おだまり  2

               mosoyaro   

 私は自分の親を知らない。何故なら生まれてすぐに捨てられたからだ。

27年前、福岡市から車で1時間ほどの山沿いの小さな町に 町が運営する児童養護施設があった。
親のいない子供や色々な事情で親とは一緒に暮らせない子供達がそこで暮らしていた。

クリスマスイブの夜、雪がちらつきとても寒い中、その施設の園長が門の前に何か荷物が置かれている事に気づいた。
中を見てみたら白い布に包まれた赤ちゃんが入っていた。
まだ臍の緒がついている生まれたての赤ん坊。
生きているけど声はしない。寒い中外に置かれていたので体が冷たい。
園長は急いで抱きかかえて建物の中に連れていき体を温め、おむつを交換しミルクを飲ませた。

包まれた布の間から一枚の紙が見つかった。
そこには、母親からだろうメッセージが書かれてあった。

どうかこの子をお願いします。事情があり自分1人では育てる事ができません。
名前は まり。織田まりです。
誕生日は12月24日、母は死んだと伝えてください。
と書かれていた。

園長は言った。
毎日この時間に施設の周りを異常ないか見廻る事を知っていて、その直前に置いて行ったと思う、何故なら雪の降る寒い夜に置いて行ったにしては赤ちゃんを包んだ布は濡れていなかった。

子供を捨てたことは絶対に許せない事だけど、自分の子供を捨てるていう行為は普通の状態では考えられない、どんな事情かはわからないけどよほどの理由があったのだろうと言った。
あなたが殺されなくて良かった。と

死んだことにしてくれと言う女の願いを園長は無視した。ちゃんと事実を私に教えてくれた。
理解はしないでいいと言った。

捨てられたとわかっていたが幼い私は母親が恋しかった。
色々な境遇の子供がいる施設だったが生まれたその日に捨てられた子供は私1人。
子供は時に残酷だ。
ここにいる と言う事は自分も親に捨てられた同じような境遇なはずなのに、生まれてすぐに捨てられた私はこの中で誰よりも惨めだと言っていじめてきた。
私は愛想のない子供だったし、無口で話をしない子供だった。
いつも1人でいた。どうせ誰にもこの気持ちはわからない。

7歳になったある日、施設に新しい子が入ってきた。
その子は 川崎 源輝 (かわさき げんき)
源輝は私より2つ年上だった。
サッカーが上手く、面白くて優しい。いつもニコニコしていたからすぐに人気者になった。
源輝の父親は彼が5歳の時に病気でこの世を去っていた。
それからは母親と二人暮らし、兄弟はいない。
母親は愛する夫がいなくなってしまった事で悲しみから心身のバランスを失い、子供の事を考える事が出来なくなっていた。寂しさを埋める為だけに男と交際するようになった母。
源輝は母親に彼ができると家に放置された。

ただお金には困ってなかった。
父親が死を悟った時に友達の税理士に資産管理を任せていて、毎月定期的に口座にはお金が入金されていたから。
母親に放置されている間はお金を握りしめて一人で食べ物を買いに行く。
それを見た近所の人が役所に通報してここにくることになったらしい。
ずっと母親に裏切られる毎日。
それなのになんであんなに皆んなに優しくできるのか、笑っていられるのか私にはわからなかった。

源輝が園に来て1週間が経った頃だった。
皆んなが自分に話しかけるのに私だけ無視しているのが不思議だったのか、向こうから話しかけてきた。
返事をしなくても勝手にどんどん話してくる。

「なんでいつも怖い顔してるのかな。誰とも話をしないし寂しくないのか。俺友達になってやろうか。
ずっと無視するし、俺の何が気に入らないのかな。
わかった、恥ずかしいんだろ」
「はあ?」
私はつい答えてしまった。そこからは止まらない、その日は機嫌も悪かった。

「何でそんなに誰にでも愛想がいいのかこっちが聞きたい。いつもニコニコして気持ちわる。
皆んなに気に入られて嬉しい?
私の事はほっといて、私は誰のことも好きじゃない。あっちに行って」

源輝は今にも泣き出しそうな顔になった。悲しい顔をしている。

ちょっと言いすぎたかな、気持ち悪いは言い過ぎだった。
何も嫌なことされたわけじゃないのに。泣かないよね、

「ニコニコしてないとダメなんだ。泣いたら母さんが居なくなる。出て行ったら何日も帰ってこない。
一人で部屋に残されたら寂しくて悲しいんだ。
俺の顔、俺たちを置いて死んでしまった父さんに似てて。
だから、、、笑ってる」

ハッとした。

「ごめん、悪かった言いすぎたね」
素直に謝った途端、源輝はニヤリと笑った。

「悪かったと思ったのか、じゃあ罪滅ぼしだ、友達になろう。知ってるだろうけど俺は源輝、源ちゃんって呼んでくれ。お前の名前は」

良かった、泣いてない。
私は自分の名前を言うのが嫌だったけど、小さい声で答えた。
「まり、おだ まり」
「おだまり、おだまり、お前たちお黙り。いいなぁ」
笑ってる
「からかうな」
「ごめんごめん謝る。からかったわけじゃない、いい名前だと思う本当に。誰にも文句言われなさそうだし。
じゃあまり、俺たち友達になろう」

そう言って源は右手を差し出した。私はその手を素直に握り、生まれて初めて友達が出来たと実感した。

それからは何をするにも一緒だった。学校に行く時も遊びに行く時も、勉強をする時も本当の兄妹みたいに。
不思議な事に他の友達とも少しだけ話ができるようになった。
同じクラスに初めて友達も出来た。
名前は 月(つき)親の転勤で東京から来た転校生。
福岡の方言の意味がわからなかったらしく誰とも喋らないでいつも1人でいた。
思い切って話しかけてみたらとても親切で頭の良い子だとわかった。
色んな人にすぐ馴染めない同士仲良くなった。

源ね母親は新しい男ができても1年しかもたない。
次の男ができるまで大体1ヶ月。
その間だけ源は施設から居なくなる。
出たり入ったりその繰り返しで5年が過ぎた。

その間、楽しい時も悲しい時もいつもいる事ができた。
こんな時がずっと大人になるまで続けばいいと願った。
反面それは私の勝手な思いで、本当は源の幸せを考えるとここには居ない方が良いんだとわかっていた。


 源は14歳、私は12歳になった。
中学生になった源は身長が高くなり部活はサッカー部に入りレギュラーで活躍していた。
母親より随分と大きくなったのに、身勝手な母親に今でも言い返したりしない。
優しい性格のまま大きくなっていた。

私は6年生になり将来の夢とかを考えたりするようになっていた。
親はいない。現実問題自分の事は自分で何とかしていかやいといけない。

2学期も終わりに近づき町がお正月の準備をしだした頃、園の近くにある神社の階段で1人座っていると
「どした、悩み事か」
後ろから声がして源が隣に座ってきた。
期末試験中で部活は休みだから帰りが早かったらしい。

「今日学校で将来の夢を考える宿題がでたんだ。
自分の進路とか自由に選べる立場じゃないってわかっているから、夢っていわれてもピンとこないし。
源ちゃんは将来こともう決めてる?頭良いしなんでもやれそう」

「夢はある。まず頼れる大人になって母さんに男に頼って生きていくのをやめさせる。俺を頼れって。
そしてもう一つ、会社を経営してその利益で子供が安心して集まれる場所を作る。
子供は大人の影響を良い意味でも悪い意味でも受けやすいだろ、自分のせいじゃないのに悩んだり苦しんだり。実際俺たちがそうだし。
だからかな、、、本当の親じゃ無くてもいい、他人でも志をもった大人が集まって子供達を色んな形でサポートできないかなって思うようになった。
まだぼんやりとだからどんな形かは説明しにくいな、ごめん」

「私には本当の親が居ないからよくわからないけど。
園長先生の愛は私に伝わってる。
そうだよ 別に本当の親じゃなくても真剣に自分の事を思ってくれたら気持ちは伝わるよ。
すごいね源ちゃんの夢は。私も仲間になりたい。
決まり、私は将来源ちゃんと会社を経営して世の中の困っている子供達のサンタクロースになる」

源は笑ってる

「まり、お前IQ高い割には驚くほど単純だなー だけど心強い。わかった 2人で実現させよう、同じ夢を見る仲間になろう」

「うん、源ちゃんに置いていかれないように私がんばる」

幼い私は源と同じ夢を見ると約束した事が嬉しくてしょうがなかった。


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