創作ノート③召喚、黒川陽子。「今すぐ現金、そんな時(中略)テアトルエス!」
人物同士の知的な応酬が続くディスカッション劇、緻密なプロットで構成されたウェルメイドな脚本。そんな作家としての新境地を目指しながら、私は執筆に行き詰っていた。おおまかなプロットは出来たものの「今のままでは駄目だ」ということがはっきりしている。オチが弱い。が、何が正解なのか、ここからどうやって発展させればいいのか見当がつかない。いっそ今あるものを全て捨てて一から書き直そうかとも思ったが、締め切り的にそれも非現実的。ああ、気持ちが悪い、気持ちが悪いけれど何も思いつかない以上、今書けているプロットに従って形にしていくしかない。自分はこの作品における正解をだせていないことを知りながら、とにかく何か書かなくてはと答案を埋めていくような作業は、本当に砂を食べるみたいだ。そうやって脳みそがカサカサになり、鼻づまりならぬ執筆行き詰まりで息もできなくなった頃。ようよう私は気が付いた。
「そうだ。SOSをだそう」と。
それまでにも、劇作の過程では所属する劇団劇作家にプロットを提出して意見をもらったり、劇団主宰の篠原久美子さんの知恵を借りたりしていた。
私が所属している劇団劇作家には、書きかけの脚本やプロット段階のものをメンバーに提出して、それについての意見交換ができる大変ありがたい場がある。そこで作家は自分の作品を第三者の目にさらし、戯曲の伸びしろや弱点、整理すべきポイントなどを客観的なアドバイスをもらうことが出来るのだ。
「ストーリーに迷った時は、1人の人物の行動を追え」というのは篠原さんからのアドバイスで、群像劇で最初から大勢の人間を動かそうとしてうまくいかなくなっていた時の私には金言だった。
しかしここにきて脳みそが煮詰まってしまい、冷静な第三者のクールダウンが必要になった私はさらに人の力を借りるべく、助けを求めた、というか泣きついた。
劇団劇作家、そして劇作家女子会。のメンバー同士であり、頭脳明晰で緻密なプロットとディスカッションの先輩であるクールビューティ、黒川陽子ちゃんに。
かくして、自身が脚本を担当した舞台が公演中であり、自分の誕生日の前日であり、さらに翌日は義実家との会食というわりと大事なイベントを控えた黒川陽子ちゃんを、地獄の(?)執筆合宿に引きずり込んだのである。
強制召喚中の黒川さん。