2013年11月 初めて彗星を撮った日
転職して8ヶ月。新しい職場にもだいぶ慣れた2013年11月のことでした。
「アイソン彗星がもうすぐ見えるらしいよ」
仕事の合間に職場の先輩が話しかけてきたのです。
「なんですか、それ?」と私。
夜な夜な天体望遠鏡を覗いては月のクレーターや木星の縞模様に心踊らせていた少年は、宇宙への夢破れて大人になり、日々の仕事に忙殺されていました。人類で初めて月面を歩いたニール・アームストロング船長のポスターを部屋に貼っては、いつかは自分も月へ行くのだと高校生の頃までは思っていたはずなのですが。しかし、その夢が叶わなかったことは、その夢が本気ではなかったことをただ証明しています。本気であればNASAの清掃員くらいにはなれたはずなのですが。
学生の頃、百武彗星を撮った天文部の友達が、その写真を見せてくれたのを覚えていました。冒頭の先輩の言葉を聞いて、急に彗星の写真が撮りたくなったのです。そんな気がしました。
早起きして、撮影を開始したのが早朝5:00。東の空に望遠レンズを向けます。ピントは無限遠。正確な方向もよくわからないままシャッターを切りました。
Nikon D300s + 80-400mm f4.5-5.6
(f5.6、露光時間2秒、ISO6400)
初めてのことで、一体どれが彗星なのか検討もつきません。そこに彗星が写っているのかもわかりません。
実はこの撮影の1週間前にその先輩と千葉の九十九里まで行き、撮影を試みていました。しかし、その日は肉眼でも見えず、写真にも写すことができず、がっかりして帰ったのを覚えています。ただ、どうしても諦めきれず、その翌週、ダメ元でリトライしようと決めたのでした。近場で。
使ったレンズは、Nikonの80-400mm f4.5-5.6。f11まで絞らないとシャープに写らない古いレンズでしたが、星撮影は明るさが命。描写を犠牲にしても絞り全開のf5.6で、画角を変え、方角を変え、何枚も撮りました。しかし、やはり彗星は見つかりません。今回もダメか・・・。日の出が近づき、気持ちも焦ります。
カメラの液晶で、撮った写真を拡大して確認していたとき、真ん中あたりに他の星とは明らかに雰囲気の違う星があるのに気づきました。青緑にもやっと光っています。これか??心の目で見れば、右上に流れる尾も見える気がします。
Nikon D300s + 80-400mm f4.5-5.6
(f5.6、露光時間5秒、ISO1600)
でも写真的には星が流れ過ぎている。そう思い露光時間を2秒に短縮。明るさを確保するため、代わりにISOを6400まで上げました。
Nikon D300s + 80-400mm f4.5-5.6
(f5.6、露光時間2秒、ISO6400)
なんとか止まっているように見えます。作品になるほどのクオリティではないですが、遠い遥か宇宙からやってきたアイソン彗星の存在を自分の目で確認できました。宇宙の旅人に出会えた喜び。カメラを持っていてよかった。ありがとうカメラ。
このアイソン彗星は太陽をグルっと回って戻ってくる頃には、日中の空にも輝く彗星になると期待されていました。しかし、この撮影から約10日後、太陽に近づき過ぎて崩壊し、二度とその姿を見せることはありませんでした。儚き彗星の最期。しかし夢を見せてくれたアイソン彗星に感謝です。
Nikon D300s + 80-400mm f4.5-5.6
(f8、露光時間5秒、ISO800)
撮影を終えてしばらくすると美しい朝焼けに出会えました。温かい缶コーヒーを飲みながら、余韻に浸っていると、もう一つの「すいせい」(水星)がキラリと空に輝いていました。
アイソン彗星の消滅にガッカリしたのも束の間。次はラブジョイ彗星という、なんともファンシーな名前の彗星が地球に近づいているといいます。ならば撮るしかない。アイソン彗星撮影から10日後、もう12月になっていました。また同じ場所でレンズを東の空に向けました。未明の空をさまようこと12分。それらしきものを捉えました。それからはカメラの設定を変えて撮り、変えては撮り、を繰り返しました。
Nikon D300s + 80-400mm f4.5-5.6
(f5.6、露光時間5秒、ISO6400)
良くは覚えていませんせんが、アイソン彗星より暗い彗星だったのだと思います。最終的には露光時間を長めに撮っています。写真を見てもわかるように、なんとかその存在を確認できたという程度。よりはっきり彗星の尾も捉えるなら、赤道儀を使って星を追尾し、何枚も撮った写真を重ね合わせて写真を作り上げるのが常套手段のようです。次に彗星を撮るときはトライしてみようかな、と思います。
とは思ったものの、そうそう明るい彗星はそんなに頻繁には来ないもの。でも毎年決まった時期に起こる天文イベントもあります。流星群です。次回は、毎年お正月休みに現れるしぶんぎ座流星群に初めて挑戦した話です。
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