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【声劇台本】青色の記し(男1:女4)

登場人物(男:1、女:4)

・澪(りょう)/女
青い髪をした女性で、人間の不老不死研究を行ってる組織の研究員。不老不死の女性のDNAを使って造られたクローン。完全な不老不死の力があるのかは定かではないが、何十年と長い間20代位の見た目は変わっていない。感情表現が乏しく少々幼い思考を持つ。

・ウノ/女
10代の少女。小柄で幼い言動が多く元気で明るい性格。感情表現が豊かで、遊んだり本を読むのが大好き。1番好きなお話は『青い髪の魔女』と言う御伽噺。

・アル/男
10代の少年。頭が良く人を揶揄う言動もする。大人びた雰囲気を見せながら、年相応の幼さを見せる事がある。

・トリア/女
10代の少女。ウノとアルの姉の様な立場で二人を律する事もある。しっかり者だが、警戒心が強い。ウノに弱い。

・結月(ゆづき)/女
不老不死化の研究に積極的で澪が派遣された実験施設の主任。研究員が少ない影響で一人で施設を運営している。研究には積極的だがウノ達の扱いや他の仕事は少し雑。

サブキャラクター(兼ね役推奨)
・ニュース/不問

【時間】約45分
【あらすじ】
澪は結月が1人で運営する実験施設に新入りとして派遣された。その施設では3人の子供たちが被験者としてそこにいた。澪に命じられたのは子供達の監視だった。


【本編】



澪「…ある所に海の様に深く、空の様に鮮やかな青色の髪をした不老不死の力を持つ美しい魔女がいました。その魔女は世界中を一人と三匹で旅しているのです……か…」



ウノ「ねぇ、そのクレヨン貸してー?」

結月「No.1、コードネーム、ウノ。性別女。明るく溌剌とした性格で、子供っぽい言動が目立つわ」

アル「えー、ウノってば青色のクレヨンばっかり使うから青だけすぐ無くなるじゃん!だからどうしよっかなー」

結月「No.2、コードネーム、アル。性別男。ウノとは反対に大人びた言動が多い子。他者を揶揄う発言もあるわ」

トリア「貸してあげなよアル!私のクレヨンあんたにあげるから」

結月「No.3、コードネーム、トリア。性別女。二人をまとめる姉の様な立ち位置と言えるわ。二人の言い合いを良く止めているわね」

アル「別にクレヨンの一個や二個にケチケチしないよ。はい、ウノ青色のクレヨン」

ウノ「ありがとうアル君!トリアちゃんもありがと!」

トリア「ふふ、今日は何描いてるのー?」

ウノ「えっとねー……」



澪「結月(ゆづき)主任。彼らがこの研究ラボの実験体ですか?」

結月「えぇ。三人とは言え、彼らが最終実験にまで残った個体。何か質問はある?澪(りょう)」

澪「……私がここに派遣されたのは」

結月「聞いてるわよ、最終実験の準備の間、あの子達の相手をしてくれるんでしょ?」

澪「…それだけ、ですか?」

結月「他に何かあるの?人間の不老不死化研究、私も最終実験の準備に集中したいのよ」

澪「いえ、私についての書類は…」

結月「…そんなのあった気がするわね。忙し過ぎてそこまで見てなかった…後で確認しとくわ。このラボは最終段階の実験体がいるのに運営してるのが基本私一人なのよ。やっと本部から派遣して貰ったと思ったら若い女一人…実質何も変わらないじゃない。…でも、不老不死の研究なんて昔と比べれば殆どしてないものね…」

澪「結月主任は実力を買われこのラボを任されたと聞きました。主任は何の為にここで働いてるのですか?」

結月「あんたこの研究に噛んでるのにそんな事も知らないの?もしかして新入り?…いや、新入りだとしても知らないはずは…まさか本部の奴ら人数不足に焦って騙して入所させたのかしら?あははっ、それ訴えたら勝てるんじゃない?…ま、本来こんな非人道的な実験なんてバレたら即アウトだけどね」

澪「あの…」

結月「あぁ、話がズレたわね…。ここで働く理由なんて一つしかないでしょ?実験の成果が出れば研究員にも不老不死の力が与えられるかもしれない。特に主任になれば完全なる不老不死の力を与えられる事が約束されてるのよ」

澪「完全なる不老不死の力…?」

結月「魅力的でしょ?だから私はこの研究に乗り気なのよ。ま、ここまで過労を強いられるとは思ってなかったけど…」

澪「何故そんなに不老不死の力が欲しいのですか?」

結月「あー、もう質問が多いわね!私は実験の準備で忙しいの、あんたも突っ立ってないであの三人の体調チェックして遊び相手になってきなさい。あいつらの体調が下手に崩れれば今までの実験が水の泡になる。それくらい繊細な実験なんだから…」

澪「…分かりました」

結月「体調は細かくチェックして、記録する事。良いわね澪」

澪「…はい」



ウノ「ねぇねぇ、トリアちゃん。この本読んで〜?」

トリア「青い髪の魔女…。またこのお話?ウノってば本当にこの話が好きね」

ウノ「うん、大好き!心の優しい青色の髪をした不老不死の魔女が三匹の子猫と世界を旅するお話!何回読んでもこのお話がウノ一番好き!」

アル「青い髪した不老不死の魔女…昔実際にいたって聞くけどさ、御伽噺だよね。…僕らの実験だって……」

トリア「アル、やめて。私たちに付けられているバイタルチェック用の首輪…、私達の異常が見られたらあの人飛んで来るよ…」

ウノ「また怒られるの?それとも注射されちゃうの?どっちも嫌だよぉ…」

アル「次の実験まではまだ時間あるって言ってたよな、実験期間が始まるまでまたイライラしてそうだよね、あの人…」

トリア「そうね…」

ウノ「トリアちゃん…お話…」

トリア「あ、ごめんごめん…読んであげる。青い髪の魔女…昔々、海の様に深く、空の様に鮮やかな青色の髪の毛を持った美しい魔女がいました。その魔女は不老不死の力を持っており、世界中を一人で旅していました…」


澪「本日よりこちらのラボで結月主任の代わりに貴方達の管理を任されました、澪と申します」


トリア「魔女はいつもひとりぼっち。彼女は不老不死ですから、時間に置き去りにされるのです。彼女以外の生き物や物は彼女をいつも置いて行くのです」


澪「本日よりこちらのラボで結月主任の代わりに貴方達の管理を任されました、澪と申します。……よし」


トリア「そんなある日、彼女は三匹の小さな子猫を拾いました…ん?」

アル「僕達の部屋に誰か入ってきた…」

ウノ「…お姉さん……」

澪「本日よりこちらのラボで結月主任の代わりに貴方達の管理を任されまし…」

ウノ「魔女だー!!」

澪「え?」

ウノ「青い髪の魔女だ!これ、この本と同じ青い髪の優しい魔女!お姉さん、このお話の人?」

澪「青い髪の魔女…?いえ、この本は知らない。…私は新しくこのラボに派遣された者よ」

アル「新しい研究員?何でこのタイミングで…」

トリア「あれじゃない?先生実験の準備で忙しいのに本部って所から何も助けがないって散々愚痴ってたじゃない」

アル「あー、なるほどね」

ウノ「魔女じゃないんだ…残念…」

澪「…そのお話、そんなに面白いの?」

ウノ「うん!ウノが一番好きなお話なの!新しい先生にも読んであげる!」

澪「あ、ありがとう…でも、私は先生って呼ばれる程じゃ…」

ウノ「じゃぁ、何て呼べば良いの?」

澪「…私は澪。好きに呼んでくれて問題ないわ。貴方達の事は…」

ウノ「ウノでいいよ!」

アル「…アル」

トリア「トリア。よろしく、新しい研究員さん…」

澪「…よろしく。ウノ、アル、トリア…」



結月「貴女がこのラボに来てから一ヶ月かしら?報告上ではあの子達の心体に影響はなさそうだけど……その大量のおもちゃは何?」

澪「結月主任…!…これは、ウノが外で流行っているおもちゃで遊んでみたいと言ってたので…持ち込んでも良いですか?」

結月「ラボに持ち込んでる時点で本来はアウトよ。…つか何?ドミノに人生ゲームって…これ流行りって言う?デザインも今時のキャラクターっぽくないし、正直古臭いわよ?」

澪「え、私が昔遊んでいた物です…もう古いのか…」

結月「自分家から持って来たの?…まぁ勝手にしなさいよ。私も実験の準備が手間取ってるのよね…」

澪「あの、私の書類は…」

結月「え、何?」

澪「いえ…」

結月「澪…あんたは実験体に深入りしてないわよね?」

澪「え?」

結月「あれは実験体。私達人間が不老不死の力を手に入れる為の必要な材料なのよ。情に流されないでよね」

澪「…はい」



ウノ「あ、澪ちゃん!」

澪「ウノ、アル、トリア…元気そう?」

ウノ「うん、ウノ元気!」

アル「今日もまた色々持ってきたね。ドミノ…人生ゲーム…これどうやって遊ぶの?」

澪「説明書が付いてるからそれを読んでみて?アルなら一回読んだだけですぐに理解すると思う」

ウノ「ドミノ…?色んな色のブロックがたくさん入ってる!あ、青色!ウノこれが良い!」

澪「ドミノの遊び方はね……トリア?」

トリア「……」

アル「一ヶ月もこの人通って遊んでくれてるんだよ?いい加減そんな端にいないで一緒に遊ぼうよ」

ウノ「トリアちゃん、澪ちゃんとあそぼ?」

トリア「何でウノもアルも研究員と馴れ馴れしく出来るのよ?そいつらは私たちを実験台にしてるのよ?遊ぶなんて意味がないでしょ?」

アル「そうかもしれないけどさ、僕らの運命は変わらないんだから今楽しい事をしてる方が良くない?」

トリア「だったら、私とウノとアルだけでいいじゃん。何考えてるか分からないそいつと遊びたくない!」

澪「何考えてるか分からない…」

アル「澪さんショック受けてる?」

トリア「私はそいつとは必要以上に関わる事はしないから」

ウノ「トリアちゃん…澪ちゃんは悪い人じゃないと思うよ?」

アル「結月先生よりはマシじゃない?あの人最低限しか接して来ないし、乱暴な扱い多かったじゃないか」

トリア「私はそいつより先生の方がマシよ」

澪「……トリア」

トリア「っ…」

澪「これ、ドミノって言うんだけど…こうやってブロックを立てて並べるの。等間隔に並べていって…、端っこのブロックを押すと……」

ウノ「あ、並べてるブロックが全部倒れちゃった!」

トリア「…これの何が面白いの?」

澪「今は五個でやったでしょ?これが十個二十個って…沢山並べたらどうなると思う?並べ方を変えて、カーブさせてみたり、本を積んでその上にブロックを並べて階段状にしたり…」

ウノ「おもしろそー!」

トリア「……へぇ」

澪「私ね、いっつも途中で倒してあんまり並べられないの。トリアって器用だし細かい作業得意でしょ?これ出来ると思うんだ。目指せ百個ドミノ!」

ウノ「トリアちゃん、やろ?私やってみたい」

トリア「…ウノが言うなら…良いよ」

ウノ「やったぁ!じゃぁ端っこじゃなくて広い所でいっぱい並べよ!」

トリア「うん!」

アル「…凄いね澪さん」

澪「え?」

アル「トリアって警戒心強いのに…そういやウノから懐柔してたもんね。澪さんって結構やり手?」

澪「私は君達の管理を任されてるだけよ…」

アル「…そうだよね、僕らは不老不死実験のマウス。大事にしなきゃだもんね」

澪「…アルはこの実験の事理解してるの?」

アル「先生ってお喋りだよ?あの人僕らの前で常々愚痴ってるし…可哀想だよね、大人って…手に入れる為に自分の手を汚さないといけないんだもん。だったら僕は大人になりたくないなぁ…ま、不老不死だから大きくなる事も死ぬこともないのかな…」

澪「……アル」

ウノ「アル君、澪ちゃん見てみて!トリアちゃんもう三十個もブロック並べたよー!」

アル「えー、凄いじゃん」

トリア「何よ、結構簡単ね。ウノ、倒してみる?」

ウノ「いーの?」

澪「……」

ウノ「澪ちゃんも見てて、行くよー!」

澪「…この実験が失敗でもしたら……この子達が…死ぬ…そんなの」

ウノ「えい!」

澪「嫌だ」

アル「あらら、最後の一個だけ倒れなかったね」

トリア「えー、悔しー」

ウノ「次ウノも並べるー!」

澪「……ウノ、アル、トリア…」

ウノ「ん?」

トリア「どうしたの?」

アル「澪さん?……え、何で泣いてるの!?」

澪「え…?」

ウノ「どうしたの?お腹痛いの?」

トリア「ちょっと、大丈夫?」

アル「澪さん…」

澪「私……、やっぱりこんな事見過ごせない!」

ウノ「澪ちゃん…?」



澪「昔々、海の様に深く、空の様に鮮やかな青色の髪の毛を持った美しい魔女がいました。その魔女は不老不死の力を持っており、世界中を一人で旅していました。魔女はいつもひとりぼっち。彼女は不老不死ですから、時間に置き去りにされるのです。彼女以外の生き物や物は彼女をいつも置いて行くのです。そんなある日、彼女は三匹の小さな子猫を拾いました。子猫達は弱っており、鳴き声もろくに出せない位衰弱していました。人間や他の動物達に虐められていたのか、身体中ボロボロで今にも死んでしまいそうな様子。魔女は困りました。永久の時を生きる彼女に小さな消えかけの命はどうしようもありません。助けたいが助けてどうなるのか…。そんな時、腕の中で弱っている子猫の一匹がか細い声で鳴きました。それは『助けて』と言ってる様にも聞こえました。彼女は三匹を抱き締め、街の獣医に駆け込んだのです」


結月「はい、もしもし…結月です。…はい、実験の準備は順調ですよ。後は当日まで実験体の体に不調が出なければ問題ないです。はい、大丈夫です。……え、澪?…彼女は実験体の管理を任せていますよ。…何か問題でも?実験の最終段階までろくに研究員を送らなかったのは貴方達でしょ?…はぁ、書類…あぁ…読んでますよ…。読みました…。ほ、本当ですって!……は?不老不死のサンプル……?…また折り返します!」

電話を置いて散らかったデスクを漁る。

結月「澪の資料…確か、この辺に……くそ、何処だ!?………あ!…これだ」


澪「私は不老不死研究の本部より派遣された、澪と申します」

結月「No.0、コードネーム、澪…。性別女…」

澪「私は不老不死研究の本部より派遣された……」

結月「不老不死であるオリジナルのクローンである…!?」

澪「不老不死である青い髪の女性のDNAを用いて造られた存在です。………よし」



ウノ「あ、澪ちゃんだー!」

アル「…澪さん…何かあったの?」

トリア「あんたこの間から大丈夫?毎日来てたのに、ここ数日どっか行ってたみたいだし…」

澪「ウノ、アル、トリア……私は………貴方達の味方よ」

アル「え?」

トリア「何よ…急に…」

ウノ「…よく分かんないけど…ウノは澪ちゃん大好きだよ!」

澪「…ありがとう。聞いてくれる?私はね……」



結月「不老不死の研究を行う私達の施設の本部には、青い髪をした不老不死の女の生きたミイラがあるとされる。主任を任された私でも、実物は見た事なかった…だから、その存在を忘れていたのかもしれない。…澪の事も、ただの一般研究員にしか思わなかった…。そう言えば、私が入所するよりも前、そのミイラからDNAを取り出し、クローンを生み出したと言う研究が成功したと聞いた事がある…それが澪だったのね…。あぁ、何でそんな事を忘れてたのかしら…!本部に何て言われるか、最悪私の夢が叶わなくなる……!…資料には、澪の事が書いてあった…、クローンとは言えオリジナルと同じ力を持つ者と接する事で実験体にどう影響が出るのか調べるのが目的だと。しかし、必要以上に情報を与えるのも、情を沸かせるのは厳禁。彼女の感情は乏しいが周りの影響で感情が成長する恐れがある……」


澪「あ、結月主任!」

結月「澪…何をしてるの?ここはこのラボの電力室よ?扉も…鍵を壊して入ったの?」

澪「小さい斧を持って来ました。これは用具室にしまってあったのでお借りした物です。用具室には掃除道具も置いてあるので鍵は持ってます。小さい施設な上、年数も経っているのでこのサイズの斧でも力いっぱい降れば扉も壊れる物ですね」

結月「何をするつもり…?」

澪「そんなの決まってます。こうするんです!」

機械を壊していく澪。

結月「やめなさい!ここには実験にも使われる機械やメインコンピューターへの電力を供給してる所なのよ!?機械を壊して全ての電力を停止させるつもり!?」

澪「そのつもりです」

結月「!?」



ウノ「わぁ!?なにー!?」

トリア「電気が消えた!?ウノ、大丈夫?」

ウノ「トリアちゃんー、近くにいるー?」

アル「……あれ?」

トリア「どうしたの、アル?」

アル「…首輪の信号が消えてる。正常に動いてる事が分かる様に常にランプが光ってたろ?それが消えたって事は…これ、外せるかも!」

トリア「何ですって!?」

アル「二人とも、じっとしてて……」

ウノ「でも、何で急に電気が消えたり首輪の信号が消えたの?」

トリア「…まさかとは思うけど」

アル「澪さんだろうね……ほら、取れた!」

トリア「じゃあ、あの時言ってた事って…本気だったの?」

ウノ「ウノ達をここから出してあげるって…」

アル「…あの人、オリジナルである不老不死の女性のクローンらしいけど…、何で僕らを助け様とするんだろう…?だって、不老不死の研究をしている組織の研究員でもあるんだろ?…理解が出来ない」

ウノ「……やっぱり澪ちゃんは魔女なんだよ」

トリア「え?」

ウノ「ウノが一番大好きなお話の青い髪の魔女!」

トリア「…ウノ」

アル「そう…だと良いけど」

①①

澪「ウノ、アル、トリア!」

ウノ「この声…澪ちゃん?」

澪「貴方達の分の懐中電灯を持って来たわ」

アル「あ、ありがと…スイッチを付けて…っと、はぁ!?」

トリア「あんた服ボロボロじゃない!?どうしたのよこれ!」

澪「…電気室の電力供給用の機械を壊せるだけ壊したからかな」

トリア「何やってんの!?あんた頭おかしいんじゃない!?」

澪「うん、おかしいかもね」

ウノ「え?」

澪「私はね、完全な不老不死ではないかもしれない。クローンでも不老不死になれないのに、何で人間が不老不死になれると思ってるんだろう…ずっとその考えが頭の隅にあった。でも、それは人間が望む夢の一つなんだと思う。私は本部で最低限の人達としか関わった事がないけど、優しい人がいた。その人、私に関わり過ぎたって理由で殺された」

トリア「そんな……」

澪「私はそれを知らされずに数十年生きた。忘れかけてた頃にその事を知らされて何も考えられなくなった。…私がここに来た本当の目的は貴方達が私と関わる事でどの様な反応が出るか…そして、私の感情が本当に死んだかどうかをl確認したかったらしい。結月主任は私の事を知らな過ぎた。だから…私の感情が蘇った事を気付けなかった」

ウノ「澪ちゃん…?」

澪「私は……これ以上貴方達を苦しめたくない!だから、逃げよう」

アル「本当に逃げれるの?」

澪「逃げよう。四人で逃げて、四人で暮らすの」

トリア「…私達は不老不死じゃないんだよ?」

澪「それでも、一緒にいられる時間はある…その時間をゆっくり感じよう?」

ウノ「みんなと…一緒?」

澪「一緒…、私達は…ずっと一緒!」

アル「約束、だよ?澪さん…」

澪「うん……だから、行こうか…急いで…出口まで行こう」

①②

ウノ「暗いね…、懐中電灯だけでも廊下の先が見えない…」

トリア「ねぇ、結月先生はどうしたの?こんな事がバレたらあの人怒らない?」

アル「見つかる前に逃げるしかないよ。僕達はもう自由なんだ!」

ウノ「自由…自由って、外に出られる事だよね?空とか海とか…本物を見れるって事だよね?」

トリア「そう、だよね…そう言うことよね?私達はもう実験体じゃなくなるんだから!」

アル「そうだ、そう言うことだ!」

澪「急がないと………っ!?」

トリア「電気が着いた!?」

澪「予備のバッテリーに切り替えたのね……。三人とも、ここの廊下を真っ直ぐ進んで突き当たりを右に曲がって。その先に裏口がある。鍵が掛かってるけど、既に私が壊してあるから、そこから逃げて」

ウノ「…澪ちゃんは?」

澪「後で迎えにいく」

アル「澪さん…」

澪「アル、二人をお願い。貴方は頭が良いから、二人を守ってあげて」

アル「…ぼ、僕」

澪「トリア、ウノのそばにいてあげて。アルが困っていたら大丈夫って言ってあげて」

トリア「…り、澪……」

澪「ウノ、二人を大好きでいてあげて!」

ウノ「ウノはアル君もトリアちゃんも…澪ちゃんも大好きだよ!」

澪「先に行ってて。心配しないで、私完全体じゃないけど不老不死の魔女だから」

アル「澪、だめだ…危ない事をする気じゃ…」

トリア「っ……、アル!」

アル「…トリア…?」

トリア「大丈夫!澪はきっと…大丈夫だから…」

アル「……お前、手が震えて……」

トリア「大丈夫だから!」

アル「!」

ウノ「行こう…アル君、トリアちゃん…」

アル「………うん」

ウノ「澪ちゃん!」

澪「ん…?」

ウノ「青い髪の魔女はね、優しくて強くて、嘘は吐かないんだよー!」

澪「…うん。また後でね!」

三人、走り去る。

澪「……行った、ね。私はクローンだから…嘘は…吐くかもね」

①③

結月「……澪、ガキ共はどうした?」

澪「お疲れ様です、結月主任。あの三人は逃しました」

結月「何て事をしてくれるのよ!あいつらの実験が上手くいけば、私達人間は不老不死になれるのよ!?何で邪魔するのよ!」

澪「不老不死になって、どうするんですか?少なくとも何十年とこの姿の私は退屈で仕方ありませんでした。みんなが変わっていく中で私だけが変わらなくて…私と親しくしてくれた人達は殺されていく…こんなにつまらなくて悲しい人生があっていいのものなんですか?」

結月「人類全てが変わらない世界があるなら、それはそれでいいじゃない?本部のやってる事があんたを悲しませただけでしょ?私には関係ない」

澪「…では、貴女も悲しむ事をしてあげます」

結月「は?」

澪「私、この間本部に帰っていたんです。貴女の杜撰(ずさん)な性格を伝える事を口実に…電話、来ませんでした?」

結月「あ…」

澪「そして、オリジナルの顔を…最後に拝んでおきました。爆弾を仕掛けて」

結月「……へ?」

澪「私は唯一のクローン、だからオリジナルである彼女の居場所を知ってるし、そこに行く事が出来る。監視も無しで…だから私は爆弾を仕掛けて来た。彼女がいるのは本部の地下。生きたミイラである彼女を生かす為に繋げられた生命装置や危険な薬品が沢山ある機密倉庫……そこが爆発したら、どうなると思いますか?」

結月「あ、あぁぁあ!?」

澪「そして、このラボにも爆弾を仕掛けました。私がいつまでも何もしないただの人形だと思ってた本部の奴ら、何て顔するでしょう?」

結月「や、やめなさい!」

澪「何も出来ないわけじゃない。あの子達の為なら何でも出来る…。私は、青い髪の魔女の様に優しい人でありたいから…!」

結月「やめてぇ!」

澪「時限式爆弾……、あと30秒位です。逃げようとしても、もう手遅れでしょう。貴女はあの子達を雑に扱っていたから嫌いです。でも、私は優しい魔女なので、これだけは伝えておきます。今まで有難う御座いました。お世話になりました、結月主任」

結月「いやだぁぁあ!!」


①④

ウノ「……ねぇ、ウノ達がいた施設の方から大きな音しなかった」

トリア「確かに…何の音だろう……澪、大丈夫だよね?」

アル「……分かんない。でも、あいつは大丈夫って言ったんだ。きっと大丈夫だ」

トリア「そうよね…」

ウノ「うん、澪ちゃんが来るの待ってよう!」


澪「……やっぱり、不老ではあって、人よりも頑丈ではあるものの……私はオリジナルと同じじゃない……よ、ね……。ごめん、ね…ウノ、アル…トリア……三人の未来に…祝福…が、あります…よ……に………………………」

①⑤

ニュース「臨時ニュースです。警察が違法な研究を行っていたインモータル社の会長、社長、各施設の主任を逮捕し、研究に携わっていた人物、約30人の身柄を取り押さえました。この会社は現在では違法となっている人類の不老不死化の研究を行っており、違法な実験も行っていたとの事です。2年前、インモータル社の本部と研究施設の一つが大爆発を起こし、そこからこの非道な研究が明るみになりました。警察は施設で実験に参加させられていた子供80人ほどを保護し、更に捜査を進めています………」


トリア「やっと終わったね…」

アル「なんだかんだ組織の連中を一網打尽にするまで2年かかったか…。ま、今まで上手く隠してたもんね。でも、こうやってニュースにもなって、全員捕まったからもう悪い事は出来ないな」

トリア「…オリジナルの不老不死のミイラ…あれはどうなるのかな?」

アル「さぁ、本部の地下に置いてあったって聞くけど、爆発の影響で地下は瓦礫で完全に埋まってるらしいよ…。発見に至るにはまだ時間かかりそうだね」

トリア「その前に組織の捜査とか連中の取り調べとかに追われそうだしね」

アル「……トリア、ウノは?」

トリア「また空と海を見に行ったよ。あの本の内容を口ずさみながら…」

アル「あの本、だいぶ古い物だったんだよね。今じゃ何処にも売ってなかった…。あれだけ持って行けば良かったな…」

トリア「無理よ。あの時は無我夢中だったんだし…、あそこから逃げて2年…研究施設の実験体であった事で保護されて、今は保護施設にいるけど…ぽっかり穴が空いた感覚よ。勘違いしないでよ?ここの施設は優しい人たちがいて、私達を助けてくれた。痛い思いも怖い思いもしてない。研究による副作用がいつか出るかもしれないけれど、今はどうでもいい…私のこの感覚は…きっと……」

アル「澪さん?」

トリア「…うん、私もウノと同じ…寂しいんだと思う…アルは?」

アル「……寂しいよ。でも、二人の事頼まれたから…僕は澪さんが戻って来るまで二人を守る」

トリア「…私も、澪が戻って来るまで、ウノの傍にいる。アルの事を支える…」

アル「……そろそろウノを迎えに行こう。暗くなる前に…」

トリア「そうだね」

①⑥

ウノ「…昔々、海の様に深く、空の様に鮮やかな青色の髪の毛を持った美しい魔女がいました。その魔女は不老不死の力を持っており、世界中を一人で旅していました。魔女はいつもひとりぼっち。彼女は不老不死ですから、時間に置き去りにされるのです。彼女以外の生き物や物は彼女をいつも置いて行くのです。そんなある日、彼女は三匹の小さな子猫を拾いました。子猫達は弱っており、鳴き声もろくに出せない位衰弱していました。人間や他の動物達に虐められていたのか、身体中ボロボロで今にも死んでしまいそうな様子。魔女は困りました。永久の時を生きる彼女に小さな消えかけの命はどうしようもありません。助けたいが助けてどうなるのか…。そんな時、腕の中で弱っている子猫の一匹がか細い声で鳴きました。それは『助けて』と言ってる様にも聞こえました。彼女は三匹を抱き締め、街の獣医に駆け込んだのです…」

澪「数日後、魔女の腕の中には元気になった三匹の子猫達がいました。弱々しかった事が嘘の様に、魔女に向かって元気に鳴いていて…それはまるで『ありがとう』。そう言ってる様にも聞こえます。………よく覚えてるね。私なんて本を見ながらじゃないと言えないよ…これウノが一番好きな『青い髪の魔女』の本、やっと見つけた」

ウノ「……澪、ちゃん……」

澪「うん、青い髪の魔女は優しくて強くて、嘘を吐かない……ね?」

ウノ「澪ちゃん!」

澪「ウノ!お待たせ!」


澪「それから魔女は三匹の子猫達を連れて旅に出ました。三匹と流れる時間が違うのなら、三匹と今過ごしている時間、目に見える物、触れ合える全てを一緒に経験しよう……それはきっと、いつか訪れる運命も、大切な思い出になる…。魔女にとって、子猫達にとっても…かけがえのない時間になるだろうと……。そうして魔女と三匹は短く長い旅に出るのです…………、青い髪の魔女、第一話…おしまい」


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