2023.6.4 新日本プロレス DOMINION 6.4 in OSAKA-JO HALL 試合雑感
お久しぶりです。もるがなです。BOSJのレビューは時間が足りず書けないままで、今回のドミニオンのレビューも怪しかったのですが、なんとか時間を作って頑張りました。と、いうかレビューを書くと決めたら、影響を受けないよう書くまで人のレビューが読めないのがかなり辛く、そして孤独なんですよね(笑)ようやく答え合わせができそうですし、自分の褒めたポイントを人が貶してたらどうしようと毎回びくびくしています(笑)まあそうはいっても自分の感想は自分の感想なので、人は関係ないっちゃ関係ないんですけどね。前置きはここまでにして、さっそくレビューに移りたいと思います。
◼️ 第1試合 時間無制限1本勝負
IWGP USヘビー級王座ナンバーワン・コンテンダートーナメント決勝戦
ウィル・オスプレイ vs ランス・アーチャー
第一試合にこういう鉄板カードを置くのは素晴らしいですね。この二人は名勝負製造機でありながら互いのファイトスタイル的に手が合うという奇跡のような組み合わせであり、アーチャーのパワーと躍動感がオスプレイの受けっぷりによる乗算で一気にハネるのが魅力的です。
ケニーへのリベンジという文脈を考えるとオスプレイにとって負けられない一戦ではあったのですが、アーチャーの魅力が存分に出た一戦でもあり、超高高度のチョークスラムも含めて見たい技が全部見れたのがポイント高く、一つの作品としてのgood workぶりのほうに目が奪われてしまいました。アーチャーは本当に素晴らしいですよ。オスプレイの最後のヒドゥンの乱れ打ちも体格差を補うだけの説得力がありましたし、第一試合らしいドライブ感がありましたね。
ケニーへのリベンジロードは禁断の扉でようやくひと段落しそうです。オスプレイ、インタビューでも語っていた通り衰えによる身体の限界が見え始め、ボロボロで哀愁すら漂いつつあるのですが、皮肉なことにそれが逆にオスプレイの魅力に拍車をかけた感もあります。才能を欲しいままにする天才の若造に過ぎなかった男が、自身の誇りと存在証明をかけてかつて天才だった男に勝負を挑む……これほど燃える展開はありませんよ。ケニーとオスプレイ。互いが互いに天才で時代の寵児であるからこそ求められるハードルはべらぼうに高く、二戦目となるとさらにエスカレートしそうではありますが、それらを超えた果てに二人の真価があると思います。ケニーvsオスプレイ2、楽しみですね。
◼️ 第4試合 15分1本勝負
NJPW WORLD認定TV選手権試合
ザック・セイバーJr. vs ジェフ・コブ
前回決着がつかなかった二人のリマッチなのですが、この二人の戦いは何回見ても飽きないですよね。スープレックスvsサブミッションというわかりやすい構図であり、パワーで振り解きつつ千切っては投げを繰り返すコブと、なんとかサブミッションによる切り崩しを図るザックの攻防、それ自体がチェーンレスリングになってるのがいいんですよ。
特に中盤に見せた攻防が言葉を失うぐらい素晴らしくて、ザックのコブラツイスト→コブの払い腰→ザックの裏膝十字→コブのジャーマン→ザックのフロントネックロック→そこからの三角絞めから腕ひしぎへの派生という一連の流れはまさにこの二人ならではですね。最後のツアーオブジアイランドを横十字固めで切り返しての技アリのフォール勝ちも説得力抜群で、ツアーオブジアイランドの遠心力を押さえ込みに逆利用するというアイディアは理に適っているなと。こういう合理的な勝ち方って本当に大事なんだなと思いました。今大会のベストバウトの一つですね。
◼️️ 第5試合 60分1本勝負
IWGPタッグ&STRONG無差別級タッグ 王座決定戦3WAYマッチ
後藤&YOSHI-HASHI vs O-カーン&ヘナーレ vs EVIL&裕二郎
3wayでのタッグマッチって色々と批判は根強いのですが、今回はタッチを排してのトルネードルールにしたおかげで非常に見やすく、また破天荒で目まぐるしいものとなりました。タッグでありながら大乱闘であり、試合が止まるシーンはほとんどなかったですね。
やはりこうした荒れ模様の試合形式だとHOTは強く、乱入を交えての実質4人での戦いがすんなり溶け込んでいたのが面白いですよね。理由としては単純で、構図としては2vs2vs2なのですが、HOT側からするとこれが4vs4になることで、通常のタッグ戦の時より悪の策略にハマって焦れる展開が少なくなり、妨害もハイスピード化したのが大きなポイントだと思います。嫌われることも多いのですが、マッチアップにおけるHOTの応用性は非常に高く、この試合でもアクセントとしてのHOTの働きは本当に見事でしたよ。HOTって基本的には「群体」であり、リングに上がっているのはその端末に過ぎないわけですが、Jr.やヘビー、シングル、タッグ関係なく、全ての試合をHOTの試合としてパッケージングできるのが大きいんですよね。
HOTに掻き回される展開が続きましたが、最後は毘沙門がデンジャラスニーブラからの消灯で勝利。IWGPタッグ99代目戴冠は凄いですし、こうなると記念すべき100代目の戴冠が誰になるかが気になります。それは返上→決定戦でもない限り毘沙門の負けを意味しますし、記録をリセットしたIWGP世界ヘビーの失われたレガシーに思いを馳せてしまうわけですが、ひょっとすると100代目を記念にこちらも世界ヘビー級タッグ王座になるのか?とちょっと構えてしまいますね。はてさてどうなることやら。それにしても毘沙門のタッグとしての完成度は非常に高く、タッグ戦線においては完全に主人公の立ち位置となりましたね。新世代も含めると魅力的なタッグは多いのでこのまま盛り上がっていって欲しいです。
○〜G1 CLIMAX 33 出場選手発表〜○
清宮海斗、G1参戦決定!!!
いやあ……画面の前で思わず声を上げてしまいましたよ。他団体所属の日本人選手としては2016年の丸藤正道と中嶋勝彦以来となるNOAHからの刺客。過去を振り返れば秋山準に杉浦貴も参戦していた歴史があり、外敵としてのNOAHの歴史もG1には編み込まれているんですよね。
正直な話、清宮にはG1に出て欲しい気持ちはあり、仮に参加するとしたら新日相手に名を売った清宮と拳王かなと考えていたのですが、BOSJにNOAHからの参戦がなかったというのもあって実現は望み薄かなと思っていたんですよね。N-1もありますし。そんな中での参戦発表。これは外に目を向けた新日はグッジョブですし、参戦を快諾したNOAHには感謝しかありません。
何が嬉しいかって「対抗戦が無駄じゃなかったこと」「流れとして一本の線に繋がったこと」なんですよね。涙の敗戦から一年後のお礼参りの顔面襲撃。そして再び制裁からの完敗と自団体での王座陥落。心機一転し、武者修行を兼ねてアウェーの敵陣に一人で殴り込み。清宮の対新日は非常に物語の動線が美しく、主人公感ありますよね。
恐らくなのですが、外敵としての参戦なのでブーイングは出るでしょうし、何より清宮にノレない人はわりと多いと思います。それはノアアンチだからとかNJPWユニバースだからとか、そういうイデオロギーの話だけではなく、単純にこの用意されてる感が受け付けない人もそれなりにいるとは思うんですよね。個人的には自己発信は新日の選手に軍配が上がりますが、運命という大きなうねりの渦中にいるとは清宮海斗のほうなのかなと。ファンも含めて誰も彼も無視できないんですよ。彼が普通でいられる場所なんて世界のどこにもないんですから。
清宮参戦となると見たい組み合わせは本当に沢山ありますね。ザック・セイバーJr.やKENTAといった元ノア勢との遭遇は見たいですし試合内容も気になります。特にザック相手の場合は勝った場合にTV王座挑戦というオマケが付いてくるわけで、新日の金で清宮の試合を無料放送するのってめちゃくちゃ面白いと思いませんか?(笑)知名度を上げるには一番で、下手すると世界ヘビーより得るものは大きいかもしれません(笑)
それ以外だと現王者SANADAとのマッチアップも捨て難く、武藤敬司最後の弟子相手に不肖の弟子であるSANADAがゴリゴリにジェラシーを燃やす姿が見たいんですよ(笑)ドラゴンボールに喩えるならば、武藤を悟空と置き換えるとして、清宮はウーブでSANADAは悟天なんですよね。悟飯じゃなく悟天というのがミソで、系譜ではないけどポテンシャルと才能があるのはウーブであり、血統ではあるし才能もあるはずだけど悟空にも悟飯にもなれなかった男が悟天なわけで。シャイニング対決は見たいですよ。
ただ、現実的にはグレート-O-カーンや成田蓮、ヒクレオあたりと同ブロックになりそうな気はしますね。これは結構手堅い予想だと思いますがどうでしょう?オーカーンが清宮相手にガチガチのグラウンド勝負を仕掛けるのは見たいですし、新世代で海野や辻は時期尚早として、最初にぶつかるのは成田な気がするんですよ。なんでこの二人かってストロングスタイルの残り香がちゃんとあるからですよ。対抗戦というのはやはり価値観と価値観のぶつかり合いだとも思うので。ヒクレオに関してはG1に参戦した外敵ポジの選手ってこういうタイプの相手に星を落としがちだよなと思っただけです。清宮が苦手とする巨漢に加え、ジェイにKENTAに清宮まで撃破となったらヒクレオの格も凄いことになりそうだなと。
価値観の異なる相手との戦いという意味ではEVILもいいかもしれませんね。今年EVIL優勝とするなら決勝戦の相手は清宮でもいいんじゃないかと。超ベビーvs大ヒールの戦いでありながら、生え抜きvs外敵という「ねじれ」もありますし、何よりHOTの反則三昧の悪の方程式って、ノアだとあまり見かけないタイプの試合ですからね。ストロングスタイルをぶつけるのも悪くないかなと当初は思っていたのですが、藤田を擁立し90年代〜ゼロ年代あたりの新日の価値観を踏襲するノア相手だと価値観の対立とまではいかないわけで、それなら堂々と今のNJPWらしい価値観の試合のほうがいいのではないかと。ニュージャパンプロレスリングエンターテインメントを味わえ!って感じで。や、それにしてもこのカード。僕は面白いと思いますが、ノアファンからの反発は強そうですしみんなの情緒が大変なことになりそうですね。書いておいてなんですが、これで清宮が準優勝に終わったら僕は寝込むかもしれません(笑)
ああ!興奮し過ぎて長くなってしまいました……。申し訳ないです。清宮G1参戦は妄想が捗りますし誰と当たるか考えるだけで面白いので書くと止まらなくなっちゃいます。話半分の与太話として聞いておいてください。試合のレビューに戻ります!
◼️ 第6試合 60分1本勝負
NEVER無差別級選手権試合
デビッド・フィンレー vs エル・ファンタズモ
ベビー仕様のファンタズモ、入場曲がカッコ良すぎてびっくりしました。今のフィンレーにぶつけるにはちょうどよく、また格としても申し分ないです。バレクラメンバーを連れて入場してきたフィンレー相手だと四面楚歌ではありますが、輝きで劣らなかったのはさすがですね。
HOTとの差別化もあってか、バレクラメンバーの介入は最小限で、基本的にはフィンレーの暴れ回りっぷりが目玉になりますかね。フィンレーは荒々しく、そのファイトスタイルをジェイとはまた違った残虐性を持って試合に落とし込めているのは面白いです。この試合もテーブルを使うことでより凄惨に振る舞っていましたし、フィンレーの試合は今のところ完勝という感じがあってバレクラのリーダーらしい格がしっかり保たれているのもいいですね。あとはG1でどこまで飛躍するかです。
◼️ 第7試合 60分1本勝負
IWGPジュニアヘビー級選手権試合
高橋ヒロム vs マスター・ワト
BOSJは時間の都合もあり、Twitter中心でnoteでのレビューができなかったのですが、それを若干後悔するぐらい今年のワトはよかったですね。飛躍のきっかけはやはり通天閣ジャーマンであり、RPPからレシエンテメンテ→通天閣ジャーマンへとフィニッシャーを変えたのは英断だと思います。基本的にはレシエンテメンテと通天閣ジャーマン。そして奥の手としてのレシエンテメンテⅡがあり、どの技も体幹を活かした技で当人のスタイルに合っているのがいいですね。
通天閣ジャーマンは見所の多い技で、背筋力を活かして一気に跳ね上げたあと、驚異的な体幹の強さで相手の体をコントロールしつつ落とすのが面白く、初代タイガーのジャーマンへのリスペクトに溢れてますね。あとはジャーマンを見るときは常に足元を見る癖が僕にはあるのですが、ワトのジャーマンはベタ足→頂点で爪先立ち→固める時は再びベタ足のパターンですね。最初に投げるときから爪先立ちのハイブリッジパターンと、投げるときはベタ足で、頂点や固める時のみ爪先立ちのパターンがあるのですが、ジャーマンはこうした部分にも使い手の個性わこだわりが見えるのがいいんですよ。お願いですからワールドの中継はスープレックス系の技の時はちゃんと足先まで映してくれませんかね……。
この試合でも通天閣ジャーマンは攻防のポイントになっており、技のグレードが上がったせいかジャーマンを堪える姿だけで「映える」ようになったのは素晴らしかったですね。そしてまた受け切るヒロムが絡繰仕掛けの人形のようというか、ヒロムの元気さは受け攻めの両面において機能してるのは何気に凄いことなのですよ。
しかしながらワトも最後は力及ばず、TIME BOMBからのヒロムちゃんボンバー。そしてTIME BOMB2でヒロムの勝利。意外と勝負の分かれ目はヒロムちやんボンバーだと思っていて、ワトに同クラスの打撃技は旋風脚ぐらいで、もう少し打撃を強化して欲しくありますね。
ワトは残念ではありましたがBOSJ優勝の実績はデカいですし、ベルトを取るのも時間の問題でしょう。ヒロムは恐らくヒートの持つ最多連続防衛記録抜きが視野に入っており、Jr.の記録の塗り替えが当面の目標ですかね。それさえ達成できれば、あとはドームメインでのJr.の試合とIWGPヘビー戴冠ぐらいで、ヒロムの野望もより実現困難かつハードルの高いものになりますね。果たしてJr.の価値観を変えることができるのか。気になりますねを
◼️ 第8試合 60分1本勝負
NEVER無差別級6人タッグ選手権試合
オカダ&棚橋&石井 vs 海野&モクスリー&カスタニョーリ
海野のパートナーはまさかのモクスリー &カスタニョーリ。WWEユニバースからするとアンブローズ&セザーロなわけで豪華さに目眩がしてきますよね。一見すると二人の格が高すぎて海野が見劣りしそうな感もありますが、キャリアの若い海野がこの二人を率いるという構図がまず面白く、海野は何よりも因縁作りというか物語の動線を引くのが非常に巧みというか、ストーリーテラーとしての才能がピカイチなんですよね。敢えていうなら「物語性」。それが海野の一番の魅力です。それがあるからこそ格負けしてるように感じず、カリスマ性すら感じるのが凄いですよね。特に海野のSNSによる対戦相手の深掘りは罵倒一辺倒に偏りがちな中でかなり耳目を集めるものであり、ベビーフェイスレスラーのSNS方法論としてはかなり新しいような気もします。今回のモクスリー&カスタニョーリの起用も上手く転がした感じがあり、その二人の参戦自体がオカダがネバ6挑戦時の語ったX&XXへの痛烈な皮肉とカウンターになってる感じがあります。
とはいえ、個人的な海野の現段階の評価としては、その才能や言霊力は認めるものの現時点ではパフォーマーの域を出ておらず、試合で唸らされたことはまだ無いんですよね。そう考えるとキャラクター先行のガワだけのレスラーのようにも感じますが、そうしたキャラクター性は天性によるものが大きいので、今はそこだけでも十二分に備わってることに安堵する気持ちのほうが大きいのと、試合は数をこなせばよくなっていくのもあって、今はまだ問題だとは思っておりません。それに今も格別悪いわけではないですからね。シーンの一つ一つは印象に残りやすく、特にオカダとのマッチアップでの机を使ったラフファイトぶりは師匠譲りの迫力がありましたし、制裁を恐れない突貫ファイトも若手らしくていいと思います。足りないのは名刺代わりの名勝負だけで、G1での活躍に期待したいですね。
対するオカダはというと、やはり心はモクスリー&カスタニョーリという世界標準の相手に送る秋波は隠し切れない印象で、そうした心の隙を海野に突かれて苛立つという感じは良かったですし、作戦としてみてもリアルでしたね。昔のオカダはどうにも相手の技を受けすぎな部分が目立つというか、それが「潰し」を尊ぶ旧来の新日的な価値観と相性が悪く、受け切る姿勢がある種の弱々しさに映り変に評価を下げた部分もあるのですが、猪木を纏うようになり、清宮と戦ったあたりを境に力を見せて叩き潰すことの大切さに気づいたような気がします。そうした攻めの姿勢=つまりは闘魂と、恐らくは棚橋からの影響が強く、そこから受け継いだであろう受けの美学がいい具合にブレンドされていて、海野に手を焼きつつも最後はきっちり仕留めるという風に押し引きがしっかりしていた辺りはやはり上手いなと思いました。
その反面、対海野に関しては対成田と同様に「あしらった」感が強く、そう考えると対清宮ほどには心理的に追い込まれておらず、余裕があるようにも見えましたね。唯一崩れかかったのはカスタニョーリのジャイアントスイングを受けたシーンで、コミカルでありながら技の性質上、三半規管に多大なダメージを受けるのもあってかなりキツそうではありました。ただ豪華メンバーを引き連れたわりにはオカダ危うし!の場面はなかったですね。
モクスリー&カスタニョーリともに暴れっぷりはなかなかのもので、特にカスタニョーリはやはりパワーがイカれてますね。レッスルマニアでビッグショーを抱え上げて場外に放り出したボディスラムも凄まじかったのですが、あのナチュラルなパワーは本当にヤバいですよ。この試合でも随所でそれが発揮されていましたが、あれでもまだ「触り」程度なんですよね。個人的にはジャイアンスイングが見れたのは嬉しい反面、ポップアップ式のカチ上げエルボーが見れなかったのは少し残念でした。
二人の暴れっぷりは試合後も留まるところを知らず、勝ち名乗りを受けるオカダに対して挑発。ここでスクリーンに流れた映像は……まさかのダニエル・ブライアン!!いやあ……前から噂はありましたが、いよいよ実現ですよ!オカダvsブライアン!現代プロレスの中で最高峰の一つと言っても過言ではないぐらいのメガカードであり、まさに禁断の扉に相応しい対決です。楽しみですね。
◼️ 第9試合 60分1本勝負
IWGP世界ヘビー級選手権試合
SANADA vs 辻陽太
辻の凱旋帰国のインパクトは凄まじく、ほぼゴールドバーグのエピゴーネンでありながらも未知の期待感がありましたね。その期待感を維持したまま前哨戦一切無しでの王座戦という特別待遇だったのもあり、辻戴冠の機運はべらぼうに高かったように感じます。
目元を隠して不敵な笑みを携えての入場はそれだけに「絵」になりますね。木枯し紋次郎から次元大介へと繋がるモチーフの系譜に辻陽太も入るんじゃないかと錯覚してしまうというか、わかりやすくニヒルなのがいいんですよ。それでいながらジーンブラストという通り名やPVに映る恐竜の荒々しいイメージも同居しており、キャラクター全体のイメージがまだつかみどころがない感じがあるのが期待感を煽ってる要因の一つかもしれません。まだ誰も本当の辻陽太を知らないんですよね。
試合はその怪物的なポテンシャルを存分に開花させた試合運びでしたね。開始早々にリープフロッグを撃墜したスピアーに、観客の度肝を抜いたブエロ・デ・アギラ。受け切ったSANADAも凄いのですが、コーナートップからのスパニッシュフライ。そして終盤のカーブストンプなど、何が出るかわからないビックリ箱状態かつ、凱旋で見せたスピアー以外はイメージにない技というのもあって観客を虜にした気もします。あと体格はSANADAと同じぐらいでありながらデカく見えるのはやはり纏っているオーラのせいでしょうかね。辻の見せた技の中で個人的に一番刺さったのはデッドフォールを側転で抜けたシーンで、派手な技より新しいアイディアによる非凡な切り返しのほうが好きです。
ただ……今回の試合は試合というよりは良くも悪くも辻陽太のプロモーションかつ「お披露目」の印象が強いなという印象があり「SANADAと辻がどんな試合をするか?」よりも「辻陽太が何を見せるか?」のほうに意識が持っていかれた感じもあります。辻のインパクトが絶大だった反面、SANADAは印象に残りにくく、それを指して王者であるSANADAが辻に喰われたとする見方もあるのですが、それはやや手厳しすぎる意見というか……凱旋帰国で前哨戦無し、王座戦での一発勝負というシチュエーションならベールに包まれてる挑戦者にしか注目は集まらないのは道理なわけで、辻は技を見せるだけでお釣りがくるボーナスタイムだったんですよね。このシチュエーションだと誰が王者でも難しかった気もします。しかしながら王者として満足のいく試合だったかと言われたら厳しい評価にならざるを得ませんね。
とはいえ、SANADAも言われるほど悪かったわけではなく、開幕の「動」の辻陽太に対して切り返しで出した「静」のスカルエンドは非常に良かったんですよ。スカルエンドは繰り出す間の悪さや決まり具合など、色々と言われがちな技ではあるのですが、今回は即座に胴絞めで引き摺り込んだのが個人的にポイントが高く、仕掛けたタイミングも完璧でした。襲撃時に唯一見せた辻の情報であるスピアーを手掛かりにそこかや切り崩しに入ったのも良かったですね。
特にスピアー迎撃の低空ドロキは素晴らしかったです。あれこそがSANADAの持ち味でしょう。そこからのラウンディングボディプレス、シャイニングウィザード、そしてデッドフォールと立て続けに放つことで勝利をもぎ取ったわけなのですが、残念ながら辻のインパクトをねじ伏せるほどの幕引きとはなりませんでした。そもそもSANADAは技を畳み掛けてカタルシスを得るタイプのレスラーではなく、一瞬の切り返しに光るものがあるタイプなので、こうした強引な勝ちパターンはあまり似合わないんですよね。これならオコーナーブリッジでの逆転勝ちのほうがよかった気もするのですが、それだと序列が辻の方が上になってしまいますし、王者として力を見せて勝つ必要があったというのは理解しますが、説得力が足りなかった。これに尽きますね。観客がフォールカウントをコールしなかったのがその証拠であり、挑戦者を光らせることはできたけれど、王者の威厳を示すまでには至らなかったという印象です。
ただ、負けても辻陽太の評価が落ちないどころか、格が下がらずに次代の怪物として完全に認知されたのを見ると、本懐は果たしたと言えますし王者SANADAの献身ぶりに頭が下がります。辻のやりたいことや出したい技をほとんど拒否せずに受け切ったからこそで、それはそれで正しい王者の振る舞いだとも思うんですよね。
辻は辻で前哨戦無しの王座戦というシチュエーションで負けてしまったことによって、フィニッシャーを温存したんですよね。つまりはこれだけやってもまだ謎が残っているというか、未知数な部分があるわけで、それがそのままG1での暴れっぷりへの期待感に繋がってるのは上手いなあと思います。加えてSANADA相手に負けたことで変に勝ちまくることもなく、つまりはゴーバー化することもないという絶妙な塩梅に落ち着いたわけで、そう考えると今回勝てなかったのも必然かもしれませんね。
今回のような圧倒的な期待感や機運をもう一度出すのはかなり難しいでしょうが、裏を返せばここから先はそうしたボーナスタイムに頼ることなく己が身一つで成り上がっていくわけで、辻の今後には期待しかないですね。少なくとも海野や成田より一歩先に進んだわけですから、残りの二人がどうするかも気になります。新時代はもう差し迫っていますよ。
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久しぶりにnote書いたらかなり時間がかかってしまいました。疲れるし、今年はG1の全戦レビューはいいかな……って思っていた矢先に清宮参戦はズルいですよ。新世代の台頭も気になりますし、今年も頑張って全試合レビューやろうと思います。応援してください。長くなりすぎたので今日はここまで。また会いましょう。ではでは。