
【声劇台本】花菱先生と真尋ちゃん(男1:女1)
登場人物(男:1、女:1)
・花菱(はなびし)/男
30前後の純文学作家。性格も口も悪いが、相手を無碍に出来ない所がある。作家の前は塾で講師として働いていた。塾講師時代に生徒として来ていた真尋に懐かれ、作家になった後も付き纏われている。ホラーが嫌い。
・真尋/女
高校生の少女。明るく真っ直ぐな性格をしており、花菱と小説が大好き。中学時代に塾で講師をしていた花菱に惚れ込み、花菱が作家業に本腰を入れても懐いている。暇さえあれば、花菱の屋敷に入り浸り、花菱の担当編集とも仲が良い。自作の小説で先生の鼻を明かすのが夢。
【時間】約15分
【ジャンル】ギャグ、掛け合い
【本編】
花菱の屋敷
真尋「お邪魔します、花菱(はなびし)先生〜」
花菱「お邪魔してから入るんじゃない。暇なのか?真尋(まひろ)」
真尋「今日は休日なので学校はお休みですよ」
花菱「悪いが、作家には土日祝はないのだよ。よって俺様は暇じゃない。帰りたまへぇ(欠伸混じり)」
真尋「暇じゃない作家はリビングのでっかいソファに寝っ転がって欠伸をかまさないと思います」
花菱「言うねぇクソガキ」
真尋「でも、そんな花菱先生も大好きです。花菱先生が何も出来なくても良いくらい私、先生のお世話しますので」
花菱「ガキには興味はない。その夢は捨てなさい」
真尋「むしろ先生は何もしなくて良いです。新しい作品を作り出すだけでいいんです」
花菱「この間作られていた味噌汁。味付けが薄過ぎるから好みじゃなかったぞ」
真尋「あれは家では普通です。先生の味覚がおかしいんじゃないんですか?」
花菱「君は俺様を慕ってるのか貶してるのか分からんな」
真尋「無論!尊敬しており、お慕いしており、先生を作品を生み出すだけの存在にしたいと思っております」
花菱「君はたまに担当編集くんより恐ろしく感じるよ」
真尋「それより今日は作品は生まれましたか?」
花菱「締め切りはまだまだ先だ。作家業はインスピレーションが湧いて、初めて作品作りに取り掛かる。よって人が近くにいると集中出来ん。帰りたまへ」
真尋「作家業とは言え、作品の取り掛かり方は人によります。花菱先生は神経が図太いので、人が居ようといまいと関係ないじゃないですか。というか、編集さんが急かさないとギリギリまで何もしないじゃないですか」
花菱「うるさいなぁ。真尋、俺様の昼寝の邪魔をしたいなら今後、俺様の屋敷への侵入禁止令を出すぞ?このバカ生徒が」
真尋「ガガーン!?それは嫌です!私は先生が塾講師の時代から追っかけをしてるのに、御免なさい!それだけは勘弁して下さい〜」
花菱「はぁ…。そもそも塾講師時代の生徒を屋敷に上げてる事が問題なんだが…。それより、今日は何の用なんだ?」
真尋「やっと本題に入ってくれますか?流石花菱先生!」
花菱「何もない時は何も無いと言い張るからな。また何か拾ってきたのか?この間は野良の子猫を拾って来やがって…担当編集君が嬉々として連れて帰ったぞ」
真尋「あー、猫が居なくなってると思ったら編集さんが飼ってるんですか。えー、編集さんの家に行ってこようかな〜」
花菱「ダメだ。そもそも場所を知らないだろう」
真尋「はい♪今度会ったら猫の近況だけ伺います」
花菱「で、本題は?」
真尋「先生、見て下さい!この面白うな雑誌♪」
花菱「……月刊、ミステリーナゾトキ集?なんだいこの陳腐な雑誌は」
真尋「陳腐とはなんですか!様々なミステリが詰まったオモシロ雑誌ですよ?」
花菱「内容は知らんが、表紙の飾り文句が腹立たしい。どこの出版社だ?」
真尋「割と新しい所の様ですね。これ、今月から発売された物らしくて、是非、先生に読んで欲しくて」
花菱「真尋…君ね、俺様の分野は純文学作品が殆どだ。ミステリが好きだなんて誰が言った?」
真尋「私が好きだから先生にも教えたかったのです」
花菱「………」
真尋「でも、一番好きなのは先生の作品です」
花菱「君には敵わないな…仕方ない。君に付き合ってやろう」
真尋「そのまま先生を堕落させてもいいですか?」
花菱「俺様好みの味付けを覚えてから、出直しなさい。まぁ、許さないけどね」
真尋「えへへ、では…。二択問題です!」
花菱「は?そういう系?」
真尋「雪が降り積もったある日、切り立った崖へ向かって二つの足跡がついてました。崖の下は激しく波が打ち付ける海です。後日、海から一人分の死体が浮かびました。これは自殺でしょうか?他殺でしょうか?」
花菱「知るかぁ!!」
真尋「え?先生ともあろう人が分からないんですか!?」
花菱「一見ただの心中だ。波が激しい海なら死体が見つかるかも分からんだろ」
真尋「では、自殺という事でファイナルアンサー?」
花菱「メタ読みをすると他殺だ」
真尋「え?」
花菱「ミステリ集なるものを出して来て、いきなり答えがあからさまな自殺…なんてお粗末すぎるだろ。なら他殺だ。パターンが二つある」
真尋「二つ?」
花菱「片方が崖でもう片方を突き落とし、行きに付けた足跡の上を後ろ向きで踏んで帰ってきたパターンと、崖の上で争った形跡がないのなら既に死体になった方は殺されており、死体を担いで崖まで行く。そして死体を海に捨て、後ろ向きで崖から去ったというパターンだ」
真尋「ほぇー」
花菱「靴は履き替えが出来るから、先に小さい方を履いておけば良い。問題は被害者と加害者の性別、犯行動機、関係性と諸々ある…おい真尋。その辺りはどうなってる?」
真尋「………次の問題です」
花菱「おいこら」
真尋「だって、そこまで求めてないですもん」
花菱「だから陳腐な雑誌なんて持ってくるんじゃないと言ったんだ、俺様は」
真尋「うーん、簡単過ぎましたかぁ…」
花菱「簡単だし、お粗末で陳腐だ。二度とくだらない問題を出すな」
真尋「えー、では……貴方は自分の大切な人を殺した犯人を殺すつもりで捕まえました」
花菱「前提がおかしい」
真尋「どの様に殺しますか?」
花菱「……まずは、殺した動機を聞くだろ?そしてどの様に殺したのかを聞くか。そして、同じ殺し方をしてやる。プラスその都度どんな気持ちか聞いてメモを残すか…。新しい作品のネタになりそうだ」
真尋「……さすが先生」
花菱「お前これサイコパス診断だろ?」
真尋「先生がサイコパスだって事が分かりました」
花菱「そんな事しないからな」
真尋「もし、先生が殺されたら先生がおっしゃられた方法を実行し、本にします」
花菱「その発言が怖い」
真尋「私が殺されたらどうします?」
花菱「警察に任せる」
真尋「残念」
花菱「そもそも殺される様な事をするんじゃないぞ」
真尋「私をなんだと思ってるんですか」
花菱「変態」
真尋「そんな…先生、セクハラですよ?」
花菱「うるさい」
真尋「じゃあ次の問題です」
花菱「まだやるのか!?」
真尋「とある古びた旅館で起きた事です。Aさんはとある理由で、古びた旅館に泊まりました。その旅館は心霊現象が起きる事で有名でしたが、心霊ブームが収まってる昨今、あまり綺麗とは呼べない旅館なので泊まっている人は多くありません」
花菱「ふむ…」
真尋「そこで殺人事件が起こりました」
花菱「唐突だな」
真尋「事件現場は客間の一室。朝、客の一人がベッドの上で血塗れで亡くなっていました。傍には指紋を拭き取られたナイフ。凶器は恐らくそれでしょう。被害者はAさんと同じく、一人で旅館を訪れていた男性でした。容疑者は6人。Aさん、カップルの男女2人、旅館の方が3人です」
花菱「……誰が犯人…か?」
真尋「第一発見者は、朝食を伺いに行った旅館の人です。犯行時刻は夜の0〜3時、Aさんは重要な証言をしました」
花菱「それはなんだ?」
真尋「深夜2時過ぎ、トイレへ向かったAさんは廊下で女性の声を聞きました」
花菱「……」
真尋「何と被害者は最低野郎だったのです。被害者は結婚詐欺をしており、相手の女性を妊娠させてから捨てる事もあったほど。女性の声がしたという事で、疑われたのはカップルの女性と旅館の女従業員の二人、女将とバイトの女性です。しかし、カップルの女は一晩中男とお喋りしてたので、アリバイはあります」
花菱「陳腐…」
真尋「はい?」
花菱「カップルだからアリバイがある?共犯がいないという線は何処から来た?女性の声がしたから女性が犯人?争った形跡はあるのか?他の場所から人が来ないと言う証明は?」
真尋「流石先生…粗探しがお得意ですね」
花菱「当然の疑問だ。今時のサスペンス劇がこんなんなら視聴率は確実に取れないぞ」
真尋「確かに、共犯がいたかは分かりませんね。女性の声イコール女性という判断も今時そんな発言をするモブもいませんね。争った形跡はありません。他の場所から犯人が来る…、これはあり得ますがこの件には関係ありません」
花菱「……ウミガメのスープになってないか?」
真尋「あ、バレました?」
花菱「発想が陳腐だ…これは自作か?」
真尋「はい!今度先生に見てもらう為にミステリ小説を書いてみてます!」
花菱「そうか、楽しみにしてるぞ。担当君と共に赤ペンで修正しまくってやる」
真尋「ひぇっ!お、お手柔らかに…」
花菱「一つ質問だ。この旅館の構造上、トイレは部屋に付いてないのか?」
真尋「……付いてます」
花菱「犯人はAだな」
真尋「やっぱり肉付けが甘かったか…」
花菱「甘っちょろいな。俺様に試作段階の物を持ってこない方がいい。君はとんでも展開が大好きな変態野郎だ。俺様なんかにくっついてくるくらいだからな。おおかた、Aと犯人は既に顔見知りかその場で意気投合、睡眠薬でも盛った飲食物を与え無抵抗の状態で殺したのだろう。犯行動機は…結婚詐欺とされていたから、知り合いや身内が被害に遭った…という線で行こうとしたのだろう?」
真尋「とある理由なんて、つけない方が良かったですかね…?」
花菱「作中に付ければ良かったんだ。掻い摘んで話しただろう?その為、必要な所しか残らなかったせいで話の流れがおかしくなった。話の構成が甘かったな。ミステリ小説を書きたいならもっと勉強したまへ」
真尋「はぁい…」
花菱「で、これはホラーミステリーだろ?」
真尋「はい」
花菱「ホラー要素…その女の声と言うのは、幽霊だと言いたいんだろ?」
真尋「はい…」
花菱「何故ホラー要素を入れたか俺様が分からないとでも思うか?」
真尋「思いません」
花菱「なら二度と書くな。俺様はホラーが大っ嫌いなんだよ」
真尋「怖いからでしょう?」
花菱「たりめーだ!非科学的だし、怖いだろうが」
真尋「も〜、先生ってば素直で可愛いんですから」
花菱「俺様に読まれたけれりゃ二度とホラー要素を入れた話を持ってくんじゃねぇボケナス!」
真尋「先生!私は無駄にこの話をした訳じゃないんです!編集さんに言って、この旅館のモデルにした場所に行ってみたいと言ったらオッケーを貰ったんです!取材旅行です、行きましょう!」
花菱「はぁ!?」
真尋「お母さんからもオッケー出てます!」
花菱「待て待て、それだと俺様の取材旅行ではなく、お前の取材旅行だろ!?俺様を巻き込む意味が分からん」
真尋「先生もたまには旅行とか行った方が良いからと、編集さんも言ってました!なので、行きましょう?心霊スポットが近くにある旅館に!」
花菱「絶対に行かない!!」
完