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謎の拳銃、白頭山拳銃をまとめる

白頭山拳銃(Peaktusun Pistol or Beakdusun Pistol)、皆さんご存知でしょうか。北朝鮮の軍人がよく構えながらエイエイオーしてる図やペッカペカに輝く名誉贈答銃が有名です。…そんなに有名か?

そんな白頭山拳銃ですが、何を血迷ったのか私mossyは「これの3Dモデルを作りてぇ!」と思い立ち、そうとなればと資料集めに奔走した結果、この拳銃についてそこまで情報がまとめられてない事が分かりました。そりゃそうなんですが。

ということでこの記事では私がネットで集めた画像やらを元に今日に至るまで白頭山拳銃がどのような変化を辿ったのか素人なりにまとめたものをここに書き残しておこうと思います。

通常型

通常型(初期モデル)

元はCz75、厳密にはCz75後期型(PreB, 2ndと呼ばれる)をコピーしたと言われる白頭山拳銃ですが、朝鮮中央通信や聯合ニュースを見ると僅かな差があることがわかります。

Cz75 後期型 (Wikipediaより)
白頭山拳銃 (Heebum Hong氏より)

標準グリップのCzマークが北朝鮮を表す丸と星になっている点、そしてフレームに刻印された「백두산(白頭山)」の文字で判別が可能です。また拳銃が落下しないためのヒモを通す穴のランヤードリングがグリップの付け根に追加されています。

백두산(白頭山)の刻印
見やすいようにコントラスト等を調整してます
刻印部分のみ切り抜いたもの

よくこの白頭山の文字は金日成の直筆のものをもとにしているという情報がありますが、これを見る限り俗にいう「太陽書体」ではなく、後に紹介する贈答用の拳銃のみが直筆なのではないでしょうか。

通常型(2013年モデル)

2013年になってから、北朝鮮は新型の白頭山拳銃をメディアに公開し始めました。ちなみに画像は2013年2月に行われた党中央軍事委員会拡大会議にて軍幹部に贈呈されたものですが、後に一般兵士(といっても特殊部隊ですが)での運用も確認されたので参考までにこちらに使用しています。おそらく通常型ではプレート部に丸と星が描かれていると思われます。

2013年モデル (KCTVより)

スライド部分がより現代的になり、全体的な見た目はCz75Bやそのコピー品のNorinco NZ85Bに近くなったことがわかります。しかし銃口まわりの堀りが薄くより平坦であったり、スライド前方を大きく削り取るなど北朝鮮独自の改良が見られます。リアサイトもより現代的なものへと改良され、またマガジンはCz75 SP-01のようにバンパーが標準搭載されるなど、より現代的な改良が成されているのが見て取れます。以前はやや不鮮明な画像のみが出回っていましたが、2017年の軍事パレードにて特殊作戦軍偵察旅団兵と思われる縦隊が革製と見られるチェストホルスターに入れた状態で98-2式歩銃と共に披露し、量産されていることが確認できました。

2017年の軍事パレードで披露された朝鮮人民軍特殊作戦軍(KPASOF)偵察旅団隊員

グリップはおそらく木製に変更され、形状がより洗練されているのが見てとれます。
2023.08.01追記:
7月27日の「祖国解放戦争勝利70周年慶祝閲兵式」にて新たに13年モデルの白頭山拳銃と思われる映像が公開されました

リアサイトの形状やわずかに見えるグリップの色から13年モデルと思われます。

こちらは射撃中の様子であり、現在もヒモを通して使用している様子が見られます。射撃訓練としてこの暗さは一体何故…?

2023.09.02追記:
2018年2月8日の軍事パレードの画像より、グリップが黒色プラスチックとみられるものに変更された13年型白頭山拳銃を装備した部隊が確認されました。現在はもとの木製に戻っていますが、改良を試みた形跡と思われます。

Cz75B (公式HPより)

また2013年モデルは比較的新しく、特殊部隊や高級将兵のみが所持している様子を見るに生産数は少なく、一般兵は初期型ないしは68式拳銃(トカレフのコピー品)などのさらに古い拳銃を使用している可能性があります。

名誉贈呈銃

北朝鮮では、代々最高指導者が優秀な成績を収めた兵士を讃えたり、重要な会議や記念日を祝って軍幹部・将兵にメッキを施された装飾付きの88式小銃や73式軽機関銃などの銃器を直接下賜する文化があり、勿論白頭山拳銃も例外ではありません。
この名誉贈呈銃版の白頭山拳銃ですが、北朝鮮の最高指導者が代々入れ替わるたびに少なからずデザインが変更されているようです。それでは金日成の時代から見てみましょう。

名誉贈呈銃 (金日成モデル)

名誉贈呈銃 (KCTVより)

金日成が最高指導者の頃の名誉贈呈銃は、基本的には初期モデルの白頭山拳銃に装飾を加えたものです。銀色にメッキを施されており、グリップは象牙を彷彿とさせる白色に変更されています。
確認できる映像や画像は時代も相まって不明瞭なものが多く、詳細なエングレーブの内容は不明でしたが、葉や花びらの形状や葉脈の形態から北朝鮮の国花であるモンラン(オオヤマレンゲ)がモチーフになっていると考えられます。
背面に関しては残念ながら画像が見つからず、詳細は不明のままですが、後述する金正日モデルと同じか似たものであると考えられます。

北朝鮮の国花・モンラン (オオヤマレンゲ ) (我々民族同士より)

下の画像のように、互い違いの葉脈やつぼみのエングレーブ、通常型では星と丸が描かれている場所には金色のプレートが置かれ、金日成(김일성)のサインが記されています。

近距離から撮影された白頭山拳銃 (KCTVより)

名誉贈呈銃 (金正日モデル)

最高指導者が金日成から金正日に代替わりすると、白頭山拳銃にも若干のマイナーチェンジが行われました。
当時製造され、金正日が寄贈した1丁の特別装飾の白頭山拳銃がロシアのトゥーラ州立武器博物館 (Тульский музей оружия) に展示されています。

寄贈された白頭山拳銃

金日成モデルより装飾がより細かくなりグリップ部・トリガーガードにも追加され、北朝鮮の工業技術が発達していることが読み取れます。また、スライド部には白頭山を、「白頭山」の文字があった部位には代わりに金日成の生家とされる万景台の風景が彫られており、より金一族を崇拝する意味合いが強くなっています。
グリップのプレートの文字は金正日のサインに変更されました。

金正日モデルと思われる白頭山拳銃

トゥーラ州立武器博物館に寄贈されたものと装飾が若干異なるものが公開されており、こちらではフレーム部の「白頭山」の文字が復活していることが読み取れます。画像が荒すぎるので詳細な装飾は不明ですがグリップ上端部分より下に装飾が伸びており、より金日成モデルに近いように感じます。

背面の装飾 (KCNAより)

背面の装飾は金日成モデル同様におそらくオオヤマレンゲがモチーフとなっていると考えられます。
また上二枚の画像は2012年3月に公開され、当時金正日は既に死去していますが、金正恩が正式に北朝鮮のトップに就いたのは2012年4月からなのでこちらに分類しました。

名誉贈呈銃 (金正恩モデル, 初期型)

2013年3月5日に公開された記録映画にて、金正恩は下の白頭山拳銃を軍幹部に贈呈していました。以前のように銀色のメッキは施されておらず。通常型初期モデルの白頭山拳銃に彫刻とプレートを施したのみに見えます。またこのプレートに書かれたサインは金正恩の物ではなく、金正日のものでした。

贈呈された白頭山拳銃 (KCTVより)

名誉贈呈銃 (金正恩モデル、2013年モデル)

これがこのnoteを書いている時点で最新モデルの名誉贈呈銃です。朝鮮戦争の停戦調停が制定された日である2020年7月27日に金正恩によって軍幹部に贈呈されました。

通常型とは形状が若干異なり、スライド部が削られておらず代わりに丁寧な彫刻が施されています。

背面の装飾と嬉しそうなおじさん (KCTVより)
贈呈された白頭山拳銃 (KCTVより)

銀と金の2色が豪華に使われ、木製のグリップには北朝鮮の国章と金正恩のサインがついています。スライド部分に金色で強調された白頭山が目を引くデザインとなっています。

白頭山ターゲットピストル

おそらく1点モノですが、平壌のメアリ射撃場にて競技用と思われる白頭山拳銃が確認されています。
ヘッダーの画像の左の女性であるキム・スリョンさんが持っているものです。AFPのEd Jone氏によると、

In this photo taken on February 21, 2017, shooting instructor Kim Su- Ryon poses for a portrait at the Meari Shooting Range in Pyongyang Kim is holding a “Paektusan” target pistol, gifted by late North Korean leader Kim Il- Sung. Visitors to the range can pay 10 USD to shoot ten rounds. (Photo by Ed Jones/AFP Photo)

https://www.enflight.design/interview-traversing-tales/

とあり、これを日本語訳すると、

2017年2月21日に撮影された写真で、平壌にあるメアリ射撃場でポートレート撮影に応じる射撃インストラクターのキム・スリョン。キム氏が手にしているのは、北朝鮮の故金日成主席から贈られた「白頭山」ターゲットピストル。射撃場では10発撃つのに10米ドルを支払う。

https://www.enflight.design/interview-traversing-tales/

となります。

白頭山ターゲットピストルを持つキム・スリョンさん (TOMAS VAN HOUTRYVE氏より)

基本的な設計は初期モデルと同じと思われますが、排莢口が小さくなっています。競技用ということもあり.22LR弾を使用している可能性が高いです。

拡大画像

銃身が延長され、ルガーのようなシルエットとなっています。またスライド上のフロントサイトは廃止され、代わりに銃口付近に新しいフロントサイトが設けられていることがわかります。
またグリップ部分は木製であり上部までフレームを覆うように作られていることからも、精度を要求される競技用ならではの改修が見てとれます。

接写画像 (Flickerより)

表側の画像は2014年に公開されており、不明瞭ながら「白頭山」の文字が通常型と同様に彫られていることがわかります。しかし、ネームプレートは確認されませんでした。

以上が私が確認することができた白頭山拳銃です。ほかにも製造年数によって無数のマイナーチェンジがある可能性は残りますが、大まかにはこれらがすべてなのではないでしょうか。
この情報があなたの白頭山拳銃に関する理解の一助になれば幸いです。
指摘や追加情報、罵詈雑言などありましたらコメントしていただけると嬉しいです。

蛇足


まず、ここまで「なんだこのクソ記事は」と憤慨することなく到達して頂いた読者の皆様に感謝申し上げます。
さて、私がこの記事をまとめることになったきっかけを覚えていますでしょうか。
……
そうです。
3Dモデルです。私mossyは以上のクッソ少ないソースを元にこの拳銃を3D化することにしたのですが、一応その結果をここに貼り付けておこうと思います。いずれ気が向いたらArma3のmodにするかも…しれません

こちらが完成したものです。

ということで無事(?)名誉贈与拳銃(初期型、金日成モデル)を作成することが出来ました。

上のリンクからモデルも直接見られます。是非アクセスしてください。


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