バッドエンドの不妊治療②~タイミング療法

婦人科の初診。
おぼろげな記憶だが、まずは問診票を記入。
いつも通り月経周期の欄を何日と書いたら良いものかと難儀。
診察では今までの経緯を伝え、一般的な治療の流れを説明してもらう。
最後に血液検査のため採血して帰宅。検査結果は後日。
そして2週間後、迎えた2回目の診察。
先生から告げられたのは、「甲状腺の数値が芳しくないので、このままでは不妊治療は始められません」だった。
今後の治療方針を相談するのつもりで受診したのに、いきなり躓いた。
人生で初めて聞いた『甲状腺』という言葉。
通い始めたばかりの病院から、通院2回目にして他院の紹介状を頂く始末。
「え?私って治療すら受けられない状態なの?」と自分の体たらくに不満と情けなさを抱いた事を覚えている。

焦る気持ちのまま甲状腺治療専門の病院を受診。
こちらも初診は検査に次ぐ検査で、結果は後日との事。
そしてひと月後、再び迎えた『2回目の診察』。
今回先生から告げられたのは「不妊治療を始めて大丈夫です」との診断結果だった。
しかし、「今回の結果だけでは明確な判断が出来ない」「一時的なもののようにも見えるし、定期的に数値を測らなければ分からない」という内容だった。
それでもとにかく「不妊治療を始めて良い」という点において、私は胸を撫でおろすばかりで、甲状腺の病気について深く追求しなかった。
そしてこれが後に、心のしこりとなる可能性を知らないまま、不妊治療を始めた。

2回目の診察からひと月半の期間が空き、久しぶりの婦人科へ。
待ち望んだ不妊治療が始まる。
こちらも初期の頃の記憶はおぼろげなので、ざっくりと要点を書き記すのだが、最初はタイミング療法から始まった。
治療内容は、以前に診断を受けた通り、私は『多嚢胞性卵巣症候群』により、月経不順かつ排卵障害を引き起こしていたため、服薬しながら定期的に通院。
超音波検査で卵子の成長具合を測りながら排卵日を予測し、指定日に性交渉を行う、凡そこんな感じの流れだった。
この治療の初期には、卵管造影検査も受けた。
検査は今までに感じた事のないタイプの痛みで、「出産ってこれをもっと強くした様な痛みなのかな?耐えられないかも!」とか、やって来きもしない将来の不安を呑気に抱えたりした。
検査結果に問題は『無く』、また同じようにタイミング療法の結果もまた、何も『無い』まま半年ほど続けた。

性交渉といっても、この頃には実際にセックスなんてしていなくて、『シリンジ法』を用いて性交渉としていた。
一般的にやはりセックスというものは、気持ちや雰囲気が大切なんだと思う。
もちろん私自身も、その大切さは身をもって感じるところがあるけれど、不妊治療となればそんな事は言ってられない。
最高の機会、排卵日は決まっているのだ。
しかしこの点においては女性よりも男性の方が繊細だったようで、夫の負担が少しでも軽減されればと思いシリンジ法を提案した。
また、夫が具体的に口にする事はなかったけれど、なんとなく分かっていたからだ。
付き合いたてのカップルのような関係でもなく、もうセックスしたいと思う様な相手ではなかったのだろう。
これは私が人間として女として、非常に可愛げがないのが原因だった。
それでも日頃は仲良く過ごしていたし、夫婦として、家族として、子供を授かり家庭を築きたいとお互いに思っていると、この頃はその動機だけで上手くギリギリの所で成り立っていた。
それも、まさかあんなにも治療が上手くいかず、長引くとは思っていなかったからだ。

タイミング療法を始めて半年ほどで経った頃、とうとう服薬だけでは排卵が難しくなり、自宅での自己注射が始まった。
処方当日に注射器の使用方法を動画で確認するよう指示を受け、病院の待合所で一人イヤホンをしながらスマホで視聴。
想像していた注射より針が短く、心理的ハードルはぐっと下がった。
消毒用アルコールや注射針などの『お注射セット』を、まとめて保冷バックに入れて持ち運び、自宅に帰って1日1回注射を打った。
初めの数回こそ緊張したものの、次第に注射にも慣れ、それどころか「良い経験が出来たな」くらいの、心のゆとりの様なものまで少しあった。
というのも、「これも出産後に振り返る、不妊治療の思い出のひとつになるんだろうなあ…」とか、「流石にこれだけやって妊娠しない訳がない」という、『まさか自分が』『そんな訳ないもの』という精神が、甘えが、頭の隅に、心の中にあったからだ。
結果から言うと、それでも妊娠には至らなかった。

飲み薬から自己注射に変わったタイミング療法。
まさか自己注射を打つような事になるなんて思わなかった。
排卵をしっかり起こしてタイミングを測れば、3回目くらいで妊娠できると思っていた。
それは注射に切り替わっても効果はなく、2,3回ほどタイミングを測っても妊娠に至らなかった。
これはいよいよ『体外受精』をしなければならないんだろうなあ、と思い始めた頃、夫の様子がおかしくなってきた。
態度が粗暴になり口調がきつくなっていった。
そんな日々が数か月続き、私も心身ともに辛くなり、こちらから問いただした。余計な事をしたと後悔した。
「終わりにしよう」と言われた。
離婚したいらしい。


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