バングラデシュ、7月のデモで起きたこと。
みなさん、お久しぶりです。
アシスタントデザイナーの長です。
みなさんに伝えたいことがあり、noteを書きます。
11月に再びバングラデシュに行ってきた。
今回は自分の新しいバッグの開発と、絵理子さんの新作を先に現地のサンプルメンバーと作ることがメインの出張だった。
絵理子さんの新作を先に作るというのは、絵理子さんが出張中に最大限のパフォーマンスを出せるように準備することで、ラフのサンプルを先に形にしておく必要がある。
さて、7月から約4か月ぶりのバングラデシュだったが、今回は前回の滞在から、バングラデシュが大きく変わったと思わせられる出来事が自分の中であった。
それは、ダッカの街中のウォールアート。
ウォールアートと言っても、抽象的に人を楽しませるためというよりも、国民の主張をはっきり描いた作品ばかりだった。
それらは、7月に起きた、学生デモを描いたものだった。
デモにより視力を失った人々、ネットが遮断された事実、軍と生徒が戦う姿、血を流している姿、私たちは立ち上がるぞと意志を持った絵。
抽象的ではなく、事実を隠さず、ありのままの出来事が描いてあった。衝撃的だった。
何百人もが亡くなり、何千人もが傷を負い、バングラデシュの人々にとっても、マトリのみんなにとっても、私にとっても、本当に忘れてはならない出来事になったと思った。
実は私はデモが一番酷かった時期に、ちょうどバングラにいた。
その時に付けた日記があり、自分の心情を包み隠さず書いたものがある。
少し長くなってしまうが、このデモを実際に体験した日本人として、何があったのか伝える必要があると思い、このnoteを通して伝えることに決めた。
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【7/20】
今社宅にいて、この文章を書いている。
今日はマトリがクローズになった。バングラで生徒によるデモが起きていて、政府の軍隊が町中に動き回っては人々の行動を観察をしていて、デモに当たる行為と見なされれば逮捕、あるいは射殺されるから。政府が、外出禁止令を出した。
明日の10時頃、最高裁の裁判で、公務員の特別枠の割り当て制度を撤廃するのか判決が下されるらしい。
約1週間前から、このデモが徐々に悪化していて、おととい(7/18)からバングラデシュの全地域のネットが遮断された。一昨日の夜まではWi-Fiが使えていたのだが、なんと深夜からWi-Fiも遮断されてしまった。
今は電話だけ使える状況なので、マムンさんや現地に住んでいる日本人の田中さん(絵理子さんや日本人スタッフの出張時に、通訳などその他幅広いサポートをしてくださっている方)と電話で話しながら、情報収集している。田中さんによると、数日間もネットが遮断されるのは2007年の出来事以来らしい。政府の本気度が伝わると話していた。
今日でネットが使えなくなって、約2日経つ。とても不便だ。。。日本のスタッフにも状況報告ができないし、マトリもクローズでサンプルも作れないから、もう本当に最悪な状況としか言えない。ありがたいことに、ネットが繋がってなくても、PCのワードやパワポは使えるので、こうやってnoteのための文章を書いたり、資料のベースを作ったりできるし、PCでなければ新しいデザインを考えたり、バッグの品質試験の内容を考えたり、少しでも仕事ができることにありがたみを感じる。
私たちはネット社会に生きているんだな、、、と改めて感じさせられる。。。こんなにも携帯から離れたのは、多分中学生でガラケーだった時以来。。。ネットに繋がっていないと日常の半分以上に支障をきたすって、人間、退化してきているんじゃないか、、、って思い始めた。
でもそんな時にも、バッグは作れるから、やっぱり人間が生み出す手仕事に勝るものは、多分まだないんじゃないかなぁって思う。
そして、今回のデモだが、生徒と警察の衝突で、すでに数十人もの方が亡くなっていると聞いた。道も封鎖されて、お店も閉まって、特にダッカや都心の方は外に出て、生徒だと見える人たちは射殺される危険性があるほど、今本当に深刻な事態になっている。
事の発端は、公務員特別枠制度の復活だった。この制度は、公務員の採用枠の約30%を1971年のパキスタンからの独立戦争に従軍した退役軍人の親族に割り当てられる、というものらしい。公務員職は雇用の安定や、高給が約束されているので、多くの人々にとって割り当て制度は問題視されてきた。これが、バングラデシュの多くの人々が公務員職につけるよう、公務員の特別枠制度が廃止されていたのだが、それが違憲だという判決が新たにくだされ、特別枠制度が復活したことにより、暴動が起きた。
ただ、どんなことがあろうとも、やはり警察が一般人をどんどん虐殺していくなんて、絶対あってはいけないと私は思う。
バングラデシュは、まだ独裁政治下の国なんだって、今、この出来事を通して身をもって体感している。
明日は少しでもおさまって、マトリが再開できますように。ネットも使えるようになりますように。
【7/21】
今日でネットが遮断されて4日目になる。まだ復旧する見込みはない。
今日政府から判決が下されるらしいが、それに生徒たちが納得するかは正直わからない。こんだけ多くの若者が殺されていて、友達や家族を失った人たちが多いから、簡単に落ち着くわけない。
むしろさらに悪化する気がしている。
今日カメラマンのNさんが日本に帰国する日だが、はたして飛行機は飛ぶのだろうか?とても心配でしかない。Tさんによると、ビーマンもそれなりに飛んではいるみたいで、多分飛ぶんじゃないかとのこと。それならいいのだが。。。
私も今日もマトリが休みのため、社宅で作業するしかない。でもできることは何でもやろうと思う。
早くネット復旧してくれ。
【7/22】
昨日、判決が下されて、公務員の93%は一般の人々が応募できるように制度の割り当てが縮小された。
この判決によって、事はよい方向へ進んでいるとマムンさんや田中さんは話していた。ただ、まだ軍隊のヘリが飛んでいたり、街には警官がいて人々の行動を監視している。
お店は開けているところが多いみたいだが、警官や軍人が見回りに来ると閉めなければいけない状況らしい。
まだ無闇矢鱈に、外へ出てはいけない、危険な状況だ。ネットも使えないままで、今日もマトリは規制閉鎖になった。
そう言えば、ネットやWi-Fiが使えなくなったのにはある理由があるらしい。実はデモによってデータ局が焼かれてしまったからだと田中さんから聞いた。彼女曰く、それが事実か、政府による隠蔽かは不確かだという。
いずれにせよ、ネットが復旧するまでにはまだ数日かかりそうな気がする。
なんと、今田中さんと電話して得た情報なのだが、昨日田中さんの知り合いのバングラ人の方が2名撃たれたらしい。しかも1人は、外出許可時間を30分超えていたために。昨日の15時〜17時が外出許可の時間だったんだが、17時を少し過ぎて軍隊に見つかり、銃撃されたと。あり得ない。もう軍隊が規則に厳重になり過ぎていて、しかも、許可なく撃ってくるらしい。怖すぎるよ。
しかもその方が撃たれたのが、大使館のすぐ近くだったらしく、もう安全なところはどこなんだと疑うくらいの、場所なんて関係なしに銃撃してくる、軍人が正気を失っているとしか思えない。
その方は今手術して一命を取り留めたみたいだが、もう1人の方は亡くなったらしい。何の罪もない人がこんなにも簡単に殺されてしまうなんて。人を殺すことが普通になってきている人々の感覚に、本当に恐ろしさと絶望感を感じる。
そして手術代があり得ないほど高いらしい。50万もかかるみたいで、これじゃあ工場の職人さんなんて、絶対に払えない。マネージャー陣だって払える金額じゃないよ。。。だって日本だって50万なんてとっても高いのに。
今、みんなの気が少し緩んできている時だと思うから、今こそマムンさんと話し、警戒レベルを上げないといけない。マトリのみんなの命が何よりも大事だから。
【7/23】
今日は帰国日。
今日も政府からの注意喚起が出て、マトリは規制閉鎖に。でも、これがみんなの安全を考えるとベストだと思う。まだまだ政府が許可した外出時間以外に外に出ると射殺される恐れがあるから。
フライト時間は11:45pmなんだけど、空港へ向かうのは多分14時くらい。それも政府がOKを出した時間帯に私たちも行動しなければいけないから。昨日は14時から17時の間に外出が許可されて、多分今日もそのくらいの時間だとマムンさんが話していた。
ザイドさんがカメラマンのNさんを空港に送りに行った時に、2度、政府(軍隊?)の検問があったらしい。だから多分今日も2度検問を通り抜けなければいけない。
そのために、私のビザのページや、チケットの予約書を印刷して、ザイドさんと運転手のカルさん用に準備している。
それは、彼らが空港から帰る時にも検問を通るためその時に提示する必要があるから。
まだネットは復旧しないし、街の危険レベルは高いし、いつマトリが再開されるのか、本当にわからない状況。昨日ジアさんと話して、生産スケジュールをもう一度考え直そうと話した。私も日本に帰ったら、今のバングラの状況を細かく日本のチームに伝えて、これからどう生産やサンプルを進めていくか話す。
まずは今日、無事に日本へ帰国できますように。
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これがデモ中にバングラデシュにいた時の事実だ。
私はその後、予定通り日本へ帰国することができた。
でもそれは、マムンさんや田中さんをはじめ、マトリのみんなが助けてくれたから。
この出来事を通して、また自分の無力さを感じた。
でもそれと同時に、自分ができることは何だろう?と深く考えるきっかけだった。
私たち日本人は何でも手に入り、与えられることが当たり前になっていると感じる。本当は、誰かのおかげで、私たちは生きることができるのに。
仕事があることが当たり前ではなく、衣食住ができることも当たり前ではなく、安全が保障されていることも当たり前ではない。
ただ、自分たちが恵まれているだけ。
だから、それに満足してはならず、今回のデモのように、死と隣り合わせになってでも、必死に生きている人たちがいることを忘れてはいけない。
そして、自分たちなら何ができるのか、自分と周りとしっかり向き合って、行動していかないといけない。それが先進国にいる私たちがこれからやっていかなければいけないことだと思う。
人間、一度きりの人生だから、やりたいことをやったほうが良いと思う。
でもそれが、誰のためになっているのか?誰かの役に立っているのか?誰かを喜ばせることはできているのか?
それを時々考えることは本当に大事なことだと思う。それが実現できているか、その時はわからないとしても。
そういうことをちゃんと考えることで、自分はまだできないから、だからやる。できるかわからないけど、やってみる。という、自分が置かれている環境を客観的に再認識できて、行動に起こせると思うから。
そういう未来に対しての覚悟を持つことや、挑戦することは、ずっと続けていきたいと思った。
話がそれてしまったかもしれないが、
少しでもバングラデシュで起きたデモのことが伝わったら嬉しいです。
最後に、今回の出張で撮った、現地の人たち。
活気があって、色鮮やかなバングラデシュ。元気が出る!!