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恐怖漫画について〜楳図かずおの時代と『黒い絵本』〜
こんばんは。ぶたおです。恐怖漫画、ホラー漫画について少し語らして欲しくて書いてます。なにせホラー漫画の第一人者の楳図かずお先生が亡くなってショックなのです。後にホラー映画なんかにどハマりしていく青春時代を送るのですが、その原点になったのは間違いなく楳図かずお先生の影響でした。
自分が物心ついて初めて読んだ恐怖漫画というのが何かは覚えてませんが、おそらく雑誌の読み切りとかの雑多なやつの何かのはずで、初めて名前を知って単行本まで手を出したホラー系の漫画家は間違いなく楳図かずお先生でした。歴史的にみても、ホラー漫画で名を上げた最初の漫画家といえる作家だと思うので順当な出会いでしたね。
なにしろ僕が生まれるずっと前の60年代には『半魚人』を週刊少年マガジン誌に掲載してたくらいですから。同じ時期に水木しげる先生も鬼太郎で商業雑誌での連載デビューをしておりますし、自分も楳図先生より先に、鬼太郎を知ってましたが、ホラーというよりは妖怪漫画というくくりでした。純粋に怖い漫画というのが幼少期には衝撃でした。
最初に手にした漫画はその名の通り『恐怖』という全3巻のホラー漫画の短編集で、高校生記者シリーズというのが主に収録されていました。1巻の『うばわれた心臓』の衝撃がすごくて、この世にこんな怖い漫画があるのかと驚き慄きました。そして3巻の『サンタクロースがやってくる』の恐ろしさにも震えました。そのあと『怪』全3巻にも手を出します。こちらはわりと統一感のないホラー短編・中編集だった記憶がありますが(なにしろ2巻はまるまる蛇少女の漫画だし)、3巻収録の『おみっちゃんが今夜もやってくる』が死ぬほど怖くてたまりませんでした。サンタクロースのやつもそうでしたが、毎晩何かがやってくる系がとにかく怖かったですね。おみっちゃんは、貸本時代に描いてた作品のリメイクだったと後で知りました。いまは貴重なオリジナル版も読めるみたいですが、さすがに内容的にはあっさりしてるとか?(読んでない)
楳図かずお先生がホラー漫画を中心に人気を博した後の70年代には、つのだじろう先生が『うしろの百太郎』『亡霊学級』『恐怖新聞』なんかで心霊マンガという境地を切り開いていきますが、自分なんかが漫画を読み出す頃(80年代)にはすべて出揃ってたはずでなんです。けれど実際わりと歴史の順番通りに知って行ったことになります。なんでなんでしょうね?『恐怖新聞』の最終巻もだいぶ遅れて発売されていました。自分も新刊で買った記憶があるんですよね。
とにかく80年代の前半くらいは、怖い漫画がすごいブームで、立風書房(学研の子会社だったらしい)とか、ひばり書房(貸本漫画を出していたところが同じノリで商業の描き下ろしを出してたみたい)といった今は存在しない会社が、おどろおどろしい漫画本を連打していました。街の本屋さんは、ホラーコミックのコーナーにすごいスペースを割いてましたね。そんなことある?
日野日出志や古賀新一といった作家を知ったのもそんな怖い漫画のレーベルでした。古賀新一はチャンピオンコミックで『エコエコアザラク』という代表作も全19巻も出しており、そちらも読んでました。当時としてはかなりの長期連載といえますし凄いことですよね。そりゃ藤子不二雄先生ですら『魔太郎が来る!』とか描くわと。70年代からはつくづく怪奇漫画ブームだったんですね。ホラー映画も流行ってたし、テレビでは心霊特集ばっかやってた印象があります。その余波は80年代前半まで続いてたということですね。もっとも、今も実話怪談師がYouTubeで大ブームだし、ホラー系は定期的にずっと流行ってるといえるのかもしらんすね。
自分が楳図かずおがの恐怖漫画にハマってたころ、『おろち』『イアラ』『漂流教室』『洗礼』なんかのホラー要素ももちろんあるが、ジャンルとしてはSF・サスペンス・ミステリーといった方がよさそうな代表作も軒並み連載を終えていて、またギャグ漫画でもヒットを飛ばしており、世間的には『まことちゃん』の人みたいになっていたと思うけど、自分は『まことちゃん』というより恐怖漫画の人としての楳図かずおが好きでしたね。だもんで、ホラー要素の薄い(まったくないとは言わない!)『まことちゃん』はあんまり熱心に読まなかったのです。たまに読んだ時は死ぬほどウケてたけど…。
リアルタイムで連載中の作品にはっきり触れたのは『わたしは真悟』(1982-86)が最初のような気はします。ただし雑誌で読んでいたというよりも単行本が多かったですね。いまでいうと完全にSF作品ですけど、当時は何が何だか分からない漫画で、楳図かずおだから恐怖漫画だろうという認識でしたので、訳のわからない怖さがあったのですよ。楳図先生だけに、描写的には不気味な絵が多かったですのでね。大人になってから改めて単行本を揃えて、内容を理解しながら読んで超傑作だと理解するんですが、さすがに小学生低学年の当時に分かれと言うのは難しかったです。「AIとは何なのか?」とかすらもよくわからなかったです当時は!
そのあとも楳図かずお先生の漫画はぽつぽつ読んでたのですが、知らないうちに『神の左手悪魔の右手』というのが始まってて、友達の家で単行本で1巻の方を読んで衝撃を受けたものです。
「こ、これは楳図かずおの描く究極のホラー漫画だ!!!」と。
のっけから凄まじいまでのスプラッター描写とホラー的アイデアの暴風雨。序章の錆びたハサミ編から、問題作の黒い絵本、最終編の影亡者まで、これでもかという楳図先生のホラー・ファンタジーなアイデアがてんこもりになっておりました。『黒い絵本』の回だけ抜き出してもとんでもない話になっているのですが、よくもまあこんな話を考えつくなという強烈なオムニバス・ホラー漫画です。『ジョジョの奇妙な冒険』に一番パクられ(ry……インスピレーションを与えた作品の可能性ありますよね。パッと思いつくだけでも4つ5つの元ネタになってますもん。スタンドが出てくる第三部が始まったのって、この作品が連載終了した1989年なんですよね。最終章の影亡者の話が、スタンドの元ネタというのは有名な話です。それにつのだじろう先生の『うしろの百太郎』をちょいと加えると完璧にジョジョ3部になります。ほんと荒木先生のバックボーンというは、どうしょうもなくホラー系だというのが分かりますね。まあとにかく、それくらい楳図かずお先生の総決算的にアイデアに富んだ濃厚な作品だから、今でも『神の左手悪魔の右手』が一番好きなのかもしれないし、次は『猫目小僧』とかになるのかも?
もちろん…もちろん『漂流教室』『わたしは真悟』や、本当の漫画家人生の総決算になってしまった『14歳』とかも好きよ?どれも好きだけど、強いて言えば、原点であるホラー系に思い入れが強いんよ。でも、主人公キャラとしては悟と真鈴が一番可愛いよねえ…。楳図かずお先生の漫画は、翔ちゃんとか、猫目小僧とか、まことちゃんとか、想ちゃんとか、アメリカとかもそうだけど、子どもの感性を美しいものとして追い求めてたようなところがありますよね。
そんな楳図かずお先生も、ついに亡くなってしまったわけです。まことちゃんハウスを吉祥寺まで撮影に行ったりしたのも良い思い出ですよ。色々騒動があったせいで、ご本人はあまり住んでなかったらしいまことちゃんハウス。文化財として残るのでしょうか。いや、主人のいないハウスですから、いつか取り壊されてしまいそうですね。寂しいです。今まで面白いマンガをたくさんありがとうございいましたという気持ちでいっぱいです。
めちゃくちゃ好きな『神の左手悪魔の右手』も今は全二巻にまとめられているが、表紙のデザインもっとなんとかならなかったのでしょうかね。昔の全6巻の黒い単行本が好きでした。出してくれてるだけでありがたい限りなんですけどね😅
『猫目小僧』も全二巻にまとめららてますがこっちはとにかく表紙がかっこいい!!!猫目小僧は、最後期のサンデー誌の連載分は作風が変わったあとですが、それまでのは楳図かずお先生も劇画風タッチになる前だったりしますので、丸っこくてかわいいんですよ。微妙な知名度の代表作ですが、もっと読まれても良いなあと思ってますよ。似たようなテーマで描いても、水木しげる先生とここまで方向性が変わるんだというのが面白い。