処理水放出をめぐる韓国世論の実態
取材・論考・タイトル写真
加藤文宏
どこまでも政治的な反対論
福島第一原子力発電所事故から12年、いよいよALPS処理水の放出がはじまる。処理水をめぐっては、韓国の最大野党「共に民主党」の議員団が放出阻止を掲げて福島県を訪ね、中核派が運営するクリニックを訪問する異様なできごとがあった。朝鮮日報が4月6日の社説で「デマ政治の誘惑を捨てられない共に民主党」と論じたことでもわかるように、韓国内の放出反対論は政治的思惑から拡散され浸透がはかられたものだ。
では韓国の一般市民は日本の原発事故をどのように捉えてきたのだろうか。関谷直也氏と小山良太氏が行った2017年と2020年の10カ国調査によれば、生活苦や病気にまつわる福島県へのイメージが改善されなかったのは韓国と中国だけであった。両氏は論文で、改善されない理由は報道、海続きの近接性、これらによって事故直後の不安を引きずっているためと分析している。なお関谷氏は学術研究集会の発表で両国が政治的意図のもと国内世論を誘導していると見解を表明したが、2017年からの四年間は韓国で文在寅元大統領が政権を握っていた期間と重なる。
現在も韓国のメディアでは処理水放出が「汚染水放流問題」としてたびたび取り上げられ、日本語に翻訳された記事やニュース映像が紹介されるため論調の偏りを憂慮する向きもあるだろう。なお韓国では原子力発電所の排水は放射性物質を取り除いても「汚染水(오염수)」とされ「処理水(처리수)」の呼称は一般的ではないため、汚染水と書かれたり読まれたりするだけで印象操作が行われている証拠とは言い切れず、IAEAや日本が処理水(Treated water)としていることからどちらが適切か問う議論もあった。しかし、共に民主党は「汚染水」を「処理水」に変えるなら「日本の利益になる決定だ」としていて、左派系メディアも善悪の対立構造を際立たせようと同様の主張をしている。
1、2年前の日本と酷似
このような報道事情のなか、韓国第二位のポータルサイトDaum(ダウム)は「『日本汚染水論争』に飛び込んだ学者『恐怖を助長すれば私たちが滅びる』」と題するインタビュー記事を6月9日に転載した。インタビューで忠北大薬学部の朴一榮(박일영/パク・イルヨン)教授は、このまま韓国の政界が福島第一原発の汚染水放出の危険性を誇張して恐怖心を煽ると、国内の漁業などの産業に重大な影響が及ぶと語って左派の政治的な思惑を批判した。
ダウムは2004年に開設したチャットルーム「アゴラ」が左派系市民や活動家に占拠されて世論操作の温床となり、2008年にはアゴラから広がったデマが狂牛病騒動を起こしている。長らく左派の拠点と目されていたダウムに共に民主党の政策を批判するインタビューが転載されたにもかかわらず、記事の感想を問うページ末尾の投票で「オススメする」が3件、「いいね」が8件、「怒ってます」が130件と他の政治記事の10分の1程度の票数しか集まらず、「汚染水放流問題」への読者の関心が極めて低いのが露わになった。
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