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組織と人 【神真都Q】の暴走を幹部さえ止められなくなる日

陰謀論者を奇妙な人たちとばかり言っていられなくなった。神真都Qを名乗る集団がデモなど街宣活動をするだけでなくワクチン接種会場に乱入したほか、ワクチン接種阻止の犯行予告を出すまでになった。このカルト団体の危険性について考えたいと思う。

著者:ケイヒロ
取材:ハラオカヒサ

奇妙な人たちは危険な人たちになった

過日、第3回ワクチン接種会場で陰謀論を唱える活動家が暴れる事件が発生した。暴れたのは神真都Q(ヤマトキュー)と称する団体の構成員だった。

次のような犯行予告もある。

神真都Qとは何かを知らない方は、陰謀論研究家の雨宮純氏の報告がもっとも新しく正確な情報なので以下の記事をぜひ読んでいただきたい。


この集団についておおまかにまとめるなら、Qアノン陰謀論から派生した民族主義的色彩を帯びたカルト集団で、現在は反ワクチンと構成員の移住計画「エデン」が目立った活動と言える。そして、構成員の強力な組織化と実力行使指向がコロナ禍に登場した反マスク・反ワクチン団体のなかで神真都Qを得意な存在にしている。

たとえば、2020年半ばに活動を活発化させた平塚正幸の国民主権党もかなり注目を集めたが、平塚のスタンドプレーに党員が追随している印象が強く、ワクチン保管用冷蔵庫の電源を落とす呼びかけを盛んにしても実力行使を自慢する者はなかった。

対して神真都Qは2021年後半からの数ヶ月で全国規模の団体になり、実力行使志向が強いのは冒頭で紹介した会場への乱入を見てもあきらかだ。エデン計画では土地の取得や移住を標榜して、これも現実的な取り組みに着手している。

また神真都Qの構成員を名乗るには個人情報を団体に提出しなければならず、変名を使ったり飛び込みでも参加できた国民主権党との違いは大きい。

個人情報収集に熱心であり、たびたび集金が呼びかけられるため筆者は神真都Qを「集金系カルト」と分類した。つまり独自の理念を掲げていても真の目的は利潤を得ることにある有料会員制クラブといった具合だ。個人情報は構成員を囲い込んで縛るために使い、他の何者かに売却または使用させて利益を得るのだろうと想像したのだ。エデン計画も呼びかけと集金または幹部による土地の奪取で終わると考えていた。

だが、その後エデン計画は中長期的な様相を呈するようになった。彼らが公表しているわけではないが、どうみても3年から5年越しの活動を思い描いている節がある。これもまた悪徳商法のパンフレットで説明される投資話のように絵に描いた餅の可能性はあるが、「集金系カルト」というだけでは済まないものになりつつある。


神真都Qの構成員は時代から取り残されていた人たち

雨宮純氏が報告しているように、神真都Qの構成員は40代から50代をボリュームゾーンとして地方では高齢者の比率が高いように見受けられる。これも高齢者を巻き込めなかった平塚正幸の国民主権党との違いだ。

神真都Qの前身が主催したデモに参加した高齢者は、YouTubeで放送されていた主催者発の陰謀論に触れて後に団体の構成員になった。仲間とシュプレヒコールをあげて歩いていると役割が与えられた気がして、世のため人のために貢献することと、自分の存在を尊重してくれる仲間との関係に生きがいを感じた。

「もう誰も父を止められません。嬉しそうにデモに行っていた頃とも別人になってしまいました。正義の味方ごっこだったのが、ほんとうに正義の味方になったと信じ込んでしまっているんです」

「やめてほしいと家族が言えたのは(2022年)1月頃までで、飲みかけの缶ビールをぶつけられてからもう何も言えなくなりました。私のことを悪の手先だと思っているんだと思います。おまえが二度とこれないように玄関の鍵を替えると言われました」

実力行使指向とともに暴力的であるのも国民主権党との違いだ。平塚正幸と国民主権党支持者は、接種会場の前でプラカードを掲げたりちらしを配ることはあっても会場内に乱入しなかった。彼らがワクチン保管用の冷蔵庫の電源を落とす事件を起こしていたのはまちがいないと筆者は想像しているが、神真都Qはこそこそ隠れて妨害工作をするのではなく自己顕示的に貢献度を誇っている。冒頭の動画を撮影して最初に公開したのも構成員だ。

神真都Qに対して、別集団の反ワクチン運動をやめた人は次のように証言している。彼は反ワクチンをやめていたが、興味本位で隣県の神真都Qのデモを見に行ったり陰謀論者に接近したという。

「神真都Qになる前から毛色の違いを感じていた人は多かったです。神真都QになってからはQアノンを信じている人も、信じていない反ワクでも、あれは違うんじゃないかと反発がありました。個人情報とお金にこだわるのをいかがわしく思っている人は多いし、そんなのに個人情報を渡すのはバカしかいない」

この証言の通り、陰謀論者や反ワクチン勢力は神真都Q一色になったわけではない。医師や政治家が主催する反ワクチン勢力があり、平塚正幸に限らず従来からの集団があり、小さなコロニーに分散している匿名の人々が存在していた。ここに神真都Qが加わったのだ。

医師や政治家のもとには意識が高いと思い込んでいる都市型の反ワクチン主義者が、平塚正幸のもとには自営業者や政治指向が強い者が集まっている。では神真都Qのもとにはどのような人が集まったのか。

「本も雑誌も読まない人っていますよね。世界地図で知ってるのは日本とアメリカと中国くらい。そうじゃなかったら、浜崎あゆみくらいで時間が止まってる人がいましたよ。やたら堅物で冗談ですらない世間話も通じない人もいたし。みんな何かがずれてる」

「同じ世の中を見ているはずなんだけど、見えてるものが薄っ!と驚くくらい目の前ことしかない人たちで話が合わなかった。どこかの会社を定年退職したような人なんだけど、こんな人でも虫みたいに目の前のできごとしかわかってない。神真都Qのごちゃごちゃした話が薄い見え方のうえに乗っかっている」

「コロナの話をしているとするじゃないですか、いきなりナニナニさんとかナニナニ町とか知らない名前を出されて話が進んで行くことが多くて、人や町だけじゃないんだけど、これで通じていると思っているんですよ。その人がおかしい、その町がおかしいって話がいきなりトランプさんがどうこうになっている。あの人たち同士ではこれが普通らしいんだけど、どんな世界観なんだろう」

「神真都Qのいちべいが大衆演劇の役者みたいなズラをかぶっていたのをプロフィールにしてたり、テスラ缶のジョウスターだって頭が悪そうなかっこうをしてた。いちいち田舎くさくてダサいんですよ。でも今についてこれない人の特別感ってああいうのかもしれない」

「この世界は自分の眼に見えたままに存在している」と信じ、これがすべての人が共有している世界と疑わない人々がいる。こうした素朴きわまりない人々は世界観が狭いだけでなく、多面的で複雑な情報を処理できない。自分の感覚がすべてなので、自分にとってもっとも美しく楽しかった時代を更新できないまま生きていたり、自分と違う価値観や知識を持つ人に異様さを感じ続けている。

こうした人々に、いま眼に見えている世界の意味と解釈をはじめて与えたのが神真都Qだった。それは歴史や文明と切り離されて取り残された未開の地で暮らす原住民に、はるかかなたの都市を望遠鏡で見せるようなものだったろう。もちろん彼らが見せたものは陰謀論である。


独裁体制ゆえに暴走が止められなくなる日

いま神真都Qは黎明期から成長期に移行して、エデン計画と反ワクチンの実力行使とが目的や目標として掲げられている。これらがたとえ集金活動のための見せかけや詐欺であったとしても、エデン計画では土地取得にむけて現地視察と資金集めがはじまっているし、反ワクチン活動では接種会場に構成員が乱入した。

エデン計画は構成員の移住と擬似国家づくりを目指していて、資金さえ集まれば実現可能なのはオウム真理教のサティアンで実証済みだ。もし資金が集まらなければ献金が足りなかった構成員の責任になるだろうし、土地を売ってもらえなかったり自治体などから規制をかけられた場合は敵対勢力の陰謀と言い始めるだろう。

では反ワクチン活動の成り行きはどうなるだろうか。神真都Qがいくら暴れてもワクチンは粛々と接種され、彼らは何ら成果を挙げられない。これもまた敵対勢力の陰謀のせいにされるが、構成員たちが負けを認められるはずがない。

冒頭で紹介した例で考えよう。貢献度を競う自己顕示欲に満ち溢れた構成員があれだけやっても、接種会場を閉鎖できず接種しようとする人が翌日も会場を訪れている。しかし彼らは負けを認められない。会場乱入が各地に飛び火するかもしれないし、より大きな騒ぎを起こそうと暴れるのではないか。

また団体が成長期にある現在、構成員の貢献度を競う自己顕示欲に対して幹部はむしろアクセルを踏み続けるだろう。

会場乱入にとどまらず敵対勢力との闘いでヒートアップする以外の道がない構成員に、神真都Qの幹部は歯止めをかけることができるだろうか。

構成員の暴走にブレーキをかけるには闘いによって得た成果を示さなければならない。成果がないままブレーキをかける幹部に弱腰、寝返りと構成員は疑いを目を向け反発するのは必至だ。

したがってエデン計画が完了して成果がはっきりするまで、構成員のヒートアップは止まらず感情の昂りは膨張する。こうなると更に歯止めをかけにくくなるだけでなく、構成員の目標や達成感を求める気持ちに幹部が忖度する逆転現象が発生する。

エデン計画が完了しても陰謀論と現実の溝が埋まるわけではないから、神真都Qは何者かと闘い続けなくてはならない。気持ちが収まらない構成員に新たな敵をつくってやったり、新たな闘いかたを示さなくてならないのが忖度による逆転現象だ。構成員をコントロールしているかのように見えても、実際には幹部がコントロールされていることになる。

オウム真理教が著しく社会性を失い暴走するきっかけは衆院選での大敗北だったのも忘れてはならない。これも目標が挫かれ成果を得られなかった結果だ。敗北の原因を陰謀論に求め、教団の危機感と敵対勢力への憎しみは膨れ上がるいっぽうになった。

ある女性がオウム真理教に出家するまでの日々を筆者は目撃し、後に彼女から体験談を聞いた。

オウム真理教の教祖や幹部は信者たちを洗脳と恐怖で操縦していたが、信者を機械やロボットのような言いなりの存在とは考えていなかった。信者の反乱を恐れていたかどうかわからないが、すくなくとも教義や洗脳で植え付けたものを易々とは裏切れないのを自覚していたようだ。おかしな論理だったとしても整合性を取ろうとしていた。こうして信者に植え付けた敵対勢力への反発や闘いの意向に上層部自らも巻き込まれていたというのが、脱会した元信者女性の見立てだ。

たしかにオウム真理教は辻褄合わせをするように数々の悪質な犯罪行為を行い続けている。

このとき教祖が信者のヒートアップを煽って教団の正当性を高めた結果、自分自身と教団の暴走をコントロールできなくなった。なにごとも過剰になるほかなく、ソフトランディングのハッピーエンドはあり得なかったのだ。

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(当記事は神真都Q理解の入り口です。次の記事で、神真都Qの何が他の反ワクチンや陰謀論と違うのか、それのどこが問題なのかを説明しました)


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加藤文宏
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