半ベソ男がモテ男になった話
「お疲れさまです、お久しぶりです!」
見上げると溌剌とした青年がいた。短い髪をワックスで遊ばせたスタイルに、綺麗めなジャケットの取り合わせは今時だ。少し濃くなったヒゲとのバランスも取れている。自信ありげに堂々とした雰囲気が好ましい。
1年前、彼女に振られ、半泣きで相談してきた彼と同一人物とは思えない。
「あのあと、彼女から定期的にLINEが来るんですよ。月に2回くらいかな。こっちも、彼女がいないときはテキトーに相手するんですけどね」
「すっかり立場逆転したね。あの時は、LINEブロックされた〜メッセンジャーも電話も繋がらない・・・って大騒ぎだったのに」
「今は自分に彼女いるし、しつこいんで、こっちで全部ブロックしました!本当に、なんであんなに必死になっていたんだろう・・・」
照れたように、また少し誇らし気にそうこぼす彼は、確かに過去の女をすっぱり断ち切れるほどに進歩したと思う。
まだ25歳と若い彼は、初めての彼女に振られたことをきっかけに、半年間の長期コンサルを申し込んでくれた。初回の面談で、半ベソ&メンタルガタガタな状態で彼女への未練を語っていたから、よく印象に残っている。
当時はまるで女慣れしていない、内気そうな、モテからは遠い男性だった。考えすぎて行動できない、典型的な非モテパターンにハマっていた。
そこで「女性からも選ばれるモテ男になる」と目標を決め、二人三脚で課題をひとつひとつ乗り越えた。それこそ見た目や女性に関する知識やマインドセットを、丸ごと入れ替えるイメージで。
なんだか詐欺広告のようで書くのがはばかられるが、今の彼は、そう苦労もせず彼女を作れるモテ男になった。
コンサル後、数人の女性と交際に至ったらしい。彼女がいても寄ってくる女性もいるようで、「ヤンチャ」な冒険もしたようだ。
今回の相談も、理想的な彼女がいるのだが、ほかのイイ感じの子からも言い寄られていて・・・と、なんとも贅沢なものだった。
「恋愛がうまくいきだして、自信がついたら、仕事もずっとうまく行くようになったんですよ。昇進もしましたし。」
「いいね。まあ仕事も恋愛も対人関係だしね。男性は仕事が調子がいいと、女性の選択肢も増えるし良いサイクル。」
「そうなんです。見える景色が違うんです。あんなに執着してた元カノなのに、今ではどこに良いところがあったのかわからないくらいで・・・」
あっさりしたものだ。しかし、この手の発言が出るのは喜ばしい。
こうした台詞は、前の恋人より満足度の高い異性をゲットできる人にしか言えない。そうでない場合、「いつまでも元恋人を忘れられない・・・」と怨念を吐く地縛霊になる。
彼が進歩し、前進していることの証明だからだ。
「がんばったから、ステージが上がったんだね。以前の目標は過去のものになった。そうやって、自分の理想に近づいていくもんだよね」
「そうですね、あの時、勇気を出してコンサルを申し込んで、本当に良かった・・・」
こんな瞬間がいちばん嬉しい。
他人の人生の感触、それが良い方向に変わったという確かな手触り感。
自分の存在が誰かにプラスであったという確信。
それを味わうためにこの仕事をしているのかもしれない。
「もうお世話になることはないと思いますが、何かあればまたご相談させてください!」
「うん、用無いのがいちばんだからさ。もう来んなよ。」
丁寧に、一礼をして彼は去る。
彼とはもう会うことはないだろうし、その方がいい。
ただ彼の長い人生のうちの、ただ一点の染みのような交わりが、濡れ半紙に垂れた絵の具のように、薄く広く彼の未来を彩ることを望む。
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