「反統一教会」勢とは何者だったのか
追記 / 2024.6.30 15:30 誤記など訂正
加藤文宏
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今回は本題に入る前に、そもそもの本質に関わる重要な話をしなくてはならなくなった。
6月26日、アメリカ合衆国政府の公式サイトに『各国の信教の自由に関する2023年版年次報告書』が掲載された。同報告書の「日本」に関する部分は、ほぼ統一教会(家庭連合)への解散命令請求を問うことに費やされ、岸田政権が法治ではなく政治を優先しているとする教団の見解が紹介された。2022年版の報告書でも同様の指摘が行われているので、2年続けてアメリカ政府が懸念を表明したことになる。
アメリカ政府の価値観に何もかも従う必要はない。だが、教団追及の猛々しい喧騒に巻き込まれていない国外から、解散命令請求がどのように見えるか教えてくれる貴重な報告書なのは間違いない。
では報告書に
と書かれた、敵対的に偏った報道の情報源について考えて行こうと思う。情報源となった「反統一教会」勢とは何者だったのか。統一教会に肩入れする必要のない立場から、事実をもとに解明するのが当記事だ。
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先日、暗殺犯山上徹也の新証言が弁護団を通じて発表されたのを受け、[暗殺犯山上の新証言が事件と統一教会追及を振り出しに戻した]を公開した。この記事の冒頭で、統一教会追及の旗手鈴木エイト氏の著書『「山上徹也」とは何者だったのか』の内容を紹介した。
鈴木氏は同書で、
と犯行に至る経緯と動機を書いている。
しかし山上は新証言で「現在のような状況を引き起こすとは思っていなかった」と語っている。社会にインパクトを与えてしまったのは想定外だったということだ。こうなると「すべてを計算し尽くした」「社会の状況を構築する」「社会変革を狙う」といういずれの記述も、拘置所の中にいる山上を使った塀の外にいる鈴木エイト氏による腹話術だったことになる。
鈴木氏は2023年10月15日放送の『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)に出演して、門田隆将氏の『「山上徹也」とは何者だったのか』への疑問に以下のように答えている。
門田)この本の前提からして疑問を持っております。これ、山上の主張に沿って、この本、前提ができているんですけど、じゃあ山上が本当に統一教会に、本当に恨みがあるんだったら、なぜ20年間財産収奪の張本人を狙ってないんですかということです。
鈴木)山上被告は、おそらく包括的に俯瞰した目で見ています。
門田)ん?
鈴木)直接その、自分の母親が献金を納めた、そこを恨みの対象にしていないということは、この問題の構造自体、そこをすべて俯瞰した目で見ている。そういう人間だと、僕は捉えています。なので直接、自分の母親を──
門田)包括的に捉えようと、どうしようと、統一教会が奪ったわけですから──
鈴木)もちろん、彼も、あの、教団の最高権力者を狙った時期もありますよね。そこの時期で、その捉え方と違うんですよ。彼が直接、その、自分の母親が直接献金を納めた相手を狙うわけではなく、その献金、高額な献金を収奪する構造、システムを作ったのは、誰か。その構造自体を、彼は問題視していた。安倍元首相っていうのは、彼に直接、家庭崩壊を起こさせた、献金を奪った相手ではないですよね。その点で言うと、当然逆恨みではあるんですよ、でも、その彼が安倍晋三という人間をどう捉えていたか、教団とかの関係をどう捉えていたかって中の、捉え方としてはですね、彼が安倍晋三をどういうふうな対象にしていたか、そこを僕は検証したわけなんですけれど。
門田)あの、安倍さんは、この統一教会の霊感商法に、徹底的な、あの、攻撃をして、あの「消費者裁判手続特例法」を作った総理大臣ですよ。施政方針演説でも、わざわざ言うくらい──
鈴木)それほどやっている安倍さんが、なぜ統一教会とあれほど組織票を頼める──
門田)だから、そこなんです。
ここで竹田恒泰氏が意見を述べた。
竹田)でもなんか、さっきから聞いてた私、違和感しかないんですけども。なぜかというと、関係ないのに一生懸命関係を作っていって、ジャーナリストとしての名声を立てて行こうというような、アグレッシブな軌跡を歩んでいるように見えます。(以下略)
一連のやりとりをまとめよう。
門田氏は、鈴木氏が語る山上の「動機」と「標的」の関係に疑いを抱いている。
鈴木氏は、山上が身の回りに発生した出来事と、宗教や政治の在り方を、「包括的に俯瞰した目」で見て、「献金を収奪する構造」を認識していたと説明した。そして、教団の最高権力者を狙おうと思うこともあったが、逆恨みで安倍晋三氏を暗殺したという。(筆者注/教団改革を目的としたコンプライアンス宣言以前の献金であったことに注意すべき。また教団は5,000万円相当を返金済みだった)
門田氏は、安倍氏が「消費者裁判手続特例法」成立の立役者だったことを挙げ、鈴木氏が代弁する山上の動機が不可解であると指摘。(筆者注/山上家といわゆる霊感商法と呼ばれるものは無関係で、門田氏も山上家との関係で同商法を持ち出したのではなく、一般論として語っていると思われる)
鈴木氏は、それでも安倍氏が統一教会票を集めていたことで、山上が逆恨みしたと語った。(筆者注/統一教会の信者数は諸説あるものの、活発に活動するコアな層は5万人程度とみられ、自民党票を左右するほどの数ではない。ちなみに政治を左右する創価学会のコアな信者層は500〜600万人くらいだろう)
竹田氏は、鈴木氏の主張は暗殺犯山上と安倍氏と統一教会を強引に結びつけるもので違和感があるとし、ジャーナリストとしての名声を立てようとしていないかと意見を述べた。(筆者注/これらの関係を強引に結びつけたのが「献金を収奪する構造」であろう)
番組内で鈴木氏は、門田氏の疑問に真正面から答えていない。なかでも「献金を収奪する構造」と山上の行動についての説明はおかしい。
「構造」とは複数の要素が組み合わされた「仕組み」で、仕組みは要素間の因果関係や相関関係で成り立っている。つまり山上は、安倍氏、自民党、統一教会、母親などと信仰や献金の関係を仕組みとして理解していたことになる。折々に応じて標的にする対象が変わったり、逆恨みで事件を起こしたのなら、山上にとっての「献金を収奪する構造」の因果関係や相関関係とは何だったのかわからなくなる。
山上が献金を収奪する構造を壊して解決を望んでいるにもかかわらず、原因(鈴木氏曰く[統一教会])を断つのではなく、他の要素(鈴木氏曰く[安倍氏])を破壊しようと目移りするのはおかしい。原因と結果の間にある要素は、破壊されても他のもので代替されるのである。
逆恨みとは「筋違いの恨み」のことで、理路整然とした理解から生まれる「計略」とは正反対の感情だ。つまり、犯行が逆恨みだったのなら著書の「すべてを計算し尽くし、その後の社会の状況を構築するという、社会変革を狙って起こした」とする記述と大いに矛盾する。著書の核心部分とも言える記述と番組での発言が矛盾しているのは、鈴木氏が著書と番組双方でその場しのぎの説明をしているからだろう。
門田氏の疑問に鈴木氏は、「構造」を一言で説明するだけでよかった。構造を説明するだけで回答になるのだから、鈴木氏は矛盾を露呈しなくて済んだだろう。仕組みを一言で説明できないとすれば、これは「構造」などと呼べる代物ではない。こうなると、鈴木氏が「構造」を整理できていないか、そんなものは存在しないため説明できなかったとしか思えない。
また鈴木氏の説明は、どこまでが山上から聞き取った事実(?)で、どこからが「僕」の考えた山上なのか曖昧で両者が入り混じっている。
ようするに、めちゃくちゃなのだ。故に、竹田氏は「関係ないのに一生懸命関係を作って」いると違和感を覚えたのだろう。
暗殺事件が発生した衝撃によって人々の頭に血がのぼっていたので、鈴木氏の憶測または明らかな矛盾が含まれる主張がもっともらしく聞こえて、統一教会が追及され信者の人権まで侵害されていたのである。これが「反統一教会」運動の実態だったが、そもそも反カルトを名乗る活動は、民族差別とヘイトを面白がる信頼に値しないものだった。
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前掲の画像は、鈴木エイト氏を主筆に据える『やや日刊カルト新聞』の主催者藤倉善郎氏を主人公にした村田らむ氏による漫画のひとコマだ。
2ページ構成の漫画は、統一教会の文鮮明氏を追悼する催しを伝えるもので、紹介した1コマは彼らなりの同教団に対する結論と言ってよいだろう。漫画がどのようなものであったか実物を見ながら、問題点を整理しようと思う。
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