デス ヴォイス
デス ヴォイスをご存知でしょうか?
デスヴォイスもしくはデスボイスとは、意識的、積極的に出す「ダミ声」「悪声」「がなり声」であり、主にデスメタル、ブラックメタル、グラインドコア、ゴシックメタル、メタルコア、ポストハードコア、スクリーモなどのジャンルで多用される発声技法[1]。強い怒りや悲しみなどの感情や、不気味さ、汚さ、痛みや苦しみなどを表現するために使われる。(Wikipedia)
私はメタル系の音楽も好きなのでお馴染みなのだが、知らない人は一先ずYOUTUBEか何かで聞いてみてください。僕の気持ちがより伝わると思います。
今回は私の人生で一番心に残るデスヴォイスについて書いてみたいと思う。
出動指令「20代女性、包丁を持って立てこもっている。」
出動先 ○市〇〇3-3-1 △アパート201
現場は国道の1本裏の道路に面する低層アパートの2階、隣の建物に住んでいる父親からの通報だった。
正直な話、この類の通報は困る。
二次災害防止のため近づくことは出来ないし、待機時間が長くなるパターンが多い。
その日も現場近くで、一時間ほど待機していた。
父親から情報を聴取していたのだが、父親の発言にはトゲトゲしさがあった。
父親 「県外から帰ってきてから娘の頭がおかしくなっていた。今日、精神科病院に行く予定だったのに、喧嘩になって。」
私 「そうなんですか…」
父親 「とにかく病院へ連れて行ってくれ!!」
しばらくして、警察官の説得に応じて女性が階段から降りてきた。
予想に反して普通の綺麗な女性だった。
特にケガもなく、受け答えもしっかりしているが心の病があるそうだ。
車内に収容した後、郊外の精神科病院に向けて出発した。
私は救急車の後部で女性と二人。
この女性に一体何があったのか気になる所だが、まず聞くことはない。
プライベートに踏み込まないのは、自分のためでもあるし、仮に答えてくれたとしても、それに対する気の利いた答えなんてできない。
救急車は高速道路に入った。
それまで大人しくしていた女性だったが、なんだか表情が曇り外の空気を吸いたいと言い出した。明らかにさっきとは雰囲気が違う。
私は女性の気分を害さないように、救急車の小窓を10㎝ほど開けた。
私「これでいいですか?」
女性「外の空気吸わせて。」
走行中に座らせておくのは安全管理の鉄則だ。
しかし、変に刺激になるようなこともしたくない...
運転席側を見るとほぼ直線の高速道路が続いているし、振動などの心配はなさそうだった。どうしようか。
と、一瞬だけ目を離していた隙に謎の大声が聞こえた。
女性「ヴォォォォオォォ‼ヴォォォォオォ‼」
なんと、女性が車窓からデスヴォイスを放っている!
慌てて女性を窓から引き離して椅子に座らせたのだが、中身は確実に違う人格である。
そんなことより、声が発せられた側に一般車両も走っていたので本当に焦った。事故にならなくてよかった...
しばらくして、女性の呼吸も落ち着き、病院に着くころには始めと同じ大人しい女性に戻っている。そのまま医師へ引き継ぎとなった。
医師に一連のことを話したが特段珍しがる様子もなかった。
それにしても、信じられないほどの変貌だった。目の前で人格の入れ替えを見たのは後にも先にも、この時しかない。
あの女性はどこかで幸せになっていると願いたい。
※この話はフィクションかもしれません。
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