ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件2.空虚
首都から公共交通機関を使い30分ほどで目的地へ着いた。ここは暖かくとても過ごしやすい。2人は久しぶりの海を目の前にして波の音を聞きたくなったのか、チェックインを済ませるとすぐに砂浜へ出向いた。時には手を繋ぎ、時には子を抱き抱え、波と風と砂を踏む音を感じながら散歩を楽しむ。衣類の支給は途絶えたので洗濯が日課になった。白い洋服と、彼らの髪型、髪色、瞳はいつもと変わらずお揃いである。
ただ一つ違うことと言えば、愛するもう1人の家族がここにいないことだ。彼らは訓練により身も心も常人の何倍も強い。それでも、各々彼女への思いは強く、ずっと3人で旅をしてきたことでより絆が深まっていたため、あの時無理にでも連れて行けば良かったと柄にもなく後悔の念を抱いていた。心情だけではない。彼女の負けん気の強さや誰とでも対等に渡り合う気量に加えて、"上"との円滑な通信や次の目的地の選定・移動の手配など、この過酷な旅にはもはやなくてはならないとても頼りになる存在であった。
彼女を失った彼らをここまで来させた原動力は紛れもなくソナタである。妻に会い旅を終わらせて、また元の平穏な生活に戻れることを願い、この地に赴いた。しかし、父親と次女の思惑は同じではなかった。父親は妻の無実を信じ濡れ衣を晴らす方法を探すことが目的であったが、次女は長女と同じく義母を疑っているのだ。
なぜ2人の賢い幼女たちは、そこまで彼女へ辛辣な目を向けるのか。それはまたあとで語るとしよう。いまはここで起きた事件を追う彼らを見守り、一緒に謎を解明してほしい。きっとこれまで以上に難解で不思議な出来事を目の当たりにする。だがそれも物語の始まりに過ぎない。彼らの旅はどこへ向かいどこで終わるのか、最後まで見届けてみてはいかがだろうか。