モバゲーから始まった。
中学生の頃、モバゲーが流行っていた。アバターという仮の姿をアイコンにして、いろんな人と繋がることができた。SNSの先駆けだったと思う。アバターはアニメのような姿で着せ替え人形感覚で、ゴスロリやナース、ドラゴンボールの悟空などに見た目を変えることができた。無料でたくさんのゲームができたようだが、僕はやり方を知らなずじまいだ。
同級生のほとんどが、モバゲーをやっていた。
通りすがり、
公園の階段に座っていたやさぐれた女子が言った。
「やまだー、モバゲーやってないのー?」
僕はモバゲーという単語をそのとき初めて聞いたんだ。
「なにそれ?」と伝えると、マジか!?という顔をされた。
ちなみに、似た経験を以前にもしていた。
「やまだー、プロフやってないのー?」
僕はモバゲーを始めたが、どハマりすることはなかった。好きな子のブログや写真を見るくらいの用途でしかなかった。
足跡機能があるのを知らなくて、ある日の給食の時間「なんで見てるの?」と聞かれて、何にも言い返せなくて下を向いた。
僕は毎日野球ばかりしていて、そもそもモバゲーをやる余裕なんてなかった。
ツイッター、インスタグラム、フェイスブックにもハマることはなかった。SNSで自分をさらけ出すのに強烈な抵抗感があって、手が震え、汗が噴き出すといった症状が出てしまうようになっていた。
付き合ってる子のアカウントすら見ることもなくなっていた。たいしたことは書いていないというのを経験でわかっていたからだ。その文章を読む時間があるなら読書に時間を費やした方が良かった。なにを食べたとか、なにをして遊んだとか、どんな男と付き合ってるかとか、しょうもない愚痴とか。そんな情報を僕の脳内ストレージに保存したくなかった。
葛藤の無駄遣いをしたくなかった。物語を作るのに葛藤が大切で、葛藤は物語を生み出すエネルギーなのである。その貴重な資源をツイッターなどに浪費してはいけない。
だから、どんなに喋りたいという欲求が湧きあがっても、家族であろうが、親友であろうが、誰にも悩みを打ち明けなかった。
暗い話はせず、くだらないおふざけ話しかしないので、周囲からは楽しい奴だと認識されることが結構あった。
情報がなにも入ってこないので、流行りなんてものは受刑者さながらに知らなかった。
音楽や流行のドラマとかが話題にあがると、僕はきょとんとした顔をする。
年上からは「今の子は知らないよねー」と言われ、
年下からは「こんなのも知らないのー遅れてるー」と言われ、
同級生からは「大衆になびかないオレかっこいい! とか思ってるのーww」と言われた。
情報はあえて入れないようにしていた。他人のなんでもない言葉を自分の価値観に溶け込ませたくなかった。尊敬できる作家、芸術家、映画監督、芸人だけの言葉のみインプットし研ぎ澄まされた状態にしておきたかった。
この頃は色んな情報を入れてしまい、心の置き所がわからなくなっている。
とりあえず、様々な「大丈夫だよー」という旨の言葉を自分に言い聞かせておく。