サーマキャプチャーの謎に迫る
Zライトソルやリッジレストソーライトは、それぞれASTMのR値で2.0、2.1です。
これを推奨使用温度帯に照らし合わせると夏用になります。
しかし、皆さんの中には、Zライトソルやリッジレストソーライトなどのクローズドセルマットを厳冬期に使用していた方や、リッジソーライトで厳冬期に使えるという話を聞いた方も多いと思います。
前提条件として、寒さに対する感覚は個人差が大きい為、スリーシーズンマットでも冬大丈夫だったよ!という事や、冬用マットでも寒かった!という事もあります。
しかしながら、夏用マットで厳冬期も使えるのは、流石に疑問ですよね?
事実として、世界の極地冒険家や、高所登山家、アルパインクライマーも-20℃近い低温でこれらのマットを使用しています。
私自身も、デナリ遠征時に外気温-40℃近くになった夜がありましたが、リッジレストソーライトのみで眠ることが出来ました。
これには、前述の寒さに対する個人差も必ず理由の一つにありますが、Zライトソルやリッジレストソーライトの性能が高いことも事実です。
なぜ、R値が低いのに、実際に使用した時は性能が高いのか?
答えは、「サーマキャプチャーのおかげ」です。
最強厳冬期マットのネオエアーXサーモには、なんとサーマキャプチャーが4枚も使われています。
今回は、そんなサーマキャプチャーについて解説させていただきたいと思います。
サーマキャプチャーとは
サーマレストのマットには、断熱を向上する為にサーマキャプチャーを採用しているモデルがあります。
これは、アルミ蒸着に似たものではありますが、似て非なる独自技術を使用した銀色のコーティングです。
耐久性や効果を高める技術が使われており、その正体を公開したいところですが、社外秘なので控えさせてもらいます。すみません・・・。
ここでは、説明するためサーマキャプチャーをアルミ蒸着と考えていただければと思います。
Zライトソル、リッジレストソーライト、Xライト、Xサーモ、トポ等にはこのサーマキャプチャーが使用されています。
サーマキャプチャーはよく断熱性があると勘違いされていますが、サーマキャプチャーには断熱性はありません。
実際にサーマキャプチャーは何をしているのか
サーマキャプチャーにはアルミを始めとするいくつかの成分が使われていますが、アルミなどの金属の性質を利用し熱の管理を行っています。
アルミといえば熱伝導率が非常に高い性質がある事を思い浮かべる方もおられるのではないでしょうか。
ここで、気付かれた方もおられるかと思いますが、『熱伝導率が高いなら冷えも伝わっちゃうんじゃない?』という疑問が湧きます。
例えば、薄いアルミ箔を雪の上に置きその上に寝た場合、雪と体温の中で熱交換が行われます。体は発熱しているとしても、熱は高い方から低い方へ流れる性質があるため、この状態ではどんどん体温が奪われてしまいます。
この熱交換を利用した商品としては、アルミ解凍プレートが有名ですね。
これは周囲の熱や空間の温度を熱伝導率の高いアルミが取り込む事を利用しています。表面積が大きければ大きいほど効果は高いです。
本題に戻りますが…
ではなぜ、そんな熱伝導率の高いアルミを使っているのか。
エマージェンシーシートや宇宙開発でも断熱にアルミを使ってるじゃないの!?
ってことですよね。
熱の伝わり方
熱は、輻射、伝導、対流という3つの要素で伝わります。
それぞれの説明と、それに対抗する方法をご説明します。
①輻射
赤外線という電磁波により熱が伝わります。
例:普段地球上でも太陽には直接触れていないのに、太陽の陽に当たると暖かく感じます。これは太陽から、宇宙空間、大気中を赤外線などの電磁波が飛んできて体にぶつかることで熱が伝わります。これを輻射といいます。
焚き火を囲むと温かいのもそうですね。
対抗手段:電磁波に対する反射特性の強い金属を熱源との間に挟む。
②伝導
物体に伝わった熱が、物体の中で次第に広がっていく事です。
例:鉄スキレットで調理をしていると、焚き火があたっている部分だけではなく柄も熱くなってきます。
これは、火にあたった部分からどんどん熱が伝わっていき、他の部分も同じ温度に近づくからです。これを熱伝導といいます。
対抗手段:熱伝導率の悪い素材を使用する。接触面積を少なくする。
③対流
物体の流れによって熱が伝わること。
例:鍋でお湯を沸かす時は、火に近い底から熱くなります。温められた底の水は、密度が低くなり(風船のように膨らみ)鍋の中で上にあがります。反対に、鍋の上の冷たい水は上がってきた温かい水とは違い密度が高いので沈んでいきます。そして、沈んだ水は温められまた上へ浮かびます。この繰り返しで熱は均等に近づいていきます。これを熱対流といいます。
対抗手段:オープンセルフォーム(スポンジ)を使用する。空気を小部屋で区切る(トライアンギュラーやクローズドセル)。真空にする。
サーマレストのマットでは、これら熱の伝わり方に対してそれぞれの対抗手段を利用して熱の伝わりを防いでいます。
サーマキャプチャーは遮熱する
さて、サーマキャプチャーはこの中熱の伝わり方の何を防いでいるか…ということですが、サーマキャプチャーは①の輻射を反射する力があり、これを利用して熱を遮る遮熱をしています。
金や銀や銅、そしてアルミは電磁波の反射特性が高く、電磁波である熱も反射することが出来ます。
コストの高い金や銀はさておき、銅はアルミより反射特性はかなり高いのですが、銅は黒化してしまい結果的に特性が失われてしまいます。
対して、アルミは常に表面に薄くて透明な酸化皮膜を形成し、反射率を維持することが可能なのでアルミが多く使われています。
このアルミの特性を活かした商品としては、国際宇宙ステーション(ISS)や人工衛星です。見たことがある方は、ISSが銀色の幕で覆われているのをご存知だと思います。あれはアルミ蒸着フィルムを使用した幕です。
宇宙空間では、空気がなく赤外線の邪魔をするものは無いので、太陽光を直接浴びると数百度に達します。
当然、赤外線を受けたアルミは熱伝導率が高いので熱くなりますが、赤外線のほとんどが反射されてしまうので、熱源に対してアルミの反対側の空間には熱が伝わらなくなります。
サーマキャプチャーもこの原理を利用しています。
それでは、サーマキャプチャーがどういう仕組みかを具体的に説明したいとおもいます。
先程の熱交換の説明の通り、熱伝導率が高いアルミに触れていると、体温と雪の熱交換により、体温はどんどん奪われてしまいます。
しかし、体が触れている面とは逆の面に、雪との間に対流と伝導を防ぐ素材、つまり断熱素材が挟まれば話は変わってきます。
断熱素材は遮熱・反射をすることは出来ませんが、熱の伝わりを防ぐ事が可能です。
この結果、雪の温度はサーマキャプチャーに届きにくくなり、熱交換が起こりにくくなります。
同時に、体温はサーマキャプチャーにどんどん伝わるものの、熱交換が起こらないためサーマキャプチャーが熱を失いにくくなり、さらに体から発生した赤外線はサーマキャプチャーに反射して体に戻ってきます。
サーマキャプチャーはほとんど体温と同じ温度を返してくるので、触った瞬間に暖かさを感じる事が出来るのです。
熱を失いにくく、熱が反射し自分に返ってくる。
これは、冬季に体から熱を失わない為にとても重要な点になります。
つまり、サーマキャプチャー採用モデルのスリーピングマットは、R値よりも性能は良いと考えられます。
なんでR値が低いの?
では、4枚サーマキャプチャーが入っているXサーモはさておき、なんで冬でも使えるZソルやリッジソーライトのR値が低いのか?ということですが。
これは、測定方法に理由があります。
ASTMの測定方法では、冷却板ーマットー検温装置で測定します。
冷却板の温度を、マットでどの程度断熱できるのかを測定しています。
これでは、サーマキャプチャーの遮熱や反射を測定することが出来ませんので、R値に反映されないのです。
また、サーマキャプチャーが行っているのは断熱ではないので、断熱能力を表すR値で表現することが難しいのです。
裏技
さて、サーマキャプチャーをここまで勉強してきましたが、これらの情報から意外な答えにたどり着きます。
冬にZソルとインフレータブルを重ねて使用している方もおられると思いますが、大抵の場合Zソルを下に敷いて、その上にプロライトなどを敷いて使用しているのでは無いでしょうか?
これでも、かなり断熱効果は高いですが、実は実力を出し切れていません!
答えは、インフレータブルマットを下、Zソルを上に置くのが正解です。
この順番だと、体に直接触れる事でサーマキャプチャーの熱反射の恩恵を効率よく受けることが出来るからです。
ちなみに、極地冒険家たちもこの方式で使用しています。
サーマキャプチャーと体の間に断熱性の高いマットが挟まってしまうと、体温がサーマキャプチャーに届かなくなり、ある程度体温をロスしてしまう事になってしまうのです。さらに、サーマキャプチャーにやっと届いた熱も、反射したあとまたマットレスによって断熱されてしまいます!
これは、エマージェンシーシートでも応用がききます。
例えば秋の登山中に雨がふり、かなり寒くなってしまい手持ちのプロライトだけでは、背中が寒い。。。
そんな時は、プロライトの上にシーツのようにエマージェンシーシートを銀の面を上にして挟んで見てください。
とても幸せになれますよ。
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