【超短編】許されている

「それ、もしかして」
カウンターで隣に座った若い女は不躾に尋ねる。
「コーヒーだよ」
女は目を見開いた。
「まさか。初めて見た」
「飲んでみる?」

初めは煙草だった。次に酒が嗜好品禁止法の対象となり、数年後にはコーヒーと砂糖が禁じられた。元々国内での栽培は少なく、国内産の蒸気茶葉煙草やヘルスケア甘味料へと移行したため、医療費の削減による莫大な国益となった、と教科書には載っている。目先の税収より国民の健康を選んだ優良政策だと言われているが、反対勢力も大きかった。減衰の一途だったとは言え、嗜好品業従事者は少なくなかった。愛煙家や飲んだくれの怒りも凄まじかったという。でも、それはこの女が生まれる前の話だ。

女は渡した黒々としたグラスを両手で覆う。
「こんな人目のあるところで…」
「捕まりはしないさ。私は研究者だからね。どう?被験者になってみない?」
女は覚悟を決めてグラスを傾けた。眉を顰める。
「苦い。でも、花みたいな香りがする」
私は紳士的に微笑む。違いのわかる女だ。人工授精が主流になりつつある今、禁止される前に性行為を知っておかなくてはならない。探究心の許された時代に生まれてきて良かったと思いながら、女の腰に手を回した。

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