「このバンドが良いね」って僕が思ったから
(敬称略で書かせて頂きます)
僕が初めてそのバンドを観たのは、まだクリープハイプの日なんて呼ばれていなかった9月8日のことだ。
当時関西に住んでいた僕は友人に「OTODAMA'11-'12~音泉魂~」というフェスに誘われた。大阪の泉大津フェニックスで開催されている個性溢れるフェスである。公式HPで入浴順(出演者)を眺めていると、暗く妖しいチンピラ風のアーティスト写真が目に留まった。「クリープハイプ」だった。そのとき、初めてクリープハイプを知った僕は、下北の大学生では無かったけれど、YouTubeで「ウワノソラ」を聴いてみた。ノリが良く、キケンナメロディーと、「やる気ないなら止めてくれ 息してるだけで煩いし」のパンチラインや、「大好きと大嫌いの間でのたうち回ってる」の様な誰もが共感できる歌詞、そして何より、あの変な声にすっかり魅了されていた。泉大津駅にて、会場へ向かうシャトルバスに乗り込む。OTODAMAのシャトルバスは出演バンドのキラーチューンがBGMとなっている。僕は「イノチミジカシコイセヨオトメ」が流れる車内で、ライブ前特有の、あの高揚を既に感じ始めていることに気がついた。オープニングアクトを務めていたクリープハイプ。あとになって知ったことだが、クリープハイプが初めてメインステージに立った記念すべきフェスであった。そのメインステージへ駆け寄ると、今では考えられない集客だったが、前方エリアは本当にクリープハイプを好きな人々の熱気に満ち満ちていた。当時のクリープハイプは「オレンジ」で売れたという世間の認識であった様に思う。そんな中、尾崎世界観はステージから大いなる皮肉を込めて「大ヒット曲歌います」と告げると「オレンジ」を歌い出した。捻くれた言葉は、捻くれた僕にまっすぐに刺さった。その日を境に僕はクリープハイプを追いかけるようになっていた。
そんなある日「ストリップ歌小屋 2017」にて、クリープハイプと銀杏BOYZが対バンすることを知った。僕が音楽を好きになったのは、姉が借りてきた「GOING STEADY(銀杏BOYZの前身バンド)」のアルバム「さくらの唄」を聴いたことがきっかけだった。「WHATt’s IN」の音楽のルーツを挙げる記事で長谷川カオナシは「さくらの唄」を選び、「高校時代、クラスの端っこで聴いていた。」と語っていた。尾崎世界観も所謂「黄色い日記」にて、下北沢のサブカル界隈で宗教的人気を誇っていた峯田和伸(銀杏BOYZ Vo. & Gt.)への妬みを書いていた。だからこそ「MUSICA」で尾崎世界観と峯田和伸が対談したときは胸躍ったし、「きれいなひとりぼっちたち」でクリープハイプが銀杏BOYZの「援助交際」をカバーしたときは心躍った。そんな僕の原点と頂点が、僕の住む名古屋で対バンをする。信じたことのない運命を感じた僕は、気づけばチケットとドリンク代を握りしめていた。
銀杏BOYZのパフォーマンスは圧巻だった。荒れ狂う峯田和伸とそのファンに、クリープハイプのファンは少し引いているようにさえ思えた。そして、いつも通り無音で登場したクリープハイプ。尾崎世界観は「憧れのロックスターを超えます」、長谷川カオナシは「憧れのバンドに勝ちにいきます。かかってきなさい。」と告げると、おなじみの心がざわつくベースイントロを弾き始めた。「HE IS MINE」である。童貞の唄をよく歌っていた銀杏BOYZに、セックスの唄で勝ちにいくのはあまりにも刺激的だった。銀杏BOYZは直前に「二十九、三十」のカバーも披露していた。尾崎世界観は相変わらずで「カバーしてもらったからカバーし返すってのは何か違うよな、そんなんじゃ峯田さんは喜ばないと思うんだよな、どう思うカオナシ?」と問うた。長谷川カオナシは「ワン、ツー、スリー、フォー!」と突然の叫びで答えた。それが「援助交際」の歌い出しであることはクラスの隅っこに居た頃から知っていた。その日一番の盛り上がりをみせた恋のメロディに包まれて僕は、今夜は眠れないだろうなと悟った。
クリープハイプのバンドの話ばかりしてきたが、弾き語りも大好きだ。「尾崎世界観の日」はそんな弾き語りを聴くことができる貴重なイベントである。2019年、大阪は服部緑地野外音楽堂にて開かれた「尾崎世界観の日 特別編」のライブ終わりのことだ。尾崎世界観を観に来ていたメンバー全員がステージへ上がると、クリープハイプが初めてフェスの大トリを務めると発表された。OTODAMAだった。僕の初めてのクリープハイプが9月8日のOTODAMAのオープニングアクトで、クリープハイプの初めての大トリが9月8日のOTODAMAであることが、どこかで感じた様な気がするけど、やっぱり運命で好きだと思ったんだ。
誰かに「このバンド良いよ」って勧められることがある。確かにそれがきっかけでバンドを好きになることもあるけれど、「このバンドが良いな」って他でもない自分が見つけたバンドには勝てやしない。それが僕にとっての真実だ。9月8日に見つけた運命の恋人との関係は、今まで付き合ったどの恋人よりも長く続いている。相も変わらず、愛も変わらず、付かず離れずこれからも一生続いていくだろう。その恋人との記念日はいつしかこう呼ばれるようになった。#だからそれはクリープハイプ の日。