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『検証 暴走報道・データと証言で明らかにする統一教会追及』/メディア世論が社会を変えた

加藤文宏


本書を報道の害を受け続けた安倍晋三氏と、すべての報道被害者に捧げます。

安倍晋三元首相が暗殺された日から今日まで、あまりにも多くの出来事がけたたましく世の中を通り過ぎていきました。誰もが、これまでとは違う目まぐるしさの渦中にあったのではないでしょうか。この2年半は、私にとって『検証 暴走報道 データと証言で明らかにする統一教会追及』を上梓するまでの長く困難な日々が続きました。

暗殺事件が発生し、旧統一教会追及報道が人々の心を動揺させていたとき、30年前にオウム真理教を脱会した女性が「アイドルの子たちが教団の信者と暴露されています」と震え声で言いました。彼女が経験した以上の信者への差別が始まるに違いないというのです。そして不穏な予感は、そのまま現実になりました。

旧統一教会を追及する報道には「それがいつの出来事で」「何が悪いのか」「それでどうなったのか」「現在はどうなのか」を正確に伝えるものが皆無でした。しかも信者をまともに扱う必要などないとされ、完全に無視されていました。

このため報道は両論併記からかけ離れたものになり、内容の正確さが検証されず、反論も紹介されていません。したがって、あれだけ報道されたにもかかわらず旧統一教会がいま何をしているか、宗教とは何か、カルトとは何か、まともに答えられる人はまずいないと言ってよいでしょう。「真実を知っている」と胸を張る人もいるとは思いますが、報道やSNS、今までに出版された書籍が情報ソースならほぼ間違っているはずです。だからなのか、それでもなのか、多くの人が報道に疑問を抱かず、政治家さえ浮ついていました。いっぽうで信者と子弟は社会から排除され、追い詰められて自殺した者までいたのです。

私は異様な報道と風潮を、まず整理しようと思いました。報道が伝えない旧統一教会の信者たちと信者家庭の子弟(二世)を、教団を頼らず探し出して証言を集めました。比較するため、共産党員家庭の二世も探し出して取材しました。報道内容を可能な限り集めただけでなく、テキストデータを学術研究で用いられる解析法で分析しました。同じ方法で、安倍晋三氏を独裁者と決めつけた落合恵子氏と志位和夫氏の演説も解析しました。

ここまでしたのは私の性分だけでなく、テレビ番組で信者への拉致監禁を批判して発言権を奪われた太田光氏と同じ体験をしたからです。

私が教団の代弁者だと書かれた怪文書が出回りました。特定の人物や弁護士団体の名を挙げて彼らによってキャンセルカルチャー(社会的に好ましくない発言や行動をしたとして個人や組織を糾弾し、言論を封殺したり社会から排除しようとする運動)が発動されるのは避けたいという理由や、政治的な理由で進みかけた記事の執筆や出版が妨げられました。洗脳されているとか、教団の代弁者と呼ばれたくないとも言われました。事実だけを伝えようとしても、困難どころか無理だったのです。マスコミ総出の報道量と、異論を許さない風潮に耐えられる検証にするには、客観性の確保が必要でした。

暗殺事件が発生し、旧統一教会追及が始まって2年半が経過しました。ようやく暗殺事件から解散命令請求に至る報道内容と報道の影響について、唯一の整理、唯一の検証、唯一の問題提起として『検証 暴走報道』が世に出ます。

日頃マスコミの報道しない自由や、デタラメを報道する自由に憤る人々が、この期間はなぜ報道の異様さに気づかなかったのか、あるいは異論が排除された報道に接して満足したのか、本書に答えを用意しました。

本書の特徴はサブタイトルにある通り「データと証言」です。可能な限り出来事を数値や数量で表し、可能な限り多様な立場からの証言を収録しました。そして「仕組み」として体系化しました。

仕組みの一つが表紙にレイアウトされた「政権」を圧迫し「争点」を無視できない状態にする「メディア世論」と「報道フレーム」の構造です。この単純な仕組みに嵌め込まれて、岸田政権は安倍派の粛清や解散命令請求を行い、不記載問題をこじらせて裏金問題にしてしまい、石破政権が誕生しました。この例だけでなく、報道が生み出す「風が吹けば桶屋が儲かる」ような仕組みに私たちは取り込まれてしまっていたのです。

仕組みは机上の空論ではありません。

「メディア世論」と「報道フレーム」の場合は、暗殺事件の現場をエリアとする在阪報道機関と、キー局などマスコミが集中する首都圏の在京報道機関がどのように事件を知り、どのように報道体制を整え、どのように取材し、どのように何を報じたかを資料と聞き取りの両面から、まず整理しました。すると暗殺事件から旧統一教会追及へ報道の流れが変わったポイントと、どの報道機関がどのように変えたのか、なぜ変わったのかがはっきりわかりました。ここに前述した通り報道内容の解析結果などを積み重ねていったのです。

これは主に「はじめに」および「第1章」で解説した仕組みですが、他の章でも旧統一教会の信者や、信者家庭の信仰を継承している子弟、継承していない子弟を探し出して話を聞き、他の宗教の聖職者にもインタビューし、共産党員家庭の子弟からも実情を語ってもらい、文献やデータを突き合わせました。

このように様々な人を取材しましたが、信者や子弟に「なぜ話を聞きたいのか」と聞かれるのはいつものことでした。私は報道から借りてきた「信者」「二世」といった大きな主語で考えたり、書いたりしたくなかったのです。「記者は私たちを取材しません。声すら掛けてきません」と言われたのも一度や二度ではありません。どうも報道関係者だけでなく宗教学者も、彼らに取材することなく旧統一教会と信者について語っていたようなのです。私が話を聞いた人たちに思い込みや勘違いや言葉足らずがあるかもしれませんが、そうだったとしても今まで報道機関が伝えなかった声です。

報道機関が当事者の声を聞かなかったのですから、大量生産されたラベルを貼り付けていくような印象操作になって当然です。地域から、職場から、学校から、学術界に至るまで、深刻な差別が発生しました。影響は信者だけでなく、信仰を継承していない子弟たちにも及んでいます。ある女性の例では、興信所の関与が疑われる信仰調査が行われたらしく、非信者であるにもかかわらず信者と断定され、この誤った情報が依頼主から地域に漏れたとしか考えられない事態が発生しました。

報道がなければ旧統一教会追及へ世論も政治も動きださなかったでしょう。いま新聞や地上波テレビはオールドメディアと呼ばれ、著しい読者または視聴者離れに直面しています。しかし一般紙は2500万部ほど発行され、ニュース番組を放送すれば全国で580万人ほどが視聴し、このうち人気報道番組ともなると870万人から900万人に視聴されているので、影響力はオールドなどと侮れるものではありません。

この巨大な影響力と、真実と言い難い願望を込めた情報が掛け合わされたとき、報道の暴走が止まらなくなり、社会に後片付けされないままの混乱や混沌だけが残りました。原発事故についての実態からかけ離れた報道やモリカケ問題も、直近では斎藤元彦兵庫県知事問題やフジテレビ問題でも、報道によって伝えられた情報に嘘または不確かな証言が入り混じり、これらを精査しないまま糾弾会を始めてしまったのです。

本書が出版に向けて動きはじめたとき、我が家の物置から2019年3月16日の古新聞が出てきて、私が朝日新聞の宅配購読をやめてもうすぐ6年になるのを思い出しました。原発事故があった2011年に始まった連載『プロメテウスの罠』で紹介される嘘とデマに辟易して購読中止を販売店に伝えたのが2012年。このときは「ほかのお客様から寄せられた苦情も、朝日に伝えています。どうか継続してください」と担当者に頭を下げられ様子をみることにしました。紆余曲折あって2019年の新年度前に購読契約を切ると、販売店の社長が挨拶とともに継続を懇願するためやってきました。

私は「社長さんの言う通りなら、朝日新聞は読者からの苦情を知りながら報道姿勢を改善しなかったことになりますね。これでは契約はできません」と言うほかなかった。

『プロメテウスの罠』からフジテレビ問題まで14年。そろそろ朝日新聞に限らず報道の暴走に終止符を打たなくてはなりませんが、彼らは何度も自浄の機会を自ら捨ててきました。『検証 暴走報道』は報道機関や本書で言及した人々へのエールであり、まったく愛がないならここまで苦言を呈しません。しかし、これまでの経緯から『検証 暴走報道』を報道機関は無視するでしょう。私は本書を手に取ってくださる方々と暴走報道問題をさらに考えていきたいと願っています。

報道が暴走するときターゲットにされた人々は、正義の名の下で人権を奪われます。もし宗教が気に入らないなら、原発事故で風評被害を受けた人々や、難病を笑われ妖怪の孫と呼ばれた安倍晋三氏を思い出してください。この2年半の間、旧統一教会と信者と子弟たちが経験した苦境は、誰にとっても明日は我が身です。

(長らくAmazonで品切れになり版元がKindle版を用意しましたが、再び書籍版が販売されるようになりました。本書をご紹介いただく場合は

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加藤文宏
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