毎月100kmランニングを5ヶ月ほど続けた結果
ねぇみんな。やばい。
毎月100キロメートル以上走っただけなのに。
ーーあたい、健康になっちゃう。
これは水商売上がりで肝臓も汗腺機能もボロボロであり、現在、学生&作家(どっちも座り仕事)で腰もオケツも目も酷使しまくりなアラサーおじさんあたいの、5ヶ月間のランニング記録である。
不健康がカッコいいのは10代まで。アラサーは死活。
まず、どうしてあたいがランニングを始めようと思ったのかを話そう。
2023年。最新の健康診断の結果は概ね良好だった。
今までにも重い既往歴などは特にない。
強いて言えばアルコールによる脂肪肝と、睡眠障害とうつ病くらいのものだけれど、同年代の人たちと比べてあたいは健康というか体が丈夫な方だった。
風邪はあんまり引かないし、骨も折ったことない。アレルギーもほぼ無いし、胃腸も強いし、オナラもよく出るし、顔も美しい。
仕事柄、昼夜逆転してしまったり、付き合いの関係上、夜に出歩くことが多かったりもする。ましてや集中的に執筆する期間は自宅にずっと引きこもることもある。常に健康を意識してきたわけではない。それでも完全にインドア派ってわけでもなく、アウトドアへの関心と意欲は強い方だと思う。
本格的なスポーツ経験や日常的な運動習慣こそ無いものの、登山・縦走(山峰から次の山に渡り行くこと)はわりと好きなので、山に登る少し前からジムに短期集中的に通って筋トレしたり、軽く有酸素運動をするくらいの向上心はあった。
しかし、そうはいっても山に登るのだって一年に二回程度だし、ジムでも軽く筋トレして、20分程度トレッドミル(ランニングマシーン)を走ればもう息が上がっておしまい。決して体力がある方ではない。年相応の心肺機能と、手足だけ細くて腹だけぽっこりなあたいのボディ。それはほとんど完全インドア派のそれと遜色ないーーいわゆる成長の余地がまだまだ残るボディだった。
実際、何年もジムに通ってナイスバルクを維持しているガッチリ系ゲイ友は「ガリガリってことは今から筋肉つけられる楽しみがあるわけよ。将来有望。可能性しかない」とかなんとか言ってくれていたので、あたいは自分のこんなボディも愛していた。細くてもあたいはあたい。頭のてっぺんからケツの丸みを越えて足の爪先まで、歳を重ねて変化が出てきても、その全てをあたいは自分自身で肯定していた。
だけど、一つだけ、あたいの意識を変えることがあった。
「このままじゃまずい」と思う出来事だった。
それは半年前のこと。
以前より付き合いのあるスナックのママさんと一緒に、友人のバーの周年イベントで朝までシャンパンを飲み、その店のビールの小瓶の在庫を枯らし切って(みんなで40本ほど飲んで)から自宅に一旦戻り、シャワーを浴び、服を着替え、そのまま昼過ぎから大学に行った日があった。
今までもこういう無茶な午前様は何度もしてきたが、汗臭さも酒臭さもタバコ臭も、体を洗い流し、服を着替えてしまえばそれで完全に拭い去ることができていた。誰かから指摘されたりしたこともなかった。
だけれども、その日は研究室にて、若い子から、
「もちぎさん、なんか臭い。めっちゃ臭い。具体的に言うと、汗と呼気が酒臭い。全身からおっさん臭ハンパない。飲み会帰りの父親と同じ匂いがする」
と言われてしまったのだ。
具体的すぎてこいつ優秀やなと思った。
そう、年相応のボディになるということは、体質も変容するということ。
つまり、若い頃できていたことが能動的にできなくなるように、生理的(自動的)な部分、つまり代謝も年齢に応じて変わってくるということだ。
あたいは若い頃はゲイ風俗で勤務していたので、体臭や口臭には人一倍気を使っていた。それはスーツを着ていた社会人時代も、ゲイバーで働いていた水商売時代もずっと変わらなかった。
きちんと水分補給をして、ほとんど毎日半身浴をし、野菜をよく食べ、毎日うんこをひねり倒した。顔も体も化粧水などで保湿し、耳の裏や頭皮も自宅で毎週特別なヘッドスパをしてケアしていた。定期的に歯石取りをし、歯間ブラシや電動歯ブラシを使っているおかげで虫歯もできたことがない。体の垢や踵の角質やケツ毛も丹念な処理していた。ストレスを溜めないように時おり奇声を上げながら大路を走ったりもした。
服の洗剤や柔軟剤にも無香性のものを使い、シーンによっては軽く香水を振って匂いをケアする。洗濯機も毎月掃除し、自宅の換気は毎日欠かさない。靴には消臭粉を使用。クローゼットには調湿木炭(炭)。ペット臭を防ぐために空気清浄機と脱臭機、そして次亜塩素酸空間清浄機(20万円)まで取り揃えるほど。体臭も薄い方だと言われるけれど、それでもそういう美意識をずっとこの歳まで心掛けてきた。なぜならアイドルなので。
なのに、それでも、この歳になると、代謝能力の低下が拭い切れぬ体臭としてきっちり表出した。
今やあたいは、若かった頃ほどお酒をきちんと分解できず、さらにミドルエイジの脂臭や加齢臭予備軍の匂いと合わさって、お酒を飲むと体から「立ち飲み屋のおっちゃん臭(学友談)」が発生するようになってしまっていたのだ。
これを若い頃なら「やっべ〜。お酒飲みすぎだわ(笑)」「まだ若いのにおっさん臭がするらしいわ(笑)」「肝臓に無理させすぎた😁」みたいにイキって武勇伝っぽく言ったり、おっさん認定されたことを、ある種の成熟や達観の証だと鼻にかけたりしてイキッたことだろう。あたいは慢性的なイキリなのでよくわかる。
だけどあたいも、もう年相応のおっさん(もちろんアラサーもまだ中年では無いのだけれど、二十代前半から見て比較的におっさん)になっているのだ。
おっさんがおっさん臭いと言われて、鼻にかけることができるだろうか。
かけるべきなのはファブリーズなのだ。
そして、この歳になって分かったのだけれど、おっさんというものは得てして幾ばくかの「おっさんであること」という心苦しさを常に感じているし、それを指摘されたら、ただただ申し訳ないと感じる。
歳を重ねることは不可避なのでそれは悪くないことだけれど、それによって生まれる問題もまた不可避で。その諸問題に対する自覚の無さだけは、決定的に自身の落ち度だからだ。
たとえば、歳を重ねると表れる諸問題として、自身の存在が場や状況によっては威圧になってしまうことがある。
例を挙げるなら、若い子集団の飲み会に参加した時。そこではどれだけ場が盛り上がっても、自分だけは年相応の振る舞いが求められると思うし、若い子と一対一で話す場合には、力関係の勾配が生まれないように話すのも気遣う。壮年の男性という肉体を持っていることで、女性に対して恐怖を抱かせるシチュエーションがあることも理解している。
あたいは、自分がおっさんになっていくことでようやく実感してきたのだけれど、男は歳を重ねれば身体に権威性を帯びる。年々ナメられなくなっていく。そしてそれは体臭といったセンシティブなことと同様、他人から直接指摘されづらいことでもある。
歳を重ねたことに負い目こそ感じなくともいいだろうけれど、せめて歳によって生まれる物事全てに、人は誰しもが自覚的でなければならないだろう。
とにかく、なので明らかに年齢による代謝の変化で発生してしまった体臭を指摘された時に、あたいが感じたのは、「今までこんなこと言われたことが無かったけれど、もうそんな歳になったのだな。無意識に他人に気を使わせていたんだな」という反省と、
「自分の体に改めて向かい合ってできることをしなきゃな」
という自身への愛と、丁寧な自省だった。
歳を取るとは生きるということだし、歳を取った自分と向かい合うことこそ、人生なのだ。
なのであたいは自分がおっさんであることを恥じることはしなかった。年齢ゆえに出てしまった問題を指摘され、恥ずかしく思って激怒したり、悲しんだり、無視して開き直ったりする必要はない。丁寧に自分の体に向かい合えばいい。
そこからあたいは「付き合いやバーのバイト中にお酒を飲む量を少し減らそう」と考えたのと同時に「汗腺の機能が加齢で落ちてきているのなら鍛えよう」と思い立ち、ランニングを始めることにしたのだ。それが今年の二月のことだった。
ちなみにその学友は、本当に嘘をついたりしない子で(本人曰く「自分は空気が読めないので」と自身の特性を紹介していた)あたいに対していつだって明け透けに物を申してくれるのだけれど、最近(2023年7月)はどれだけお酒を飲んでから学校に行っても「昨晩も飲んでるんですか? 今日は全然臭くないですよ。分からん」って言ってくれるようになった。やったぜ。
とにかく第一の結論として、あたいの汗腺や代謝は、ランニングを始めて5ヶ月で少し力を取り戻したようだった。
思えば最近は汗をかいてもドロドロせずサラサラしているし、二日酔いもしない。元々から多汗症気味なので、汗をかく量は自体は変わってはいないけれど、明らかにサラサラした汗が出ていると自分でも分かる。こんな猛暑にどれだけ汗をかいていても、なんだか気持ちがいい。
そのうちあたいの汗を瓶詰めして売ってやろうかなとも思っている。
200ミリリットル1,000円で。
「服を買いに行く服が無い」のと同じで「運動するための筋肉がない」
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天然温泉旅館「もちぎの湯」
ここはあなたの宿であり、別荘であり、療養地。 あたいが毎月4本以上の文章を温泉のようにドバドバと湧かせて、かけながす。 内容はさまざまな思…
今ならあたいの投げキッス付きよ👄