赤の他人

○住宅街(夜)

田島哲人(22)、鍋の具材が入ったスーパーの袋を持って、堀田絵里(22)と歩いている。
田島「こんな遅くから鍋なんて」
絵里「でも、なんか早い時間より良くない?」
田島「確かに、ちょうどいいな、鍋」
絵里「ちょうどいいよ」
田島「ネギは俺が切って」
絵里「白菜は私が切って」
田島「エリンギは俺が根っこを切って」
絵里「私が指でちょうどいい大きさに分けて」
田島「あ、またちょうどいいって言った」
絵里「ダメだ使っちゃう、ていうか別にいいじゃん」
話していると、前から全身赤のボディペイントをした男性が歩いてきて、田島を見つけ、何か気づいたように声をかける。
赤い男「あの……」
田島、無視して絵里と雑談しながら通り過ぎる。
赤い男「あの!」
田島「(振り返って)え?あ……はい……?」
赤い男「あの、どこかで一度お会いしましたっけ?」
田島「いや……ないと思います」
絵里「え、お知り合い?」
田島「いや、全く知らん。赤の他人だよ」
絵里「え、色がってこと?」
田島「色も一般的にも」
赤い男
「あ、そうですか……気付きませんよね、こんな髪してるから」
田島「赤すぎて髪型してるかも分からないです」
赤い男「ですよね、ごめんなさい、素直になれなくて……」
赤い男、急にしゃがんで泣き出す。
田島「え、どうされました?」
絵里「大丈夫ですか?」
絵里、赤い男の背中をさする。
田島「おい、お前凄いな」
絵里「え、何が?」
田島「だって、赤の他人だよ」
絵里「赤の他人でも、涙を見たらほっとけないでしょ」
田島「すごいなお前」
赤い男「……すいません、あ、ありがとうございます……」
田島、何かに気付く。
田島「え、これ、もしかしたら、もっと泣いたら、涙でペイント取れて顔見れんじゃないの?」
絵里「ちょっと!何言ってんの?こんな時に!(赤い男に)すいません……」
田島「でも、顔見れたら俺だって何か思い出せるかもしれないよ!」
絵里「いいよ!何も思い出さなくて!」
赤い男「思い出は、捻り出すもんじゃないです」
田島「お前が何言ってんだよ!」
田島、鍋の具材が入ったレジ袋を置いて、赤い男に近づき
田島「ほら、いいからもっと泣け!ほら!おいもっともっと!泣けよほら!」
絵里「ちょっと、止めて哲人!」
田島「関係ねーよ!ほら泣けよおら!誰なんだお前早く見せろよ!ほら!泣けよおら!」
絵里「今あなたの方がヤバいよ!」
田島「知らねーよ!ほら、泣けよこら!」
巡回中の2人の警察官が通りかかり、1人の警察官が急いで田島を取り押さえる。
警察官1「ちょっと!何してんの君!ほら!離れなさい!」
羽交い締めにされる田島。
田島「おい、離せよ!おい!離せ!お前誰なんだよなぁ!おい!」
警察官1「落ち着け!おい!」
もう一方の警察官が手錠を出し、田島の腕にかける。
警察官2「22時30分、不審者確保」
田島「なんで俺が不審者なんだよ!目の前にいるだろ不審者!」
警察官1、警察官2に田島の身柄を渡す。
警察官2、抵抗する田島を連行する。
田島の声「ふざけんなよ!おい!お前誰なんだよ!」
警察官1、赤い男と絵里を心配し
警察官1「お2人とも、怪我はないですか?」
絵里「はい、大丈夫です」
警察官1「よかった」
警察官1、不審そうに顔をうつ伏せている赤い男を見つめる。
絵里「あ、さっきまで赤の他人だったんですけど、今友達になりました」
警察官1「もう夜遅いんで、早く帰ってくださいね」
と、一礼をし、去って行く警察官。
絵里、警察官が去ったのを確認して
絵里
「秀、行ったよ」
赤い男こと飯島秀(22)、顔を上げる。
「あぁ、長かった、やばいなアイツ」
絵里「でしょ?ごめんね、感情的になりそうだから、これぐらいしないと別れられそうになくて」
「いいよ、全然、やってみたかったし、ボディペイント」
絵里「うちのお風呂使っていいよ、その後、(レジ袋掲げ)鍋、食べよ!」
「ちょうどいいな」
立ち上がって、歩いて行く2人の背中。






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