ミステリー小説 ロンドの旅 Chap3.東京の事件 11.代償
朝食もルームサービスで、トースト、目玉焼き、ベーコン、サラダと、父親はホットコーヒー、娘はホットミルクを注文した。水を飲みバターを一塗りドレッシングを一周させたあと、話し始めた。
今回の暗号はどこから手をつければいいのか。それは奥様の「情報は君の手元に揃っている」がヒントになった。そこで先生と会ったあの晩の不自然なやり取りが過ぎった。実は、これを順番に紐解いていくと答えに辿り着くことができるんだ。
…。
父親が適当な大きさにちぎったトーストを小さな手で一切れずつ口に運び、時にはミルクを飲みながら耳を傾けた。
違和感は、先生の口から聞いたことのない"昔話"から始まる。まずは、"光と闇"、"表と裏"、"表裏一体"だ。ここら連想されるのは…
All told
そう。バルカ、やるじゃないか。先生から渡された1万円札の透かしに書かれた"blot llA"は、"ブロット11アンペア"ではない。これを裏返し光に当てて読むと"All told"。"全て話した"の他に、"全てを合わせる"という意味もある。そして、次に家族の話が出た。先生は普段日本語を使うが、あえてfamilyと言っていたことに違和感があったし、"誰か1人欠けても喪失感が大きい"という言い回しもヒントだった。ここから導き出される答えは、familyをAll told…つまり家族を全て合わせるということだ。
…。
…バルカ、初めて君に伝えることになるが、実はソナタにも前の旦那さんとの子供がいるんだ。男の子が1人ね。その子は現在"上"の施設で訓練を受けていて、僕もほとんど会ったことがない。こんな形ですまないけど、君の義理の兄ということになる。
…。
だから、僕ら家族を全て合わせるという指示であれば、答えは5。先生はソナタの居場所を聞いていないと言っていたし、僕しか持っていない情報がないと解けない暗号にして、徹底的に他者の介入を排除したんだろう。"上"やメライたちに邪魔されず、僕だけと話すため。
…。
娘は表情を変えず同じように自分のペースでゆっくり食事を続けていた。父親も少々話疲れたのか喉を潤し、目の前の食事に手をつけた。
話を続けるよ。そのあと、唐突にチェスの話題が始まったね。"オープニングの戦術"の話だ。チェス用語では"ギャンビット"だけど、これにはいくつか種類がある。ここでのヒントはさっきの5と、先生の話にあった"駒を犠牲にする攻めの一手"という言葉。familyのfと合わせるとf5…ギャンビットの中には1つだけ駒をチェス盤のf5に進めるものがある。滅多に使われることはない超攻撃的な一手だよ。そして、その答えが次の行き先を示しているんだ。
ぐれこかうんたー
うん。そして、またの名を"ラトビアン・ギャンビット"だ。だから最初に言ったとおりソナタはラトビアで待っている…だがこれだけだとどこに行けば良いか分からない。
じけん
当たり!"上"の端末をここへ置いて行く前に星の数を調べよう。僕の解読が合っていればきっとラトビアにもあるはずなんだ。高確率で星3つの事件が。
久しぶりに左手の人差し指を上に向け、これでもかと爽やかな笑顔で渾身のドヤ顔を披露したと思ったら、すぐさま端末を操作し、各国の事件の星を調べ始めた。
…おかしな現象が起きているな。先生の事件を含め100%星3つと表示されている事件が10件以上もある。これまで星3つの確率が低いとされていた事件も、途中で判定が変わったんだ。この短期間で同時にこんなことが発生するとは。まさか、ソナタが"星システム"のカラクリに気付き、撹乱しているのか…。
…。
やはりあったよ。ラトビアにも100%星3つの事件が。食事が終わったら準備をして出発しよう!この部屋は10泊分確保して、"上"との通信端末はここに置いていく。少しでも自由に動ける時間を稼ぐんだ。
メライたちはロンドの依頼どおり東京の事件捜査を開始した。"上"の協力がないこともあるかも知れないが、彼女たちの能力をもってしても、犯人の手がかりは何も見つからず、事件は未解決のままであった。
Chap4.へ続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?