劇光仮面を読んだ
山口貴由の作品はどれも名作揃いで、これまで『覚悟のススメ』『シグルイ』『エクゾスカル零』『衛府の七忍』を読んだがどれもこれまで読んできた漫画の中でトップクラスの面白さであった。
面白さの原因は多々あるものの、その一因として山口氏自身が積み重ねてきた経験や努力・自己観察が大きく比重を占めているように感じる。
つまり、その時代限りの流行やパロディに走らずに常に眼前の問題に立ち向かう葛藤とかそれ自体の尊さを描いているから、それなりに昔の作品でも熱中できるほど面白いしキャラクターの内面が解像度豊かになっているのである。
劇光仮面は特撮美術(特撮に登場する衣装やジオラマ)研究部に大学時代所属していた5人がある事件をもとに再会するところから物語が始まるのだが、原作ありきのシグルイは例外だが、それ以外の作品は思えば極めて特撮チックであった。主人公らは戦闘時には強化外骨格を瞬着したりするし必殺技は派手なパンチだったりするし、過去の別作品のキャラクターが俳優よろしく全く別のキャラクターとして登場したりするのだ。
私は正直特撮と言えば牙狼無印を数話と仮面ライダーのいくつかのシリーズしか見たことが無い程度で明るくないのだが、山口の描写からは特撮に対する情熱と造詣の深さが垣間見え、特撮をよく̪研究してきたであろうことが漫画という媒体での表現に生かされているようであった。
そういった特撮的な表現や特撮自体の造形(文字通り)にモロに切り込んだ作品が今回の劇光仮面であり「特撮の漫画」として演出や盛り込まれた専門知識が深いリアリティと魅力を実現していた。
登場する架空の作品群についても、おそらくかなり深く設定を作っていて、第一巻で登場する劇光服(衣装)のミカドヴェヒターも原作のストーリーの概要やその見た目だけで、架空であるはずの原作の雰囲気をリアルに想像できるし、暗い通路からヌッと現れて自らを改造手術した旧帝国軍人らを無言で切り殺す半ばホラー染みた画すら脳裏に浮かんで、ただの現実でファンタジーの存在しない世界観でありながら底見えぬ物語の深さを感じさせるのだ。
ネタバレになるため言及はできないものの、中盤で登場する「伏龍」なんかもめちゃくちゃ渋くてかっこいい。あの造形から、演出と設定だけであそこまでかっこよく見せるのは一重に山口先生の技量の高さを感じさせる。
今後、特撮美術研究部(通称:特美研)を解散に至らしめた事件が紐解かれていくとともに、新たな劇光服(護身用に使用できる威力を秘めた特撮コスチューム)、作品、そしてたぶん散様や動地憐っぽいキャラクターが出てくるだろう。
楽しみだぜ。そのうちエクゾスカル霹の劇光服が出てきて大帝磔(レオクロス)とかやったりするのかな。胸熱。