おとしどころ 最終話

           mosoyaro

 今から12年前
高校入学前の春休みの出来事。
その日は満月だった。

会社で嫌なことがあると母に暴力を振るう父が、その日は私と姉も襲ってきた。
今まで私と姉には手を挙げなかったのに。
もしかしたら今日殺されるかもしれないという恐怖を感じた。
いつもと違う。
私は顔とお腹を数発殴られた後、父の一瞬の隙を見つけて靴だけ握りしめ家を飛び出した。
隣町に住んでいる叔母さんに助けてもらうため夜道を走る。
何故か隣の家もしくは近所の家に駆け込もうとは思わなかった。
多分今まで母が必死に周りに隠してきた事だからだと思う。
他人に話てはいけないと思ってきた。話をしても信じてもらえるかわからなかったから。

私の父は祖父の代からの資産家で、本人も皆が知る大企業大に勤めていた。社会的信用があったので、近所からの評判も良かった。
私達は父の事を周りには相談できなかった。
唯一、その父の本当の怖さを知っている人がいた。
父の姉、その人ならば暴力を止めてくれると思った。
なぜなら叔母も子供の時、父親からの暴力を受けて育っていたと聞いたから。
助けて欲しかった。

叩かれた時、目の上を切った。血がながれてきたのでトレーナーの袖でふいてみたけどとまらない。
裸足で走っている事に気がついた。
途中止まって靴を履いく、紐を結ぶ手の震えがとまらなくて上手く結べない。
その時、黙って靴紐を結んでくれた人がいた。
そして
「どこまで走る?走れる?」と聞いてきた。

「隣町の叔母さんの家まで走る」
咄嗟に答えていた。
「わかった。じゃいそごう」

その後何も言わずに一緒に叔母の家まで走ってくれた。よろけそうな時は腕を掴んで支えてくれたり、引っ張ってくれたりして。

私は必死に走って助けを求めた。
気がつくと彼はいなくなっていた。
お礼も言えず名前も聞けなかった。
その後、叔母は車で駆けつけて父を止めてくれた。
かなり殴られた後だったが、母も姉も生きていた。良かった、が警察には叔母も届けなかった。
そのかわり二度と暴力は振るわないと父に誓わせた。
その日以降父は暴力をふるわなくなった。
父と母は離婚せず今も一緒に暮らしている。私は今もあの日の恐怖を忘れていない。

大学に入って家を出てからは実家には帰っていない。
母が時々泊まりに来る、そして帰り際にまとまったお金を置いていく。
何度いらないと言ってもやめない。
姉にもそうしているらしい。
多分暴力を振るう父の元を離れなかった事で私達に悲しく怖い思いをさせた事を申し訳なく思っているのだろう。
私は父と別れて二人の娘を食べさせていく自信がなかったから母は離婚しなかったのだろうと思っていた。
自分はそうなりたくなかった、だから勉強して自分の力で食べていける職業を選んだ。

だけど今は少し違う考えもある。私も少し大人になったからか、母は父の事が好きで離れなかっただけじゃないかと。
毎日暴力を振っていたわけではなかった父。
時折狂ったように自分を殴る男だけど愛していたんだろう。だから離れなかったのかもしれない。
愚かな母。
だけどそんな母が今現在幸せそうに微笑むと私も嬉しい。

高校に入学して琴と仲良くなって紹介されたのが、大和だった。
一瞬私の顔を見て、あれ?って顔をしたけどあの日の事を黙ってくれていた。
どれだけ彼に救われただろう。
女友達として側に居られる事が嬉しかった。
大和は琴以外には興味がなかったからどうでも良かった出来事だったかもしれないけど、あの時の私にしてみれば一生分の感謝をしても足りないくらいだ。
大和なら、ただ幸せになりたいと願い、世の中にドロドロとした黒い毒を吐き続ける私を黙って受け止めてくれる気がすると思っていた。

そんな彼が大事にしている琴を傷つけた。
それは大和に傷をつけたに等しい。

作戦決行の土曜日がきた。
二日前から計画は順調に進んでいた。所長の本田からも電話をもらい約束を取り付けている。
優作はその日の防犯カメラをオフにする作業をしている。

男達3人と、キャサリン、ユウキが、コーヒーを持ってVIPルームに入った。

リサ、リンダ、優作と私は四人でVIPルームのドアが開くのを待っている。
ドアが開いた。
眠った合図。
中に入る。
もう一度眠っているかを確認して急いで洋服を脱がし手足を縛った。
口にはガムテープ。
だけどアクシデントがおきた。
目隠しをしている最中に所長の本田が目を覚まして暴れそうになったので、慌てて痴漢撃退用の電気ショックを当てて気絶させた。
飲んだコーヒーの量が少なかったのかもしれない、用心の為に電気ショックを携帯していて良かった。
顔も見られてない。

リンダが素早く 懺悔のリング を取り付ける。耳にはマイクロチップを植え込む。
このチップは位置確認も出来るし脳からの信号もキャッチできる優れものだ。この3人の男達は一生装着する事になる。
写真と動画を撮りその後3人の目を覚まさせた。
自分達の状況に慌てている。
私達はボイスチェンジのガスを吸って声を変えた。

「3人とも目を覚ましたようね。この状況わかるかな。
何がおきてるかわからないと反省しないと思うから説明してあげる、よく聞いて。
今あんた達の姿は写真に撮られて録画もされてる。何のためかはわかるでしょ。
心当たりあるよね。
あんた達が弱い女の人達にしてきた事を体験してもらってる。
ほんと酷いことしてきたよね、だれが始めたかは関係ない。皆んな同罪だから。
所長、あんたには娘いるでしょ、自分の娘がこんな目にあったらどうするって考えた事あった?
あんた達のしてきたことの、証拠は十分にある。調べたから、とことん。
だけど警察には届けない。
警察に通報しても大した罪にはならない。
それどころかあんた達みたいなバカは警察に通報した被害者を逆恨みして、また苦しめたりするでしょ
気にした事も無かっただろうけど、被害者は日常生活に支障がでてるよ。
後ろに人が立つだけで怖くなったり、エレベーターに乗れなくなったり、眠れなくなったり、恐怖とショックで苦しんで、自分を責めたり、自殺未遂までした人がいる。
わからないでしょ、彼女達の苦しみが。
自分達の欲望のまま、卑劣な事していて見つからないと思ってたのかな、バカだよね。
勘違いしてると思うけど、あんた達のやってきた事は、未遂じゃないからね。
すぐにでも刑務所に入れたい。
だけど、私達は優しいから警察には言わないであげる。
そのかわり、今日あんた達の身体にセンサーを取り付けた。
一回だけ今体験させてあげる。」

耳のセンサーに電磁波を近づけたと同時に3人とも一斉に体がのけぞった。
「痛い」
と言ってるようだ。全身をバタつかせている。
「こんな感じ。痛いでしょう。
これ、残念ながら自分で取ろうとしてもとれないから。
これから毎日自分達のした事を反省しながら日常を生きていって。
それと、もし被害者の子達に連絡とったり、脅したりしたら速攻で警察に通報します。
レイプ以外にも色々やらかしているの知ってるからね、脱税とか、横領とか。そっちの罪で刑務所に入ってもらう。
パソコンからは被害者の情報を削除した。
それと、確認だけど事務員の倖田は仲間なの?」
3人とも首を縦に振った。

しょうがない女、事務員の倖田は会社の金の横領の方の仲間。
証拠もある。男達の横領を薄々感じていたから自分の罪を見逃すように脅していたんだ。
こいつには手をつけた金を返させだ後人権団体に寄付をさせよう。悪さを黙っておくからと脅して後日優作と取引してもらう。捕まるよりマシだろう。

予定の時間が近づいた。
引き上げの時間。
その時リンダが私の方に近寄ってきて
「ちょっとだけ時間ちょうだい、やり残したことがあるから」
と言った。
その後、シッと口に人差し指をあてて微笑んで、男達3人に膝まつくように命令した。
そして思い切りムチを男達の身体に向けてしならせた。
バチンパチンと音が響く。その音に合わせて呻き声が。
リサとキャサリンとユウキもいつの間にかムチ打ちに合流している。
後で聞いたら4人で内緒で追加のお仕置き計画をたてていた。

優作と私は呆気にとられた。
まあ、予定外だけど彼女達は彼女達の方法でお仕置きしてるんだろう、と黙って見守る事にした。懺悔のリングだけじゃ足りないと思っていたのかもしれない。

引き上げの時間だ。
四人の手を止めさせ、急いで部屋から出て優作の運転するワンボックス車に乗り込む。
男達を縛り上げた紐は2時間で溶ける仕組みになっていた。証拠は残さない、
天才美少女が作ってくれた。

優作は運転しながら
「今日はお疲れ様、無事に終わった。良かった、皆んな頑張った」 

私はリュックから封筒を取り出した。「成功報酬です。リサさん、キャサリンさん、ユウキさんありがとう」
50万づつ入った封筒を渡した。
危険をおかして手伝ってくれてありがたいとお礼を言って、怪我がなく終われたのが嬉しいと感謝した。
また、何かの時は集まろうと約束し、3人を自宅まで送った。

優作とリンダと私の3人になった。

「琴に連絡しなよ」
リンダが言った。
「うん、そうだね」
電話をかけた。
「あ、琴、連絡遅くなってごめん。
あのね、琴に酷いことしたやつらに仇とったよ。
もう大丈夫だから戻ってきていいよ。琴に手出しできないようにしたから、詳細は今度ゆっくり話す。安心して戻っておいで、そして落ち着いたら大和と結婚するのよ、大和には詳しくは言わない方が良いと思う。琴も忘れる努力しよう。これからは幸せになる事だけ考えよ」

琴が泣くから私も話しながら泣いていた。
「よく言った、さすが真空。今日は3人で飲もう」
リンダも泣いていた。優作は黙って運転していた。

そのまま優作の事務所に行って3人で朝まで飲んだ。
目が覚めたら優作と2人だった。
リンダはコンビニに買い出しに出ていた。

優作は起きてコーヒーをいれていた。
「おはよう」
「起きたか」
「うん、昨日はほんとありがとう、遅くなったけど、これ」
契約のお金を差し出した。
優作は封筒の中を確認した。
「ありがとう、だけど、これ全部お前の自腹だろ。いいのか。
300万、昨日の分も足したら450万」
「いいよ、そっちこそ本当はもっと経費がかかったんじゃないの。
パソコンに侵入させたり、防犯カメラの電源切ったり、法に触れそうな事は沢山やらせてしまって申し訳ない。
これからも色々フォロー頼むし。
足りない時は遠慮しないで言って、もう少しなら払えるから」
「太っ腹だな、二級建築士。もっと稼げるように早く一級とれ」
「おー言ったね、今年こそ一級合格してやるから見といて」
ガッツポーズして戯けてみせた。
その時優作はその手を掴んで反対側の手で私の頭を2回なでた。
びっくりして3回目はよけた。
「何」
「おつかれだったな、お前よくやったよ。一見冷たそうな外見で損してるけどお前は良い女だよ。不器用で、優しい、俺はそんなお前が好きだ」

「あ、朝っぱらから何言ってるんだか」
泣きそうになった。
見られないように急いで立ち上がって
「帰る、じゃあまた」
「もう?リンダ買い出しに行ってるぞ」

事務所を後にしようとした時、ちょうど買い出しにコンビニに行っていた リンダと会ったのでそのまま2人で帰ることにした。

明け方の天神は人も車も少なくスクランブル交差点も渡る人は私達だけ。
夏の名残で昨夜も少し暑かったが、朝は秋の気配の風がふいている。
ショーウィンドウのディスプレイは完全に秋冬にシフトしている。
ガラスに映った自分が見えた。
化粧っ気がなくなってはいるが清々しい顔をしていた。
眠さと疲れと優作からの意外な告白で目の前はチカチカしていたけど気力を振り絞り電車に乗る。
家に帰ると私とリンダはベッドに倒れ込みそのまま眠った。

「真空、起きて真空」
目を開けるとリンダが呼んでいた。
携帯が鳴ってる
「さっき琴から連絡あったよ、戻ってきたって」 
電話にでた。大和からだった。
「もしもし、真空。琴が帰ってきた。
なんかよくわからないけど真空にお礼を言ってくれって言われて。
ありがとう、無事に帰ってきてくれたよ。少し元気になってる。また、先生続けるって」

大和が喜んでる
私も嬉しい
「そう良かった、琴と幸せになって。電話ありがとう」

電話を切って
「リンダ、私達も幸せになろ、ならなと。あーもう夕方じゃん。ね、今からエステに行かない?女を磨きに行こう」
「いいね、よし、今から行こう。割引券持ってるよ」

幸せの基準は人それぞれだ。一見幸せそうに見えても実はとても苦しんでいたりする。
だけど、どんな時でも自分以外の人の幸せを壊す権利はない。
身体に傷がつけば周りから心配される。
だけど心の中がギズを負っても外からは見えない。
法律で捌けない罪はどうする?
私ならどうしたい?
今日の恐怖が、心の痛みがその後の人生でずっと続くとしたら?
どのやり方が正しいのかはわからない。
苦しめた相手を自分で直接殺すことは許されない。
落とし前は一生つけられないかもしれない。
だけど、おとしどころはみつけていかないといけないのかも。
そこで人生が終わってしまうわけではなく、生きていかなくてはならないから。

#私小説
#福岡好き
#韓ドラみたいになってしまった
#解決の方法は人それぞれ

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