beautiful friend
お別れ会
『2人とも、今までありがとう!』
今日、僕は高卒で入った会社を辞めた。大好きな仕事は居酒屋の店長だったけど、こんな景気だし勉強したい!ってオーナーに伝えたら、引き止められずに退職出来た。
2つ後輩で、2店舗目の店長候補って言われてたミサトも来月には退職するらしい。3人で呑めるのはコレが最後だろう、って事で同期でキッチン主任のトモキがこの場を用意してくれた。
最後に僕は自分の夢を語った。自分勝手に大好きな2人を巻き込んだ壮大な夢。
トモキは笑わずに聞いてくれた。自分でも無理なんじゃないかと不安になるようなデカい夢をトモキはキラキラした目で応援してくれた。
ミサトは泣きながら頷くのが精一杯だったようだ。多分…自惚れかもしれないけど、ミサトは僕に好意があったと思う。
帰り道
ミサトをタクシーに乗せて、僕とトモキは歩いて帰る。いつもの事だけど、今日で最後かと思うと悲しさもある。
「ツヨシさぁ、ミサト辞めるって聞いた時ちょっと怒ったろ?」
トモキの言葉にドキッとした。この不況で会社もヤバそうだったし、不器用なミサトに席を譲ろうって想いもあって退職を決意したから…
『怒ってはいないけどさ…勿体なくね?』
「まぁ…何か変わりたかったんじゃないか?」
心では分かってるつもりだし、トモキの言葉は納得だった。でも何故だろう、酔っていたからだろうか。つい、本音が出てしまった。
『あの性格だからさー、店長として経験積むのに今の店の方がいいんじゃない?譲るって訳じゃないけど。』
トモキは立ち止まって、明らかに怒った表情でこちらを睨みつけた。
「ツヨシよぉ…お前、自分が挑戦したい気持ちに保険かけてないよな?譲るって考え方はダサいぞ?お前に認めてほしい気持ちもあって、あの子なりに成長しようとして、挑戦するんだからな?」
心臓がバクバクいってる…変に言い返すと喧嘩になるのが分かっている。ダメだ…止めないと…。
『そうじゃない、お前何も分かってないな?話聞いてたかよ?ミサトの為に辞めるんじゃない、自分の夢の為なんだ!』
旅立ちの前に
それから数日後、引越し準備も終わった部屋の隅で、僕は長文のLINEを2件打った。謝罪と感謝を織り交ぜて。
恥ずかしいから酒でも呑んでないと送れないと思ったけど、またトラブったら困るのでシラフで打った。
【トモキ、こないだはごめん。お前にはマジで世話になったよ。
………
いつか自信作持って、この街に帰ってくるから…待ってろよ!】
【こないだはありがとう、ミサトも新しいスタート近づいてるね!
………
新しい職場は大変だろうけど、頑張って!】
全て送った後に、この部屋で呑む最後のビールを開ける。
トモキからの返信は早かった。
【あんまりすぐ帰ってくんなよ?お前が帰ってくるまでに、一流の料理人になってやるから…頑張ろうぜ、待ってる!】
ケンカ別れしたのに、最後に優しいLINEくれるなんてマジで良いやつだ。
ビールが残りわずかになった頃、ミサトからも返信が来た。
【期待してくれてた事、知ってました。でも私はツヨシさんのようなリーダーになれる自信が今は有りません。
ちょっと遠回りになるのは分かってますが、今は別のお店で経験積んで成長して…
ツヨシさんとトモキさんと並んでも恥ずかしくない人間になれるように頑張ります!】
俺も頑張らなきゃ…2人のLINEで素直にそう思えた。息をフッと吐くつもりが、涙が溢れた。
2人に同じLINEを送る。
【いつかこの街に帰ってくる時、連絡する。甘えたくないから、それまでワガママだけど連絡しないで!(笑)
自分が納得するまで良いモノ作る…2人を唸らせるから…
勝手だけど待っててくれ!】
5年後
広めのおでこに手を当てて、オーナーの工場長が寂しそうに言う。
「3月で…行くのか?」
『はい。自信作も出来たし、これを引っ提げてあの街に戻ります。本当にお世話になりました…。』
僕は5年間、小さな町で修行した。分からない事だらけで負けそうになりながら、寝る間も惜しんで勉強した。いろんな街まで出掛けて、いろんな工房と製法を勉強させてもらいながら、試行錯誤を繰り返した。
工場長にもお墨付きを貰えるようになるまで3年、自分が納得するモノが完成するのに更に2年。
5年間、この雄大な大地でビールを作った。自分だけのクラフトビール。
あの街で居酒屋を始めよう。あの日、2人の前で話した夢がようやく叶う…
『僕が作ったビールを提供する店を出すんだ…その時はトモキが料理長、ミサトがホール、僕が酒作って…』
本当は無理かもしれないと怖かった。勝手に自分の夢に巻き込んだら迷惑じゃないか?とも。でも、2人とも頷いてくれた。それが本当に嬉しかった。
LINEを送ろう。すぐに2人は動けるのかな?責任ある立場なら、すぐに今の職場は辞めれないかもしれない。まぁそれも気長に待とう。僕のワガママで5年も待たせたんだから。
「ツヨシ、完成品の名前決めてるんだろ?」
僕の自信作のビールはまだ名前を発表してなかったし、工場長にも伝えていなかった。
窓の外には桜が咲き始めていた。晴れやかな気分だ。
『自分が信頼出来る、大好きな2人の名前から1文字ずつ貰って付けました。ありきたりな名前だろうけど誰でも知ってる英単語だし、自分としては気に入ってるんです!』
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