは決して嫌な驚きではなかった。
私が日本にいる今でも、海外製のエスニックなチュニックを好んで着ているのは、好きな服装をしようというニュージーランドにいた頃の影響が大きい。
暖かくて素朴なニュージーランドで出会った人々
私が出会ったニュージーランドの人たちは、暖かくて素朴で、気持ちのいい人たちが多かった。
仕事のない日はよく家の近くにある湖の周りを散歩していたのだが、道の途中で誰かとすれ違えば、知らない人でもにこっと笑って『Hi』と挨拶をしてくれた。
カフェに行けば『今日の調子はどう?』と話しかけられ、お店で品物を見ていると『それ良いよ』と通りすがりの人に声を投げられる。
エレベーターで一緒になったお姉さんに『そのピアス、素敵ね』と言ってもらえたこともあった。
無遠慮に踏み込んでくるわけではない、気軽で気楽な挨拶とちょっとした雑談は、その日の気分を確実に良いものにしてくれた。
ニュージーランドの素晴らしきコーヒー文化
ニュージーランドを知ったきっかけは映画『ロード・オブ・ザ・リング』だったが、その後惹かれていった理由の一つにコーヒー文化がある。
ニュージーランドはコーヒー大国である。
街によっては『角を曲がる度にカフェがある』なんて言われるほどカフェの数も多い。どんな街にも確実に一つはカフェがあって、とても美味しいコーヒーを飲むことができる。
しかもそのコーヒーが安いのだ。一杯平均が5ドル(≒350円)ほどするのだが、私がいた2019年当時のニュージーランドの最低賃金は17.7ドル(≒1,230円)であり、相対的に見るととても飲みやすい金額だった。
私は特に、ニュージーランドのカフェならどこでも置いてある『フラットホワイト』と呼ばれるコーヒーに惚れ込んでいた。
オーストラリアやニュージーランドでよく飲まれてるコーヒーで、エスプレッソがベースになっているため苦みが強い。
コーヒー好きにとってはたまらない味だった。元々カフェ好きの人間だったので、三日と明けずにカフェに通い、八割の確率でフラットホワイトを頼んでいた。
約一年間通い続けた大好きなカフェ
カフェとコーヒー好きの私が、ニュージーランドのオークランドで約一年間通い続けたカフェがある。
●Casablanca Sylvia Park
Address: 65 Dining Lane, Sylvia Park, Mt Wellington, Auckland
Hours: Sunday - Wednesday 9am – 9pm
https://www.casablancacafenz.co.nz/sylvia-park
『Casablanca(カサブランカ)』というモロッコの都市の名前からも分かるように中東系のカフェであり、メニューにもニュージーランドらしいコーヒーの他にトルココーヒーや中東のスイーツなども頂くことができた。
最初は職場のすぐ近くにあったから通いだしたカフェだったが、コーヒーやスイーツがあまりに美味しくて、気が付けば約一年間、日にちを開けずに通い続けていた。最後の方には店内殆どの店員さんと顔なじみになっていたような気がする。
コーヒーと併せてよく頼んでいた中東スイーツの『バクラヴァ』。
一時期あまりにこればかり頼んでいたため、店内に入ると『今日もバクラヴァだろ?』と馴染みの店員さんにウインク付きで言われたこともあった。
このカフェはコーヒーも食べ物も美味しくて、店内の雰囲気もとても良いので、ニュージーランドのオークランドに行かれる方がいらっしゃったらぜひともおすすめしたい。
三週間のニュージーランド一周旅行
ニュージーランドに一年間滞在した中で、小さな旅行は何度かしていたが、一度三週間という時間を取って北島と南島を旅行したことがある。
日本から来た友人と時間を併せて旅行したのだが、三週間の間にレンタカーで走り回ったニュージーランドの景色はあまりにも雄大だった。
旅の始まりは北島、オークランドから。
友達も私も大の『ロード・オブ・ザ・リング』好きだったので、ニュージーランドに来たならまずはここに行かねばと映画のロケ地である『ホビトン・ムービーセット』に向かった。
『ホビトン・ムービーセット』には、映画『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』で使われたセットが私有地にそのまま残されている。
ホビトン周辺も少し旅行した後は、飛行機で南島のクライストチャーチに着陸し、レンタカーで南島のクライストチャーチ→ワナカ→マウントクック→クイーンズタウンと南下していった。
南島は北島よりも自然が多く、ドライブをしていても目の前に広がる景色がとにかく広い。
ニュージーランドの南島、『世界一の星空』が見れると謳われているテカポ湖のすぐ近くに建てられている『善き羊飼いの教会』。
満月の時に行ってしまったので、星は一つも見えなかった。
ワナカという街のすぐ近くにある小高い峰『ロイズ・ピーク』。
往復五時間ほどで登れる初心者向けのトレッキングコースだが、普段運動しない私は瀕死の状態になりながらもようやっと登頂した。
山の上から見た景色は今でも忘れられない。
マウント・クック近くにある『プカキ湖』。視界一面にミルキーな水色が広がる。
クイーンズタウンの夕暮れ。街に面したワカティプ湖をのぞむ。
旅の終わりに見たのがこの景色だったので、なんだか少しだけしんみりしてしまった。
友達と二人で三週間もの間旅行をしたのも初めてで、途中喧嘩しそうになったりもしたが、過ぎてみればそれすらも良い思い出になった。
その友達とは今でもたまにニュージーランド旅行の思い出を語り合ったりしている。
一年間暮らしたニュージーランドを離れた日
ニュージーランドを離れたのは、忘れもしない2019年の6月末のことだった。
一年近く暮らしたフラット(シェアハウス)メイトが空港まで送ってくれたのだが、その最後の日に私はお気に入りのカフェに立ち寄り、いつも頼んでいたフラットホワイトをテイクアウトした。
そうしたら、私が最後だと話していた顔馴染みの店員さんがコーヒーとマシュマロをプレゼントしてくれたのだ。
空港で一人で飲んだフラットホワイトは、少し冷めていたが本当に美味しかったのを覚えている。それが私のニュージーランドでの最後の記憶だった。
* * *
そうして私がニュージーランドを離れて、もう一年以上経つ。
これを書いているのが2020年10月。離れた時には、まさか2020年がこうなるとは思いもしなかったから、ニュージーランドにも近い未来にまた戻るつもりで銀行口座も閉じていなかった。
時間が経てば経つほどに、ニュージーランドにまた行きたい、戻りたいという思いが強くなっている。すぐに行けないと思うとなおさらで、SNSで繋がっているニュージーランド在住の方々の写真やツイートを見てはニュージーランドに思いを馳せる日々だ。
初めてニュージーランドを旅行した2015年から5年以上の年月が経過し、いつの間にかニュージーランドは私にとって『憧れの場所』から『戻りたい場所』になっていた。
現地でできた友人を訪ねて、足しげく通っていたカフェを訪ねて、そして大好きなフラットホワイトを飲むのが今の私の夢だ。
いつかまた、あの大地に立ちたい。
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