マリアになれない僕  最終回

mosoyaro

 2時間くらいして結衣さんは戻ってきた。
結衣さんから話をしてくるまで僕は自分から聞かないことにきめていたので、どんな話をしたのか、その日は聞くことが出来なかった。

次の日もまた次の日も。

一週間位した時結衣さんが話をしてきた。

創さん、どんな話をしたか聞かないんですね。お客様の時と同じで相手が話し出すまできかないんだ。

僕はうなずいて
話をしてもいい気持ちになりましたか?

結衣さんはゆっくりと話始めた。

4年前まで私達は付き合っていて、結婚の約束をしていました。はやく医者になって欲しかったし、医者になったらすぐに結婚するものだと思っていました。
たけど彼は違いました。子供の頃からの夢で国境なき医師団に志願したんです。 
危険な場所に彼が行く事も嫌だったし、離れて暮らす事も嫌だった。 
だから反対しました。
だけど彼は行く決心を固めました。
私の気持ちを無視して。

あの時の私は気持ちよく彼に行ってきてとは言えませんでした。
行くなら私と別れてほしいと伝えました。
彼は別れを選んで海外へ行ってしまいました。
私は、そんな状況の自分を受け入れるのに随分苦しみました。 

だけど今更もう一度チャンスをくれって言うんです。やり直したいって。またあの時みたいにつらい思いをするのは嫌。
嫌なはずなのに、心がざわざわするんです。
忘れたはずだったのに。

創さんはどう思いますか?
せっかく福岡でやり直ししようとしているのに。

ぼくは
結衣さんの心に正直に生きたら良いと思います。正直に生きるって誰でも出来る事のようですが、誰でも出来ません。 
嘘をつきながら生きている人も多いですよ。
死んだ涼がそうだったでしょ
涼の事を想えば、結衣さんに抱いていた気持ちをずっと押し込めていたわけです。
多分、あなたにはそんな思いをしてほしくないんじゃないかな
結衣さんの、心の中の本当に聞いてください。
どんな結果でも僕は応援します。
まだ、好きなんじゃないですか?だから苦しいのでは?

結衣さんは泣きながら僕の話を聞いていた。
結衣さんの涙は何回目だろう。
ぼんやりとそんな事を思ったりした。

結衣さんは財布だけ持って

少し出かけてきます

と、飛び出して行った。その日事務所には戻って来なかった。

次の日


結衣さんと彼が2人で事務所にやってきた。
2人でやり直す事になったと報告された。
急で悪いが事務所を辞める。と
彼の仕事のサポートに結衣さんも付いて行くと決めたらしい。
正式な夫婦となって。

僕は何故やり直そうと思ったのか聞かせてほしいと言った。

 彼は4年前、結衣さんと別れを決めた日の夜、涼が会いに来た時の事を話始めた。

話があると。
何故結衣さんを選ばないのか、置いていけるのか。別れて良いのか?
後悔するから行かない方が良いと思うと、必死に説得された事。
だけど、その時は自分の夢の方が大事で行かないと言えなかった。

殴られた。
帰り際に涼がこう言ったんだ、

結ばれるのに辞退するなんて贅沢だな

僕にはその時意味がよくわからなかった。

海外に行って忙しく働いていた時、結衣の事を思い出していたけど、きっと別の誰かと幸せになって自分の事など忘れていると思っていた。

3年が経った時、現地の伝染病にかかって高熱が続いて死にかけた時、夢の中に涼が現れた。
結衣さんが待っているから生きて日本に戻ってこいと言っていた。

熱も下がり、生きていられた時、結衣に会いたくて日本に戻ってきた。

結衣は仕事も変わっていたし引っ越しもしていて、携帯の番号も変わっていたから、連絡の取りようがなくて。

結衣の実家に行ったんだ。
そして、涼の事も聞いて驚いた。死ぬ前に僕に会いにきたのか。メッセージを残しに?

だけど結衣は何故福岡に?
お母さんも理由は教えてくれなかった。

創さん、君の事が好きになって福岡に着いて来たんだと思った。勝ち目は無いじゃないかと。
だけど、違う。2人が付き合っているのなら涼が夢で結衣が待っているとは言わない。と思って、確かめに来た。
涼は結衣の1番の理解者だったから。

シンポジウムの仕事を引き受けて福岡に行こうと決めて、とりあえずポスターを貼ってくれとたのんで、見つけてくれる事を祈った。
結衣がどこに居るかわからなかったから。

役所の担当と打ち合わせし、市役所のベンチに座っていたら、結衣が前から歩いてきた。
僕には気づかずポスターを見て急に走り出した。
後ろを追いかけてこの事務所の場所を見つけたんだ。
だけど、いざとなったら勇気が出なくて、シンポジウムに来てくれたらちゃんと話そうと決めていた。

結衣と話をしてようやく涼の言った言葉の意味がわかった。
涼は男として結衣を好きだった。ずっと隠していた事。
苦しくて辛かっただろう。
僕に贅沢だと言った時どんな想いだったか。

生きているといろんな事が起こるし、明日何があるかもわからない。幸せになれる保証もない。
海外では、さっきまで生きていた人が死ぬ事も日常茶飯時だ。何度も悲しい別れを見てきて自分が日本でどれだけ幸せだったか、思い出しては泣いたよ。
一緒にいてどんな事も乗り越えて行く事が大切なんだ。結衣ともう一度やり直したいと強く思った。と

僕は

お二人を祝福しますと答えた。
だけど危険な所には行かせたくありません。日本で幸せに暮らしてほしいです。
余計なお世話ですが。と答えた。

結衣さんは
この人とならどこでも幸せになれます。と答えた。

明日一日結衣さんを僕に貸してください。
最後に一度だけデートしします。それくらい良いですよね?
彼は黙ってどうぞと手を差し出した。

次の日

僕は車で結衣さんを迎えに行った。
今日の結衣さんはいつにも増して綺麗で可愛かった。
太宰府まで。
一緒に仕事をしたのは1年。考えてみたらどこにも一緒に出かけた事が無かった。
僕はアトリエで絵を描いていたし、お客様も多かったし、結衣さんは一人で平気で色んな所に行くのが好きだったから。
東京とくらべたら、コンパクトに色々固まっているから生活しやすいと言っていた。

博多のラーメンは美味しいとか、焼き鳥なのに豚バラがあるとか、キャベツが付いてくるとか、福岡女子は可愛い、負けてられないとか。
結衣さんの日常にもっと反応して、酔ったふりして
貴方の事が好きですと告白すれば状況は変わっていただろうか?
そんな事を考えながら太宰府に着いた。

太宰府天満宮は学問の神様がいる。で同時に縁切りの神様でもある。
一緒に並んでお参りをして、梅ヶ枝餅をたべながら歩く。参道から少し離れた店でランチをした。
本当に何気ない、他愛のないものをみてクスクス笑って、楽しい1日だった。
涼とデートした時もこんな風にだったのかなとふと思った。


今日は一日ありがとう。思い出になりました。創さんには感謝してもし尽くせないほど、沢山の愛情をもらったね。
いったいどんな縁なのかな?私達。不思議だね。
幸せになるから、創さんも幸せになって。


空港まで見送りに行った。
今までありがとう。幸せに。

結衣の事大事にして守ってくれてありがとう。幸せにします。

2人とハグして別れた。
飛行機が飛び立った。

空港の帰りに僕は博多埠頭に寄った。
マリンメッセの近くだ。
車を止めて海を見ていた。

涼がやってきた。
ずっと見てたんだろ
うん
行ってしまったな
行ったな。寂しいな。
俺たち同じ女に失恋だな
そうだな、俺とお前はまさにwin winだ
何がwin winだよ。お前にはまだ先の未来がある。まだまだこれからだ。
もっと有名になっていくから。
俺が手助けするから。
彼女も紹介してやるよ。

生きてる女がいい
そりゃそうだな

wwwwww

終わり


#福岡好き
#私小説
#画家

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