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新型コロナ肺炎から見た情報のデジタル化

──デジタル化の障壁は老人なのか。使えない人は切り捨てるべきなのか。日本だけの問題なのか。

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

はじめに

コロナ禍は特別定額給付やワクチン接種など、情報伝達にはじまり申請や予約までデジタル化について考えさせられる出来事が多かった。マイナンバーカードとの連携が強化されたらもっと迅速に簡単にことが運ぶのではないかと考えさせられもした。

ワクチン接種の予約に電話を選んだ人は、WEBフォームから臨んだ人より圧倒的に不利だった。オペレーターにつながらず諦めた人がいるいっぽう、WEBフォームが表示されなかった人もしばらく待てばどうにかなる率が高かった。WEBフォームが表示されたとき空き枠がなくても、直後にキャンセル枠を押させえることもできた。

しかしWEBやアプリを使うデジタル化された情報伝達、申請や予約に問題がないわけではない。新型コロナ肺炎をめぐる諸手続以外も含め、PCやスマホをつかうデジタル化された本人確認と意思確認は利便性が大きいが同時に限界もある。当記事は、新型コロナワクチンの予約で何が起こったかを明らかにしたいと思う。


デジタル化の障壁

・デジタル化の障壁は高齢者なのか。

デジタル化の障壁になっているのが、デジタルデバイスを使えない人たちだ。「使えない」には、デジタルデバイスを所有していないから使えないと、所有していても必要とされる操作ができず使えないの2つの意味が含まれている。そしてどちらも高齢者特有の課題であるとしばしば言われる。

また、デジタル化を進めるときこうした「使えない層」にも使えるシステムをつくろうとすると洗練から遠いものになるから、いっそ切り捨てたほうがよいとする意見が以前からある。

総務省[令和2年版 インターネットの利用状況]調査で確認すると、インターネット利用率は13歳~69歳までの各階層で9割を超えており、前年と比較して60代以上の利用率が大きく上昇している。所属世帯年収別インターネット利用率は400万円以上の各階層で9割を超えている。

年齢n5201050

この調査結果から、高齢者はデジタルデバイスを所有していないという思い込みが否定される。インターネットの利用者が9割を超えているのだから、「使えない」はあくまでも程度の差ではないかと考えられる。

高齢者がデジタルデバイスでインターネットに接続しているとなると、高齢者が障壁になってデジタル化が進まない、デジタル化されても洗練されないというのはほんとうなのか、高齢者特有の課題があるとしたらそれは何であるかが問われる。他の世代に問題または課題はないのか、デジタル化の壁になっている層を切り捨てた場合どのような影響が生じるのかも考えなくてならない。

70代と80代1名ずつと、対照として20代後半1名から話を聞いた。また筆者がワクチン接種の予約から接種当日までを手伝った複数の自治体の高齢者から聞いた話や、手伝うなかで感じたことを合わせて考察する。聞き取り数が少ないため実態調査として扱うには難があるが、彼らの意見を聞くのは無駄にはならないだろう。


高齢者から考えるデジタル化との向き合いかた

1.背景

・高齢者もコミュニケーションツールとしてデジタルデバイスを重視している。
・なぜLINE(チャットツール)なのか。

デジタルデバイスがオフィスや家庭に入りはじめた1990年代に40代以下であったか50代以上であったかが、情報のデジタル化を受け入れられているか否かの分水嶺になっていると言ってよそさうだ。つまり70代までと80代以上で、スマホはとうぜんだが携帯電話の所有率や使用頻度で差が開き、デジタル化された情報との関わりに大きな違いがあった。

このうちデジタルデバイスを所有して使用している高齢者では、
[WEBページを見る][LINEで会話をする]

[情報を探す][フォームを埋めて送信する]
との間に意識の隔たりがありシームレスな関係ではなかった。

まず気軽な行いである[WEBページを見る][LINEで会話をする]から考える。

WEBページを閲覧するよりテレビを視聴するほうが気楽さは上のようだが、90年代から00年代に仕事でコンピュータに触れていた人々と、その配偶者は高齢者であってもWEBページを利用する割合が高い。

LINEは主に家族とのコミュニケーションのため使用し、使用している人はコミュニケーションツールとしてかなり重視している。さらにLINEとメールではメールよりLINEを頻繁に使う傾向がありこれは若年層と変わらない。

LINEは若い家族とコミュニケーションを取るためと考えることもできるが、チャットツールだから気軽に使えるとも言える。結論を自ら導き出して伝え回答を待ち、受け取った側も答えを用意して返信するメール。結論は会話の中で自ずと導きだされ、過程に意味があり結論がない場合もあるチャットツール。この違いは押さえておきたい。

対して[情報を探す][フォームを埋めて送信する]は気軽ではなく、他の気軽な行動との間に連携も見られなかった。また一部の高齢者はこうしたアクションが「騙される」ことにつながるのではと危惧し、意識や行動を消極的にしている。インターネットがアンダーグラウンドだった時代の名残というよりも、さまざまな詐欺行為やハッキング等から生じた心配ではないかと思われる。

インターネット普及前、[情報を探す]ことは専門性が高く、[フォームを埋めて送信する]に等しいのは申請書を取り寄せて間違いなく空欄を埋めることくらいだった。こうした行いが日常的になっただけで、誰もが気負わずうまくできるようになるだろうか。デジタル化が進むことで必要な労力は減ったが、高齢者以外の世代でも検索が得意でない、申請に戸惑うという人々は少なくない。


2.障壁

・デジタル化と文字によるコミュニケーション。
・バリアフリー化、ユニバーサルデザイン化。
・対人要素がなくなった影響。

フォームのつらさ

デジタル化によって音声や動画をつかった表示やコミュニケーションが容易になったが、文字情報の量は変わらずであり画像、音声、動画がさらに加わった状況だ。これは情報の発信側に限ったものではなく、受け手が反応を送信する際も文字情報を返している。

では、フォームを埋めて送信する作業を高齢者はどのように感じているのだろう。

高齢者は「説明や指示の文字が読みにくい。入力した文字を確認しずらい」と感じ失敗を恐れている。このように加齢とともに視力、解像能、視野の明るさが落ちることで入力ミスをしやすくなるのをまず理解しなければならない。

ではなぜ臆せずLINEでコミュニケーションが取れるのかといえば、相手が知り合いであること、さらに子や孫であること、誤字脱字が致命的結果を招くことがないからだ。「結論は会話の中で自ずと導きだされ、過程に意味があり結論がない場合もあるチャットツール」だから気負わずに使える。

これはデジタル化でのバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化への課題と言える。またデジタル化以前はどの世代であっても誰かの補助があったうえで申請などを行っていたことについて考えるきっかけにもなる。

役所へ行き証明書などを得ようとするなら請求書(申請書)の空欄を埋めなくてはならない。わからないことがあれば係員に質問できるうえに、誤記や記入漏れがあれば窓口で指摘されたうえでどうしたらよいかを教えてもらえる。

デジタル化されフォームにも注意書きがあり、熟読することが求められるが、これは役所の記入台の目の前にある「記入例」の注意書きと同じだ。フォームには質問できる相手がなく、ミスをした場合は誤入力として戻され、入力した文字を確認しずらい問題さえある。また全角・半角の違いをデザインやDTP関係者以外が理解したのは近年であり、わかっていても両者を間違えることがある。さまざまな間違った入力のまま請求などが進められることは稀だろうが、間違っていたらどうなるかと不安が生じる。

文字入力と視力、ミスするまえの補助、ミスからのリカバリー、全角・半角問題について証言する高齢者がいるのだから、高齢者はデジタルデバイスの使い方を覚えようとしないから悪い論だけで済ませてはならない。憶えようとしない、慣れようとしない人のなかにも、これらが原因になっている例があるのではないか。

対人的補助がなくては予約や申請ひとつできないのか、という批判がある。こうした批判が高齢者への批判に結びつきやすい。しかし、バリアフリー含め全年齢層に共通する課題ではないだろうか。なぜ全年齢層に関わる課題なのか、次に若い世代の声を紹介する。


3.他の世代はどのように感じているか

・他の年代にもつかいにくさがある。
・若年層だからデジタル化に対応できているとは限らない。

デジタル化された情報に対してリテラシーが高いと思われる20代後半の人物は、接種予約ページの表示がわかりにくかったという。

両親がPCから予約を入れようとしていたとき不可解な表示があった。明るい背景色と異なる暗いグレーで枠囲みされたなかに、予約できる対象が長々と列記されていたが、医療関係者や福祉・介護関係者などのほか特定の病名が挙げられたうえで年齢制限が書かれていた。いったい誰を対象としているか一読してわからず、関係者や特定の病気でない場合はリンクが別にあるのではないかと疑った。まじめに読めば読むほど先へ進みにくくしていると思った。

この自治体で接種券に記された10桁の券番号が5桁ずつ間にスペースはさんで印刷されていたのも、フォームに入力するとき[XXXXX XXXXX]とすべきか[XXXXXXXXXX]でよいのかどこにも説明がなく両親は迷っていた。またスペースを入れるなら半角なのか全角なのかもわからない。これもまた気づいた人、まじめに考えた人ほど入力を難しくしている。

これらは後日、自治体へ是正を求めた。

またPCとスマホいずれからアクセスするかで差が出るだろうとも言っている。これは筆者も別記事で指摘済みだが、フォームに限らず前段にあたる説明ページの視認性をふくめ自治体ごと使い勝手に優劣がある場合があった。以前のように使用できるブラウザがIE一択のような馬鹿げた制限はなかったが、PCから使いにくいかスマホから使いにくいといった違いがあるのは好ましくない。

両親が予約している様子を目の当たりにして、自分が同じ立場になったとき面倒臭さを感じたり戸惑うと思われる予約対象の注意書き以外にもあった。自分以外の若年層でももっと面倒臭さを感じ、もっと戸惑う人がいても当然だろうという。

若年層だからデジタルデバイスの使い手であり、デジタル化された情報を使いこなしているとするのは誤りだ。デジタルデバイスを使い慣れた世代は説明されるまでもなくツール操作のルールを暗黙の了解のうちに知っているだけと考えたほうがよい。それはかなり大きなアドバンテージだが、難解な課題に出会ったとき諦めずに正しく対処できることや、情報を探す、情報を精査する能力とは無関係である。

使えない人々を切り捨てると言うとき、どこまでを「使いこなせる層」とし、どこからを「使えない層」と想定しているだろうか。「使いこなせる層」はいつでも使いこなせるのだろうか。言うほど、切り分けは簡単でも単純でもない。


4.何が欠けているのか

・さらに必要とされる情報。
・フォローを必要とする人々とアドバイザー。

高齢者に限らず人々はどのようにしてワクチン接種の詳細な予約情報や、接種そのものにたどりついているのか。

接種券に同封されているチラシで確実に情報が伝わらなければならない。しかし不足していた場合に参照する自治体の広報(回覧板等への挟み込み)は同封チラシとほぼ同じ内容であり、マスメディアの報道はさらに大雑把だったので、自治体に電話をして問い合わせたほか、他の人から説明を受けて理解が深まったとする人が少なくない。また前述のように予約しようとしたときサイトの不出来によって困惑し立ち往生するケースもあった。

これらで、他の人からの解説やアドバイスは安心材料や接種への後押し過ぎなかったとしても無視できない働きをしている。

話を聞いた高齢者2名のうち1名は我が子と話し合って予約をし、もう1名は病院で医師から説明され同医院で個別接種を受けた。筆者が予約を手伝った高齢者たちのなかにもデジタルデバイスを所有している人はいたが不足する情報を「検索」しようと発想する習慣がなかった。このため予約を代行する前に個々の求めに応じて説明をした。また、ここでも「安心材料」や「接種への後押し」の必要性を感じた。

若年層の接種意向に当初ばらつきがあった原因のひとつに「安心材料」や「接種への後押し」の不足があったのではないかと考えられる。

なぜワクチンを接種しなければならないか、どのように接種の申し込みをしたらよいかなど情報は世の中に溢れている。だがこれだけでは不足していたのかもしれない。しかもWEB上に不足を補う情報があっても検索サイトを使いこなせない人が相当数いることも考慮しなくてはならないのは高齢者だけではない。また検索した結果、陰謀論や反ワクチンへ傾倒して行った人もいる。

以前、大学生にワクチン忌避が広がった様子を調査したが、これは「安心材料」や「接種への後押し」とは裏返しの情報が同調圧力もあって浸透してしまったケースと言えるだろう。

現在、若年層の接種意向に積極性が現れているのは、身近に接種者が現れはじめ、渋谷の無予約接種会場に殺到する人たちによってワクチン接種の動向が可視化された影響が大きいだろう。ここに至るまで大学拠点接種で高い接種率を達成した大学があるいっぽうで、前述の調査だけでなく近畿大学のように7月段階で6割に留まるケースがあった。

大学生、短大生は在籍している大学以外の大学拠点接種で接種でき、東京と大阪には自衛隊大規模接種センターの予約枠があり、かなり広範囲の職種で職域接種会場が設けられていた。BMI30以上の人に対して優先接種もおこわれていた。なぜ8月に積極性が高まったかを考えなくてはならない。

神戸新聞

8月は休みが取りやすかったため接種へ前向きになった人が多いのは間違いない。ただし、それだけでは意向の加速度的な変化は説明できない。

デジタル化以前からの問題ではあるが、広報だけでは不足するものをフォローする態勢は必要であるし、かつて「わからないことがあれば係員」と期待されていたものがすべて文字情報になり対人要素がなくなることを考慮す必要がある。どこまでを国や自治体がやるか問う声もあるだろうが、それがなければ十分な結果を出せないとしたら体制を整えなければならないはずだ。


個として向き合い個で判断して結論を出すデジタル化

解決

明らかになった課題や問題点。
・バリアフリー、ユニバーサルデザインの課題。
・ミスするまえの補助、ミスからのリカバリー、全角・半角問題。
・安全性、信頼性への不安。
・対人的補助があって成り立っていたものをどうするか。
・広報だけでは不足するものをフォローする態勢。
・情報収集から選択、決定まで個人の能力にどこまで期待するのか。
・なにをもって「使いこなせる層」とするのか。誰を基準に設計すべきか。
・これらは世代を問わない。

─・─

デジタル化された広報と申請や予約は、情報に個として向き合い、個で判断しなければならないような気分にさせられるものかもしれない。これは個人が所有するデバイス内ですべてが完結する故だろうか。

こうなると個人の資質、個人の能力によって結果が大きく左右されることになる。だからこそバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化を、高齢者のためではなく全世代のため進めなくてはならない。

そのうえで、そもそもそれは個で処理できるものなのかという問題を忘れてはならない。あなたと私はできるとしても、世代を問わず理解できない、決められない、対応できない人がそれなりに多いなら対人的なアシストまたは同等のものを用意できるか考える必要があるのではないか。

ここまでが一般論だ。次は新型コロナワクチンの予約についてもう一度考える。

たとえばアメリカで予約できた人とできなかった人を分けたのは予約フォームに至るまでのサイトづくりと空き枠の検索システムだったところが大きい。しかも州ごとに説明からフォームまで異なるものだったので、反ワクチン勢の多寡だけが初期の接種率を左右したわけではない。

当初ニューヨーク州ではニューヨーク州、ニューヨーク市、私企業が運営する3つの予約サイトを行き来しながら自分の予定に合う日時と場所を探し出さなければならなかった。このため接種が優先された高齢者が行き詰まり、AirBnBのエンジニアが母親のために串刺し型検索サイトをつくり後に他の世代も利用するようになった。だが、それでも諦める人がいた。

日本だけの問題でも日本の老人だけの課題でもなかったのである。

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参考資料/

現在ニューヨーク州のワクチン接種特設サイトは次のようになっている。

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上掲のページから[国営のワクチン検索サイトで探す]を選ぶと次のページに遷移する。

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このあと更にページが続くが、ここまではかなり整理されている。

以下はロスアンジェルスの予約システムだ。

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加藤文宏
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