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変わったり、変わらなかったりする

久しぶりに地元の飲み会をすることになり参加した。というより企画したのが自分だった。
地元仲間のKが、仕事で名誉ある賞を受賞した。地元紙やメディアでも大々的に取り上げられ、彼の顔写真も色々な媒体で見かけるようになった。それで、少しばかりでもお祝いをしようと思ったのだ。

自分は結婚した時に、彼や友人たちからサプライズでお祝いパーティーを開いてもらっていた。あれは本当に驚いた。
その日、私はMちゃんという地元の女の子と2人で飲んでおり、私が「3軒目ここ入ろうよ!」とおでん屋に誘ったところ「ごめん!私こっちに入りたい!」と別の居酒屋に引っ張られた。へぇ、居酒屋、珍しいな…と思ったら、そこに同級生たちがたくさん集まっていて、おめでと~!とクラッカーを鳴らされたのだった。
すごく嬉しかったが、Mちゃんは「もっさり、めちゃくちゃ飲むから予定押して調整が大変だった」と言い、みんなも「全然来ないから何事かと思ったらお前3軒目入ろうとしてたんか!?あほか!?」と責められ、自分らは飲まずに待ち続けていた心情を察して、ごめん…と思った。

サプライズでお祝いしてもらっておきながら、そのまま妊娠、あっという間に子ども2人を出産して飲み会に行けなくなり、その間に皆もあまり集まらなくなっているようだった。私はみんなに何も返せていないな…というのが、ずっと心残りであった。

というわけで今回、地元メンバーでまた集まって、みんなにも何かしらのお祝いを返そう!という目標を達成させるいい機会だなと思った。
とはいえ本当に久しぶりで、飲み会そのものも6年ぶりであった。6年!?というわけでいきなり本格的なサプライズは仕込めず、みんなからお金を集めて花束やプレゼントを準備する程度だったが、昔からの友人の喜んだ顔が見れたのでよかった。私へのサプライズの仕掛け人だったMちゃんは妊娠しており、彼女にもちょっとしたサプライズでプレゼントを準備できたので良かった。

私の地元は山に囲まれた田舎で、小学校から中学校までほぼ全員一緒である。厳密に言えば地域に小学校はいくつかあり分かれているが、中学校にあがればすぐに馴染むような文化で、町全体の繋がりというか地元感がとても強い地域である。
今回集まったメンバーは全員、小学校からの付き合いだ。都合が合えば中学校からの同級生も参加するが、たまたま今回は小学校からの同級生が集まった。

お店を選んでいる段階から、今回参加する同級生のAという男子に店選びの相談をした。Aに相談した深い理由はない。コースメニューに一番うるさそうだったから、とか、今回お祝いするKと一番仲が良いから、というなんとなくの理由だった。

今回の主役Kと、Aとは、昔から仲が良かった。習い事の書道教室も一緒だったし、小学校からクラスも結構一緒になったのだが、二人は小学校の頃の私をあまり覚えていないという。私は当時、教室の隅でキャンパスノートにひたすら自作の漫画を描き、一人で過ごしていたので、まぁ分かんないだろうなと思う。
大人になって、何かの拍子によく飲むようになった。週末は毎週のように飲んでいた。深夜0時、風呂に入っているとAから電話が来て、「今みんなでお前んちの前にいるからすぐ出てこい」と呼ばれる。いま風呂に入ってるんだけど!?と答えると、「化粧はいいから服着てこい!にんにくラーメン食って飲むぞ」と言われ、なんで風呂入ってさっぱりした後にギットギトのにんにくラーメン食うんだよ…と思いながら玄関を出るわけだが、食ってみると最高だったりする。深夜というのがまた良かった。

だいたい声をかけられるのはAからだった。
Aは男子バスケ部員で、まさにスラムダンクに出てくるような体格のバスケ部部長であった。坊主にした桜木花道に似ている雰囲気があり、一緒にいると「あの女子かわいい」とか「モテたい」とかしょうもないことを駄弁る奴だった。
Aとは2人で出かけることもあった。が、お互い異性として認識していないと思うので、兄弟のような感覚であった。私には弟、Aには姉がいるので、そこらへんの感覚も合っている気がした。
退勤後に「迎えに来てよ」と電話がくることもあったし(当時、職場が近く、私は車通勤、Aは電車通勤だった)、どういう流れかは忘れたが一緒にNARUTOの映画も見に行った。

そんな感じだったので、店選びの相談をするのも、無意識に連絡しやすいAに聞いていた。その流れで「俺、酒飲めないから車で迎えに行ってやるよ」と言われた。
夫が送ってくれる予定だったので、どうしようかな、と迷った。子どもたちがいるし、どうせ飲まないなら送ってもらおうと思った。夫は「いいんじゃない」と言ったが無表情だった。夫に送ってもらえばよかったかな…とちょっと思ったが、まぁ決めちゃったのでお願いすることにした。

当日、Kへの花束やプレゼントを調達していると、Aから「何時に向かうの?俺暇なんだけど。早く向かってっぺよ」と連絡がくる。集合時刻までは時間がある。「誰か集まれそうな人、声かけてみようか?」と聞くと「それはしなくていい」と言われる。まあ送ってもらうことになってるしな…と思い、1時間半くらい早く迎えに来てもらうことになった。
夫と子どもたちは義実家に遊びに行き、玄関先でひとり、我が家を知らないAが無事たどり着くかキョロキョロしていると、向かいの家の人が出てきたので軽く挨拶をした。そうして待っているうちに、なんだかものすごく悪いことをしているような気持ちになってきた。夫でもない男の車に乗り、家族を置いて飲み会に行くことが、とても悪いことのような感覚になって不安になったが、手に持っていた花束とプレゼントが、「いやいや。みんなと友達のお祝いに行くんでしょ」と訴えかけてくれる。

Aが到着し、助手席に乗せてもらったとき、やっぱり夫に送ってもらうべきだったかもしれない…と思った。
6年ぶりに会ったAは全然変わっていなかった。時々連絡はとっていたものの、顔を合わせるのは本当に久しぶりで、それでもちっとも変わっていなかった。まったく変わらないAの顔を見たら、その時になって急に思い出したことがあった。

あれは夫と付き合う時だったのか、それとも別のタイミングだったのか、突然Aに「なんだよ~、俺お前のこと好きだったのに」と言われたことがあった。うそでしょ!と、その言葉をまったく信じていなかったのだが、Aに「好きな奴のお願いじゃなきゃ、わざわざ映画館でNARUTOなんて観ねえだろ」と言われて、えええ?!NARUTOそんなに好きじゃなかったの!?と衝撃だった。そっちに衝撃を受けてしまった。私さんざん熱く語っちゃったよね!?じゃ、じゃあ私は無理に付き合わせてたってこと!?マンモスはずかぴ~!!!

そんな感じで私はAの話を全然真面目に捉えなかったし、あれからAは私より先に結婚していま3人の子どもがいる。
それが今になって急に思い出し、じわじわと罪悪感が浸食してきた。
もちろん蒸し返すつもりはない。お互い家庭があって今それなりに生きている。しかし忘れていたとはいえ、そういうことがあったなら、二人きりはまずいんじゃなかろうか、と思い始めた。なんで今まで忘れていたんだろう。

とかなんとか考えているうち、集合場所近くの駐車場に到着した。
「乾杯の練習すっぺ。居酒屋でも入るか」と言われて、「あのさ、Yも声かけてみようよ。あいつ元気でいるのか心配だしさ」と、Aと仲の良い同級生を提案してみたところ「おー、呼ぶべ」と同意してもらえたので、かなり気が楽になった。

同級生Yも、Aと同じバスケ部員で、当時めちゃくちゃ走るのが速かった。本当に速かったので全国大会に出場した経歴があるのだが、当時の栄光を引きずるところがあり、それが面白いやら若干心配やら、なんだか危なっかしい酔い方はするし、なんだか世話の焼ける奴である。
Yも全然変わっていなかった。少し落ち着いたね!と話していたのに、酒を飲み始めた瞬間、あの頃とまったく同じ、危なっかしい様子になった。懐かしいような安心と不安が同時に押し寄せる、貴重な心境を経験することができた。

ビール2杯を飲んだところで集合時間になり、店を移動すると、ちょうど全員が揃ったところだった。
大好きなMちゃんはすっかりお腹が大きくなっていた。私の友人で一番可愛い女の子で、中学当時めちゃくちゃモテた。彼女もバスケ部員だった。Mちゃんは2年ぶりで、私が下の子を妊娠している時にピクニックに出かけて以来だった。Mちゃんともよく2人で飲んだし、私の結婚式では友人代表をお願いした。彼女の結婚式は、下の子のつわりが酷くて出席できず、彼女と式場の配慮でオンラインで参加させてもらった。
Mちゃんとは偶然、腕時計やパーカーなど私服がかぶることが数度あり、占いの結果もいつもまったく同じになるし、なんと職場の工場までもが偶然一緒だった。お互い不思議と仕事の話はしておらず、ある日偶然、工場の廊下で鉢合わせたのだ。大爆笑だった。それ以来退勤後にも飲んだり遊べるようになって、それがすごく楽しかった。

今回、Tちゃんという女の子も参加予定だったが、都合で不参加になった。Tちゃんは会うたびに私にキスしてくる女の子だった。会いたかったので残念。

今回の主役Kは、お皿を配ったり、てきぱき働いている。ごめん。
彼のことを詳しく説明すると身元が判明しかねないので、今回は主役ということだけ記載する。主役なのにな…。

そして、中学卒業ぶりになるSという男子が参加してくれた。20年ぶりである。あれから20年!?怖!!
彼のことは正直あまりよく覚えていなかった。部活も何部だったのかよくわからない。学習塾が一緒だった記憶があるのだが、それを言ったら「え???」と言われた。記憶違いなのか、あるいは向こうも私をあんまり覚えてないな。
Sは都内のバリバリのベンチャー企業を辞めて地元に帰ってきた。Facebookでは繋がっており、私も知っている業界に転職したことをなんとなく覚えていた。それでなんとなく業界の話をしているうちに酒がすすみ、「あれ?本当に20年ぶりだっけ?こないだ飲んだよな??」という会話を3回くらいした。飲んでないけどね。地元感、距離の埋め方が早い。

久しぶりだったので忘れていたが、Aは同窓会だとか大人数の飲み会になると、私のほうを向いて話す癖があった。それは好意とかではなく「なんとなく話しやすい奴に喋るのが楽」という感じで、そういえばこいつはこんなに陽キャな様子なのに、思ったより人見知りだったし、周囲も案外こいつと打ち解ける感じじゃなかったな、と思い出した。

地元の人たちの話、家族の話。変わらないものと変わったものと。今回飲むまでの6年という時間は、短いような長いような、不思議な長さであった。だから話すこともたくさんあるけど、根本的にはふざけてるのですぐに話題が変わるし、酒も加わって話があっちゃこっちゃになるし、何を話したのかハッキリとは覚えていない。けれどみんな終始笑っていた。

お店を出て、Mちゃんが帰るのを見送っていると、主役Kのお兄さんに遭遇した。すぐそこにお店を構えていて、閉店時間だが入れてくれた。
自家製の梅酒があるというので、Sが注文して作ってもらっていた。あら美味しそう!と言うと、私にも奢ってくれた。すまん、ありがとう…。「ロックで」と注文すると、もっさり本当に酒飲むよね!?と笑われた。そうだよ~俺は飲むよ。また集まって飲もうな、と言うと、Kのお兄さんが「うち貸切ってここで飲めばいいじゃん」という。兄弟そろって営業上手だね。

アルコール組は結構酔っていた。Sになぜかお小遣いをもらった。パパ活か!?と言いながらもちゃっかり受け取ったので、今度は何かSのお祝いができたらいいね。Mちゃんの出産祝が先かな。産後ぜんぜん出られなかったけど…。
そうやって希望的なものを自分たちで作って集めて、ここで生きていることをお互いに称えあっていけたらいいなと思った6年ぶりの地元飲み会でした。


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