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【声劇台本】文学少年少女(男:1女:1)

登場人物(男:1、女:1)

・山本(やまもと)
中学3年生の男子学生、サッカー部のエース。本を読むより運動する方が好きだが、想いを寄せる佐川の影響で本を読む様になるが、想いをどうやって伝えようか悩んでいる。

・佐川(さがわ)
中学3年生の女子学生、本を読むのが好きで、家でも学校でも色んなジャンルの本を読んでいる。山本とはクラスメイトで、うっすらと山本の好意に気付いている。

【時間】約10分
【ジャンル】恋愛


【本編】

放課後、図書室。

山本「佐川、君の前の席、いいかな?」

佐川「あら、山本君。構わないわ。でも、放課後の図書室はいつもガラガラよ。何でわざわざ私の目の前の椅子に座るのかしら?」

山本「一人静かに本を読んでも良いんだけど、見知ったクラスメイトの顔を見つけたものでね。話し相手になって貰おうかと思ってさ」

佐川「私は一人静かに本を読んでいたいんだけど」

山本「固いこと言わないでよ。俺も本を読んでるからさ」

佐川「貴方が本を?運動の方が好きなんだと思ってたわ。ほら、放課後はいつも部活のサッカーに勤しんでたじゃない。そういえば今日はおやすみ?」

山本「サボった。体調悪いって嘘ついて」

佐川「まぁ、サッカー部のエースがそんな事をしていいのかしら?」

山本「へぇ、佐川って俺がサッカー部のエースって知ってんだ?本以外に興味ないのかと思ってた」

佐川「同じクラスだし、貴方のファンの女の子達が騒いでるのを聞いただけよ」

山本「そっか。…でも俺、意外と文学少年だぜ?毎週毎週ここで本を借りて、家でも読んでるし。今だって」

佐川「そうね。でもサボってまで読みたかったの?」

山本「たまには体を動かすのが嫌になる事だってある。それが今日だってだけさ。佐川はないの?本を読むのが嫌になる事」

佐川「ないわ。貴方は…ありそうね」

山本「…長時間じっとしとくの苦手なんだよ」

佐川「それでも本は読みたいのね。毎週借りて家で読んでるんでしょう?」

山本「まぁ、ね」

佐川「……」

山本「……それ、面白い?」

佐川「今私が読んでるの?えぇ、私は好きよ。でも、山本君にはどうでしょうね」

山本「あ、馬鹿にしてる?」

佐川「いいえ、だってこれ悲恋のお話だもの」

山本「ひれん?」

佐川「悲しい恋愛のお話。主人公には恋人がいたんだけど、恋人はある日、記憶を失い別の人と恋人同士になる。いくら主人公が説得しても恋人は主人公を拒絶して、主人公は悲しみのあまり命を断つの。その後記憶が戻った恋人はそれを知り、主人公を想い主人公の後を追う…そんなお話よ」

山本「…そんな本置いてあるの?」

佐川「中学の図書室にそんなバッドエンドで生々しい本は置いてないわよ。これは私が家から持って来た小説。読み始めたばかりだから持って来たの」

山本「へぇ、…ん?読み始めたばかりなのに何で内容知ってんだよ?」

佐川「お姉ちゃんにネタバレされたのよ。でも、自分で本の内容を確かめたくて、ストーリーの流れを大雑把に聞いただけじゃ、分からない発見もあるかもしれないじゃない」

山本「発見?」

佐川「主人公はどんな気持ちで命を断ったのか。もしかしたら恋人の幸せを願っていたんじゃないかって思ってね」

山本「…読んでみないと分からないって訳ね」

佐川「えぇ、どんな描写なのか、どんな台詞なのか。読んでみないと分からないのよ」

山本「…佐川はさ、どんなジャンルが好きなんだ?」

佐川「え?」

山本「本のジャンル。何が好き?」

佐川「…そうね。色々読むから難しいけど……ジャンルというより、ハッピーエンドのお話が好きよ」

山本「ハッピーエンド…」

佐川「ワクワクする物語が始まって、ドキドキの展開。そして最後は登場人物が幸せになる終わり。そんな話が好きだわ」

山本「その本は違うじゃん」

佐川「そうね。でも、そういう話が好きなだけで、色んなジャンルを読むわよ」

山本「ふぅん。じゃあさ、佐川のオススメの本は?」

佐川「え?」

山本「教えてよ、佐川の好きな本。気になる、読んでみたい」

佐川「……山本君はもう読んだ事あるはずよ」

山本「え?」

佐川「ここの図書室にもあるよ。ちょっとマイナーなんだけど…ちょっと待ってて」

佐川、席を立つ。

山本「え?は?」

しばらくして、戻ってくる佐川。

佐川「これよ」

山本「この本……」

佐川「裏の貸し出しカードに…ほら、私の名前の後に君の名前が書いてある」

山本「…何で、知って…」

佐川「図書室の本の貸し出しは、本の後ろに挟んである貸し出しカードと貸し出し表に名前を書かないといけないでしょう?今までは特に気にしてなかったけど、私が本を借りた次の週に山本君が同じ本を借りてるのに気付いて、今まで借りた本の貸し出しカードを何枚か確認した事があるだけよ。だから、君はもう私のオススメの本を読んだって事になるのよ」

山本「……」

佐川「図書室で本を借りる人そんなにいないから、すぐに分かっちゃった。でも、何で私が借りた本ばっかり借りるの?たまたま?」

山本「そ、そう、たまた……その」

佐川「何?」

山本「引いた?キモくない?俺」

佐川「何で?」

山本「何つーか、ストーカーみたいで」

佐川「…最初は変だなぁって思った」

山本「それって、今は?」

佐川「言わせる気?」

山本「……き、今日部活サボったのは…この時間じゃなきゃ、佐川はここにいないと思ったからなんだ」

佐川「うん」

山本「…ここは放課後、人が全然いないし…」

佐川「うん」

山本「……俺がその本の主人公なら、絶対諦めない。記憶がなくなろうと誰かに取られようと、諦めたりしないって思った」

佐川「私も、主人公ならそうありたい」

山本「俺は佐川が好きです。優しくて努力家で本が好きな君が、俺の事を忘れても俺はきっと諦めない」

佐川「…ねぇ、これ恋人になってる二人の話よ。私達恋人じゃないよね」

山本「あっ!…先走り過ぎた……」

佐川「ふふっ」

山本「何回もシミュレーションしてたんだけどなぁ…全く違う台詞出ちゃった…」

佐川「山本君」

山本「ん?」

佐川「私の記憶がなくなっても、諦めないでいてくれる?」

山本「え?」

佐川「君の記憶がなくなっても、私も諦めたりしない。好きよ、山本君」

山本「佐川…」

佐川「………やば、何か顔が熱くなってきた」

山本「え、え…それじゃあ…俺たち…その」

佐川「…よろしくお願いします?」

山本「っ!…やったぁぁあ!!」

佐川「ちょ、ちょっと、ここ図書室!」

山本「あ、ごめっ…つい……」

佐川「もう…。ふふ、これからは堂々と本の貸し借りが出来るわね」

山本「こそこそ何読んだかチェックしなくて良いって事か…」

佐川「それはちょっと引くわね…」

山本「う、ご、ごめん……」

佐川「別にいいわよ。それじゃあ最終下校のチャイムが鳴るまで待っててくれる?」

山本「本を読むの、付き合うよ」

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