2023.7.25 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 DAY7 試合雑感
◾️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
ウィル・オスプレイ vs グレート-O-カーン
初対決でありながら同門らしい威風堂々たるオーソドックスなロックアップからスタート。こうしたあたりにエンパイアのユニットらしい武闘派っぽさが窺えます。
ノーコメントを貫いているものの、それはリングの上が全てという意思の表れなのか、ブロックバスターの体勢からリング下に投げ落としたり、椅子攻撃を見せるなど、かなり荒々しい攻めを見せましたね。レフェリーを突き飛ばすラフさに加え、アマレス仕込みのパンケーキホールドで押さえ込みで揺さぶると、逃れたオスプレイにまさかのプランチャ。同門らしいスペシャルを用意してきたオーカーン、見事ですね。
徹底的に攻めたオーカーンですが、フックキックで揺さぶると、カウンターのその場飛びのスパニッシュフライ。オスカッター。そしてリープオブフェイスと怒涛の反撃で3カウント。終わってみればオーカーンの凄まじさが印象に残りつつも、完璧に引き出してみせたオスプレイの調律の巧みさが光った印象もあり、第一試合らしい好勝負となりました。
◾️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs ゲイブ・キッド
海野のゴーバースタイルの客席入場を襲ったゲイブ。こういう入場のスタイルだからこそ奇襲が映えるたいうか、この入場時の奇襲がだんだんサマになってきたのが良いですよね。
リングに戻ってゴングが鳴ったものの、強力なクローズラインにエプロンブレーンバスターとゲイブの猛攻は止まりません。海野もエルボーで反撃しますがこれは弱々しく、受けっぷりの威勢の良さに反して意図は伝わるもののややオーバーアクトな印象もあり、調味料がすでにかかっているのにさらに塩を振りかけたようなクドさがあるのも事実で、受けそのものはすこぶるいいだけに、この辺の味付けの塩梅は難しいですね。元々の天性の明るさとヒロイックさがあるので方法論としては正解でありつつも、師事したのがラフファイターであり、それによる反撃も期待されるという。このスタイルのスイッチングに怒りなりなんなりの何かしらの文脈の付随が欲しい気もします。
ラフ殺法を見せるゲイブに対し、カチ上げエルボーというシグナチャームーブで反撃すると、ブラックプールコンバットクラブ式のエルボー連打を海野は見せますが、技のチョイスはベストでありつつも、シーンとしてやや浮いた印象もあり、技を出したままの感じになってるのが非常に惜しいです。海野の特性である王道的ベビーフェイスとラフファイターの素地は基本的には水と油で、荒れ模様の試合を修正するのはベビーフェイスらしい王道的な反撃なのですが、だからこそ反撃が「型」に囚われすぎてパターン化してしまうのが難点なわけで、せっかくのラフ殺法を同じテンションでやってしまったからこそシーンとして浮いてしまった印象はありますね。海野が支配する試合でやるなら味付けとして機能しますが、反撃の文脈なら既存のムーブより先にやって変化球を見せるのが常道で、ダブルフェイスとでもいうべき二つの側面を持っているからこそ、擦り合わせに苦労してる印象も受けますね。
しかしながら全部が全部裏目に出ていてダメというわけではなく、コーナートップでのエルボーはかなり強烈で、前述のラフ殺法よりよほどラフな印象を受けたのも事実です。そして最後は一撃必殺のデスライダーで海野の勝利。ゲイブの憎々しさは天下一品で、また海野の華も良かったので、このカードはじっくりと育てていきたいですね。
◾️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
タイチ vs KENTA
タイチのKOPWのベルトを小馬鹿にするKENTA。互いにベルトを誇示してのアピール合戦からスタートします。金丸の身贔屓の判定をトーキックで拒否すると、いきなりのベルト攻撃で早期決着を狙うKENTA。返されるや否やgo 2 sleepを狙いますが、それをエルボーで反撃するとデンジャラスバックドロップ。いきなりギアを上げてきましたね。
刺激的でありつつもどこかコミカルさの漂う攻防の中、タイチのバズソーキックをベルトガードすると金的からのスクールボーイでKENTAが勝利。NOAHの先輩である金丸を抱き込んでの荒れ模様の一戦ながら、終始コミカルなままで終わったことに思う部分もあり。互いにアジテーションは一流とはいえ、逆に真っ向勝負も見てみたいものですね。
◾️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
辻 陽太 vs チェーズ・オーエンズ
辻陽太、ポテンシャルの怪物性もさることながら、その躍動感溢れる動きがそのまま「若さ」の表象になっているのがいいですよね。オーエンズも括りでは若者になりつつも、老獪なテクニックで隙間を埋めるようにいやらしく攻めており、この辺りにキャリアの差は感じます。
辻は攻めのターンは印象に残りやすく、イケイケであるのですが、言葉を悪く言うなら俺TUEEE!であり、受けに回るとやや難があり、相手任せな気はしますね。そんな攻め手を挫くようにゆっくりと辻陽太強し!の印象を塗り替えていくオーエンズは恐ろしいものがあります。ジワジワ攻めつつもフィニッシャー間近で徐々にギアを上げていくのが巧みですね。
しかしながらいざ攻め手に回ったときの辻の爆発力に定評があるのも事実で、最後はカーブストンプからのスピアーでオーエンズを粉砕。攻めばかりと書きはしましたが、ちゃんと攻めで説得力を出せるのも大事なことであり、この部分に関しては辻は申し分ないですね。念願のG1初勝利であると同時に辻の勝利はわりと貴重であり、それを考えるとその結果に相応しいだけの難敵として立ち塞がったオーエンズには頭が下がります。
◾️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
タンガ・ロア vs エル・ファンタズモ
ファンタズモの奏でる極上空間。これに尽きます。リング内外を所狭しと動き回るファンタズモの立体的な攻めは相変わらずでありながら、その真骨頂はこの空気感なんですよね。それを力づくで押し通るロアの怪力ぶりも素晴らしく、ボディアタックをスピアーで撃ち落としたシーンは声が出ちゃいました。スーパーパワーボムなどで万事休すに陥りながらも、最後はエイプシットを切り返しての十字架固めでズモの勝利。ロアの敗北は残念ではあるものの、爽やかさが余韻となっていつまでも残り続けるような、そんな好勝負でしたね。
◾️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
成田 蓮 vs ヒクレオ
アリキックで切り崩しを狙う成田に、巨体と力で押し切ろうとするヒクレオ。エプロンへのバックドロップは普通の選手がやると置くような感じであまり好きではないのですが、ヒクレオがやると上背もあってちゃんと叩きつけてるのがいいですね。トップロープ一跨ぎに加えて単純なホイップでも成田相手だとド迫力に映ります。
以前から気になっていた成田の弱々しさも、ヒクレオほどの巨漢だと逆に体格の差があるせいかあまり目立ってみえず、逆に判官贔屓として成田への後押しになっていた気もします。成田も執拗に仕掛けたスリーパーホールドに、不意打ちめいた膝十字。スピニングトーホールド、脇固めなど古典技を狙いますが、そのどれも弾き返すヒクレオの規格外のパワーが凄まじく、この攻撃が通じない絶望感がヤバいですよね。
この試合で目を引いたのは河津落としであり、成田の使う技はどうにも僕のツボをついているんですよねw選ぶ技のセンスやチョイスに関してのみなら令和闘魂三銃士の中では一番で、スタイルのイメージに合っていると思います。
断頭台の決まり具合は良かったものの、得意のスープレックスにはいけず。虎の子のコブラツイストもこのG1では外されるシーンが目立ち、これは少し厳しいですね。あとは練度と勝ち星と場数だけ。分かってはいますが、これは中々難しい……。
ヒクレオとのマッチアップは良くも悪くもヤングライオン感が出ちゃった感はありますが、その怪物ぶりは存分に発揮しており、最後は2メートル級チョークスラムことゴッドセンドでヒクレオが勝利。まさに一撃必殺の銭の取れる技であり、これは仕方ないですね。
令和闘魂三銃士の中で唯一の一人負けであり、現状の力量を考えると仕方ない反面、成長するためには変に取り繕わず、力を吐き出し切ることも重要で、それができただけでも価値のある玉砕だったと思います。出遅れてるイメージは決定的になってしまった気もしますが、後に巻き返せばいいだけで、相手がヒクレオでよかったなとも。成田は本当に頑張って欲しいですね。
◾️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs YOSHI-HASHI
絶対に負けたくない力を認める相手だからこそ、最高の状態を引き出すためにあえてヒール色強めで振る舞うオカダ。自身の役回りや立場の解像度が高いと言うか、よく理解していますよね。YOSHI-HASHIもタッグ経験による積み重ねと成長はもはや別人と言っても過言ではなく、オカダと相対したときの堂々とした佇まいには涙腺が緩みました。
相手を半身にしてのドロップキックと見せかけての低空ドロキや、それを鉄柵でやるバージョン。逆水平にトラースキック、そしてオカダに負けないラリアットと、YOSHI-HASHIの小技のバリエーションは多く、これだけでオカダを追い込みましたね。レインメーカーも徹底して防いでおり、オカダを最もよく知り、最も理解している男というのは伊達ではありません。
しかしながらそれはオカダも同じであり、YOSHI-HASHIに対しての対等な目線は決して他の選手相手には見せない顔であり、この心理的な距離感の近さが如実に伝わってきたのがよかったです。それでいながらCHAOS対決特有のスポーツライクな死闘という空気感。最後はこのG1で猛威を振るったYOSHI-HASHIの頂狩を堪えるとドライバーで叩きつけ、最後はレインメーカーで勝利。今までで一番追い込まれた試合でしたし、それが当たり前のように思うあたりYOSHI-HASHIへの信頼感はハンパないですね。
◾️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
SANADA vs 清宮 海斗
武藤敬司をルーツに持つ二人でありながら、かたや血脈は違えど最後の後継者であり、かたや武藤塾一期生ながら不肖の弟子という組み合わせで、ここでの邂逅は運命めいたものを感じますね。
試合序盤のリストの取り合いはやはり清宮有利であり、小川良成の薫陶を受けたのは伊達ではないなと。この部分が一番不安視しながら見守っていたわけですが、ヘッドロックのシーンで軽く頷いたりと意外とSANADAに余裕があり、ロープワークからのムーンサルトでシャイニングの撃ち合いを誘ったりと、この試合のニーズをしっかり掴んで手綱を握った王者らしい振る舞いが素晴らしかったと思います。清宮という溢れんばかりの才能を何とか器に留めつつ、溢れないようにコントロールしてるというか、技に感謝、かけられて感謝とでもいうか。相手を見て合わせるSANADAの器用さが功を奏した印象もありますね。
そう思ったのもやられてるSANADAの姿に不安要素がなかったというのが大きく、これはSANADAの持つ朴訥さというか、ある種の無頓着さがいい方向に機能した気もするんですよね。この部分にやきもきさせられてた時期もあったのですが、この試合に限ってはそれが血気に逸る清宮の持ち前の若さに対しての大人の余裕として響いたようにも感じます。
表層的な技術では清宮有利でありつつも、自分のペースでの空気の作り方などはやはり現役の王者であるSANADAに軍配が上がった感じであり、場外プランチャからのアピールはいつになく頼もしく思いました。そんな空気を打破しようとのそこからの清宮の足攻めの猛攻もえげつなかったものの、コーナートップからのミサイルキックでヒッティングポイントの片足をわかりやすく差し出していたりと、相手の技を受けることへの迷いがなかったのがよかったですね。清宮は清宮で即断即応、全身全霊の読み合いの部分で勝り、対するSANADAは最初から王者らしく受け止めるスタンスだったと言ったほうがわかりやすいかもしれません。
加えて清宮のスタイルがわりとSANADAの好みに近いというのもあり、足4の字のせめぎあいはこの試合における一つの名シーンであるでしょう。清宮を通じてその背景に鎮座する武藤敬司への「語りかけ」とでも言いますか。それでいて武藤の遺産に互いが互いともに寄りかかり過ぎていないのが好感が持てます。これが「歴史」のあるべき姿なんですよ。
しかしながらそんな濃密な邂逅も、時間という概念に対しては無力であり、刻一刻と試合終了の時は近づいてきます。ラウンディングボディプレス着地で痛めた足を使って、正当後継者のシャイニングウィザード。そしてSANADAのデッドフォールを完璧なタイミングで切り返したスクールボーイなど、清宮のセンスは本当に素晴らしいですね。オコーナーブリッジをちゃんとテクニカルに逆利用して押さえ込んだのも見事でした。
最後は残り2秒という瞬きに等しい刹那の中で、決まったSANADAのシャイニングウィザード。清宮が立てたのは左足だったので形としては相手の足を踏まない形となりましたが、武藤もわりと踏まずに出すこともありましたし、形としては右膝の正調だったことにこだわりを感じました。その昔、三沢vs無糖のタッグ戦だったかのときに三沢が急いで立てる足をスイッチしたのが記憶に過ぎったりと、一瞬ながらもそこには歴史が凝縮されており、ドンピシャのタイミングで綺麗に側頭部を撃ち抜いていましたね。これで決めたかったという意地というよりは、武藤を背景に持つ者同士で響きあった「これしかない」決まり手。あまりあらかじめ用意されていたような印象も受けず、逆に時間ギリギリだったからこそ偶発的に決まった印象のほうが強く、それを思うとこれで決まったのは非常にドラマティックですね。清宮敗北は悔しい反面、これで決まるのは仕方ない気もしますし、何よりSANADAが王者らしく振る舞い、王者としての試合で清宮を退けたことに新日ファンとして一安心してしまいました。
辻陽太戦の2戦目に続き、この清宮戦は間違いなく王者SANADAのベストバウトでしょう。このクオリティの試合を今度は王座戦で見たい!と思いつつ、ややキャラクターチェンジから間があったものの、今のSANADAの覚醒ぶりは文句なしに王者たる風格がありますよ。G1優勝しちゃってもいいんじゃないですかね。文句なしに今大会一番のベストバウトであり、SANADAvs清宮がこのタイミングで組まれたことには感謝しかないのです。王者が強いG1は面白い!清宮も手痛い敗戦ではありましたが、リベンジでのIWGP戦も視野に入ったと思いますし、またいつかこの二人の戦いは見てみたいですね。