創作ノート④新境地は別世界ではなく。「今すぐ現金、そんな時(中略)、テアトルエス!」
執筆に行き詰まり召喚した黒川陽子ちゃんをカフェでの打ち合わせの後に自宅へ強制召喚し、チーズとめっちゃ辛いスナックをコーラで流し込みながら、今ある構想の問題だと思っている点を聞いてもらう。こうして人に「何に行き詰っているか」をはなすだけで、少しだけ鼻づまりもとい執筆行き詰まりが楽になって息がしやすくなる。
一人だけで着想から執筆、脱稿まで出来たらそりゃあカッコいいし、そうやって書き上げたた脚本も多くある。しかし今回は無理!己の新境地を目指して、完全に道に迷ってしまった私を正直にうちあける。
一通り話を聞いてもらった後で、陽子ちゃんが「なるほどー」と頷いた。
「ワカヌちゃんは今までわりと自分のことをよく作品に書いてきていて、それはけっこう上手くいってたと思うんだよね。この人(=話の中心の人物)がワカヌちゃんだったら、この状況でどうするか考えてみたら?」
話を聞いた陽子ちゃんからもらった一発目のアドバイス。執筆合宿開始10分のこの一言で、曇天どころか雷雨のようだった私の執筆模様は、台風一過のように一気に晴れ渡るのである。
今回の作品では、これまで私が多用してきた武器、「じぶんごと」を封印しようと思って書いてきた。単純に自分のことしか書けないのでは創作の幅が狭まると思ったし、それが新境地を開拓するためのチャレンジ設定だったので、陽子ちゃんに言われるまで書いている人物たちを自分によせることは全くの盲点だったし、無意識に避けていたように思う。
ここでいつものように自分によせて考えてしまったら、自分のチャレンジを裏切ることになるのではないかと、どこかで意固地になっていたのだ。だけど陽子ちゃんにそうアドバイスをうけて、それにこたえる形で考えてみたら、いとも簡単に作品の行き先に答えがでた。
「あ、このままじゃダメだ。だって自分がこのラストにおかれて納得する気持ちが見えない。私なら〇〇する、そしてその気持ちなら見えるし書ける」
そう、自分は破綻のない端正なプロットにこだわるあまり、人物の気持ちに心を配ることを忘れていたのだった。
そうして考えなおしたラストは、私が当初想定していたリアリズム溢れる綺麗なプロットではない。というか、これまでラストシーンとして設定していた状況が、大きく破綻する。だけどその破綻で、今自分が書いている作品の行き先が一気に見えたのだった。
すごいぜ、黒川陽子!
幸せの青い鳥が家にいたチルチルとミチルの気持ちがわかる。新境地は別世界ではなく、今までしてきたことの一歩先にあったのである。
「なんか執筆合宿を真面目にしてるように撮って!」とリクエストして撮ってもらった写真。