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冬を歩く

加藤文宏

 我が家に生後6カ月の保護犬がやってきた2007年の春、この仔を撮るのに仕事用の重厚長大なカメラは大げさだろうと思って買ったのが、オリンパス製で1000万画素の小さな一眼レフだった。最近のiPhoneは最大4800万画素だから、世の中はすっかり変わってしまった。
 今年、この仔は16歳半で一生を終えた。
 オリンパスで撮影したのは2011年3月11日までだった。あの震災のあと、やけに真面目くさって大きくて重いカメラで、暮らしの何もかもを撮影するようになったのだ。
 12月の半ば過ぎに、使わなくなってひさしいオリンパスのバッテリーを充電しようと思ったのは気まぐれに過ぎなかった。ちょっと使いにくくてノイジーなカメラから、あの頃のようになれないのかと問いかけられているみたいだった。
 あの頃に戻れるはずがないのはわかっているが、私は小さなオリンパスと冬を歩いた。

(了)


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加藤文宏
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