見出し画像

2023年11月26日 箸棒2を経て

2024年1月3日追記
箸棒2の問題集が出ました。とても良いので買ってください。


2023年11月26日日曜日,キャンパスプラザ京都にて開催された大会「箸棒2」に参加をしてきたので,それについて色々なことを書きたいと思います.めちゃくちゃ長いし,若干論考も含んでいるので軽い気持ちで読んでくれると嬉しいです.
また,具体的な問題については全く触れず,問題については抽象的なことしか喋っていません.問題集も出ていないのもありますが,それ以外のインパクトが強すぎたこともあります.
知り合いの木下だけ呼び捨てにしてますがご容赦ください(特に木下本人様)

目次



はじめに

今大会のコンセプトは「箸に棒にもかかる」.前大会「箸棒」のコンセプトが「遊べるクイズ大会」(新・一心精進当該大会参照)だったのが変わった形になる.
主催の木下から聞いていたが,「箸棒」という大会は元々幼馴染でゲームをしていて,その仲間たちでクイズ大会を始めようとしたのが最初らしいので,より参加者の立場に立ったのが今回のコンセプトと言うべきかもしれない.
今回はこの大会について語っていきたいと思う.

使っている用語は以下のとおり.

「箸棒」:「箸棒」というクイズ大会シリーズ全般
(1):以前開催された箸棒(無印)のこと
(2):今回開催された「箸棒2」
※たまに強調したいときはそのまま載せます.

大会前「エントリー10分事件」

本大会を語る上で,外すことができないのは「エントリー10分事件」とも言える事件だろう.
箸棒2はエントリーが始まってから,およそ10分かからないうちに定員が埋まった.144人の大キャパシティの大会が,だ.これは伝聞だがこのキャパシティの大会がこれほどまでに短い時間で埋まるのは歴史的に見ても殆ど例がないらしい.Mosなりに分析した理由としては①早押しが100問以上出来る大会だった②答えそのものが難しいものはそれほど多くない③問題文がかなり口語に近くその題材に対する作問者の意図がわかりやすいためとっつきやすい,などが考えられる.

※余談1 「MUTIUS6号事件を忘れるな」
主催の木下がかつて会長を務め,現在も木下や筆者が所属するMutius(京大クイ研)の他メンバーは,最終的にはある程度のメンバーがキャンセルによる繰り上げで参加ができたものの,最初多くがエントリー漏れしていた(ここ数年の世代の人3人ぐらいしか定員枠にいなかった気がする).
 俺「なんかあったんですか?」
 A「スイカゲーム(2023年末期に流行してるゲーム)やってた.まさかあんな早く埋まる大会とは思わず……」
 B「温泉はいってた.まさかあんな早く埋まる大会とは思わず……」
 C「バイトしてた.まさかあんな早く埋まる大会とは思わず……」
などと供述していた.
皆「箸棒」という大会然り主催者4人の能力を舐め過ぎである()

とにもかくにもこんなに早くエントリーが埋まった大会はまずないのだ.これだけでこの『箸棒2』という大会の異常性というか,化け物っぷりがよくわかる.

ラウンド・ルール「全員が100問押せる大会」

そもそも.大会という文化が根づいているクイズの世界においても144人もの人数が参加できる大会は多くはない.理由は簡単,多すぎる人数を(時間的にも・人員的にも)処理しきれないからだ.だからこそ,abcにはじまる大量の人数が参加する大会においては,1st Stageとして「ペーパー解答ラウンド」を入れていわゆる足切りが行い,ここで落ちてしまった参加者は敗者復活ラウンドを除いて「ギャラリー」に回るということが一般的であった.(ただし,近年ではペーパーをして上位と下位に分け,下位は別部屋で同じ問題で早押しクイズができる,などの比較的新たな試みも増えてきており従来の方式は減っている印象がある)
「箸棒2」はこの人数とその処理という問題に対する一つの挑戦をした.ペーパーを廃止し,エントリーの時点でランダムな数字を選ばせてこの数字に基づいた振り分けをすることで予選における組み合わせを作っている.(参考 画像1「エントリー時の数字」

画像1「エントリー時の数字」


早押しが出来る予選は3回あり,それぞれ「35問」「35問」「45問」の限定問題数があった.つまり合計「115問」が押せることになる.先述の足切りの事情を踏まえても,この定員がこんなに押せる大会はあまりないだろう.

※余談2 「足切りに対処している例」
この「足切り」という問題に対処している特徴的な例にはMegalomania Tokyoがある.ここではhayaoshiと呼ばれる自作ソフト(!?)が使われている.hayaoshiは,従来は早押し機を1組ずつに用意しなければならなかったものを,1台のパソコン・人数分のゲームパッド・問い読みの録音データさえあれば行うことができるようにしたものである.このソフトとある方式を利用して何度も早押しクイズが出来る環境を実現している.(このソフトを流用している 「いろは」も同様)

問題

ここは,問題集がまだ発売されていない都合で,抽象的に説明することにとどめたい.
この大会はいわゆる「やわらかい問題」と言われるものが多い.やわらかい問題というのは人によって多少定義は違うが以下の通りである.

学問や歴史といった硬派な問題に対し,生活に密着した問題や誰でも知っている単語を答えとしたクイズのこと.ただし必ずしも簡単な問題というわけではなく,盲点を突かれたりひとひねりされていたりすることが多いため,ひらめきや連想によってやわらかい問題に正解できた参加者がいると,「そういうことか!」「なるほどね!」など場が一体となって盛り上がる.

(近藤 仁美, 日髙 大介 2023
『クイズ語辞典』 p.176)


すべての問題がそういう訳では無いし,このやわらかい問題という定義に完全に従っているのかは明確には言えない.ただ,全体的に「そういうことか!」となる問題が多いのは確かである.前回の(1)はその傾向が非常に強く,(2)はすこし学問的な要素が多くなった印象がある.しかしそれでも「そういうことか!」や「なるほどね!」といった声が止むことはなく,クイズ大会としても一つのエンタメとしても成立していた.この共存を成立させることはクイズ大会長年の課題であったと思われるが,箸棒はその課題の一つの答えなのではないかとも思わせるものだった.

主催の2人,スタッフの2人について

この大会は主催の2人と幼馴染である2人の合計4人を中心に運営されている.当日はスタッフを起用していたが前回は4人だけで回っていた気がするが,あまりに能力が高すぎる.
主催の木下によると幼馴染の彼らは「僕がやりたいことを1言ったら100で理解してくれる人ら」(意訳)らしい.木下という人間もまた色々な能力が飛び抜けた人間なのでこれが幼馴染というのは,「これが漫画だとしてもさすがに設定盛りすぎやろ」という気持ちになる.

※以下では,便宜上大部屋での主な担当を中心に見出しをつけたいと思う

司会

司会は中島さんという人物で,私自身は交流はないので「さん」と呼ばせていただく.今回の大会でも自分が大部屋のみだったのもあって後半に大部屋で司会を務めていたときしか見ていないが,彼もまた素晴らしい司会能力がある.「誰が正解したのか?」「その正解・不正解でどのようにスコアが変動するのか」「正解者に対する賞賛のコメント」などの司会をする際に必要な要素を確実に,はっきりと,簡潔に述べることが出来る.自分も数回経験したのでわかることだが,司会というものは案外難しく,これらのバランスを取れる人はそれほど多くない(正直僕は取れないです).その人の正解・不正解を最初にコメントする立場というものは緊張もするし,なにより臨機応変さが求められる.彼はそれが完璧だった.

問い読み

問い読みをしていた木下は筆者と比較的昔から交流がある人物だ.彼は愛知県の出身で,名古屋大学クイズ研究会に知り合いがいることもあってよく遊びに来ていた.筆者自身も学部3年(当時彼は1年)から同研究会に所属しており,彼がボケをしがちな一方で筆者がツッコミをしがちなことや,お喋り好きなことも講じて,会ったときはよく話していた.詳細はここでは語らないが,彼がクイズ世界から一時離れ,(1)でクイズ世界に帰ってきたときは本気で喜んだものである.
※ちなみに彼からのあだ名は「Mos山Mos太郎」で,会ったときは大体「Mos山Mos太郎じゃん」と言われていた.(彼はたまに「○山○太郎」という,しっかり意味分からないあだ名をつけることがある.年齢的には大学生においてはそれなりに離れているはずだが,私自身年齢差を気にしない人間であるし,ある意味でそれは彼の愛情表現なのでそう呼ばれるだけで私自身としてはとても嬉しい.あだ名のセンスは意味分かんないけど)

閑話休題. 大会というものにおける彼の話をしよう.彼を形容するとしたら「八面六臂」以外の言葉はないと思う.司会もうまい,問い読みも聞きやすい,正誤判定も適切に対応できるなど何でも出来るというほかない.「木下の関わる大会ならどうせ成功する」そんな思いがいつもある.これは木下というものを5年ばかり見てきた上での「予想」ではなく「確信」である.事実,今回の大会でも,スムーズに,そして適切に対応しながら司会をこなす,並大抵の人間には出来ることではない.

デザイン(&得点表示)・技術班について

デザイン班・技術班という見出しについて正直この見出しは間違っている.彼らは「班」ではないのだ.それぞれ1人ずつしかいない.かつ,彼らは(少なくとも(1)の時点で)クイズをこれまでにしてきたことがないという.これは本当に意味がわからない(優秀すぎるという意味で).公式サイトに名前が載っているわけではないし,筆者も会話のなかでしか名前を聞いたことがないのでリスペクトを持ちながらも名前は割愛させていただく.

まずはデザイン(&得点表示)についてだ.
この大会のデザインはいわゆる「和」をテイストとしている.使われるイラストが和をイメージしたオリジナルであるだけではなく,これらの動きが非常にテレビ番組のように動く.具体的には「障子」をデザインしており,この開閉が各ラウンドの「はじまり」や「おわり」を描くようになっている(本記事のトップ画像参照). 詳しい解説はさくな氏の「競技クイズとデザイン」という記事に(1)時の解説が載っているのでそちらに譲りたいが,ここで紹介されている前回のものよりも一段と進化したものとなっていて感動した.
※(1)のときの話なので今はわからないが画面全体の構成自体はOBSを使っているらしい.OBSは基本構成などの機能しかないので,切り替えの動画などは主にデザインの人が作っているようで,これまた能力が高すぎる.

また技術班も優秀である.技術班を担当しているらしい方は(1)では誘導を担当していたが,クイズ大会経験者が2人しかいないなかでちゃんと誘導を出来る時点でそれなりに優秀であることは予想できた.しかし,今回,彼は予想を更に超えてきていた.早稲田式早押し機にとりつけて「自動で○番のボタンが押されたのかパソコン上に表示する機械」を開発していたのだ.クイズの早押し機は一般的にマイコンを使っている(と思われる)電子工作系統の機械なので理論上はそういう事ができると思われる.しかし,忘れないでいただきたいのは彼はクイズをやったことがないのである.それは言い換えればクイズの早押し機を見る機会が一般的なクイズプレイヤーとは比べ物にならないほど少ないということを意味する.にもかかわらず今回のような機械を製作しており,木下の「僕がやりたいことを1言ったら100で理解してくれる人ら」という形容はまさに的を射ていると言える.

余談3 「僕らがいなくても回る大会」
技術班の方は,先述の機械製作の話をした際にこれからの完全自動化への展望とともに「僕らがいなくても回る意味わからん大会にできたらなと思います」と語っていた.正直このコメントはクイズ世界の未来をある意味で象徴していると思う.
昨今,クイズに関するインフラの発展は目覚ましい.従来よりも圧倒的な数での大量生産を可能にした早稲田式早押し機の台頭, Excelを経てPC初心者でも操作のしやすいものまでもが開発された得点表示, ギャラリーとしての参加者を楽しませるという思いから生まれたスタイリッシュな画面表示(および得点表示)など,着実に時代の流れを受けて変容している.もちろん,構造内に存在している諸要素すべての問題がないわけではないが,ここで言いたいのは,クイズが「クイズの専門家」としてのものから徐々に「一般人」としてのものに広がっている気がするということだ.これは,筆者自身が持つ「クイズと日常の「問い」の連続性」という考え(これについては機会があればどっかで論文とかで書きたい)や,短文基本クイズ大会abcの昨今の傾向である(と筆者が考える)「クイズ大会に出る基本」ではなく「その世界の人達にとっての(より原義に近い)基本」みたいなものとも関連付けて考えることが出来るかもしれない. 彼が言うように,クイズ大会をするのに「主催すらその場にいなくていい大会」が出来上がるほどの「一般化された」クイズ大会も一つの未来として面白そうである.

総括:感想

大切な友人である木下がやっている大会だからこそ毎回来ているが,現代クイズの一つの極地を毎度見ている気がしてならない.これをクイズというキーワードで繋がった4人ではなくゲームで繋がる幼馴染たちが作り上げていることは筆者自身も未だに信じられていない.
そして,この大会からは学ぶことが多い,それを言語化しようと考えていると.この記事の文字数も約6000字となってしまった.これほどまでに深いクイズ大会を作り上げてくれた4人には感謝しかない.
そして,決勝で戦った3人の勇姿を生で見ることができて本当に良かった.お三方,本当にありがとうございます.

最後に,この記事を書いたMosは,ボタンを押すときとかに「おもしろ!」とか言ったり,知り合いの得点に「よっしゃ!」などと言ってうるさかった人です.その際にご迷惑をおかけしていたら大変申し訳ありません.
また,この記事は酩酊したMosが書いた記事です.乱雑になってしまっていたら大変申し訳ありません.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?