2024.8.15 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 千葉・幕張メッセ 準々決勝戦 試合雑感

◼️第7試合 時間無制限1本勝負
G1 CLIMAX 34優勝決定トーナメント・ファーストステージ
鷹木 信悟 vs グレート-O-カーン

プロレスは格闘技であるということに異論はないものの、現代MMAの格闘スタイルと現代プロレスの融合は意外と難しいものであり、オーカーンは説得力のある格闘技の実績と、コテコテのギミック・レスラーという相反する要素が同居しており、それが対極であるからこそその「調整」に時間がかかったというのはリアルではあるんですよね。格闘技をプロレスに落とし込むには動きのリアリティもそうなのですが、基本的には一撃必殺であるため、そこには「怖さ」が必要なんですよね。それはプロレスのサイコロジーやダメージの積み重ねとは異なる部分もあり、ここのハンドリングは困難を極めると思います。深度を増せばわかりにくくなり、キャッチーにすれば安易になるという考えれは考えるほど煮詰まる袋小路。これは本当に大変ですよね。

しかしながら序盤は鷹木をレスリングの攻防や関節技で制しつつ、柔道の投げ技の連発。ラリアットをアームロックで止めたりと、スタイルの融合と進化を見せていきます。この味って今の新日だと結構独特なので特異性はあるんですよね。鷹木もこのG1で猛威を振るったパンピングボンバー固めで不意をつくも、オーカーンも負けじとラリアット。こうした打撃系格闘技の素養のある選手のラリアット、僕は結構好きなんですよ。

撃ち合いの最中で仕掛ける脇固めや腕ひしぎ。ここで怖さを出してきたのは上手いですし、苦悶する鷹木にプロレス技の腕折りを仕掛ける柔軟性も素晴らしいです。リストクラッチエリミネーターはDDTで切り返されますが、格闘技とプロレスの融合に対して、切り返し一本にプロレスの醍醐味を全て集約させて張り合った鷹木もまた嗅覚が鋭く、見事なものですよ。最後はパンピングボンバーからラストオブザドラゴンで鷹木がからくも勝利。妥当鷹木はならなかったものの、今のオーカーンは試合数を重ねれば重ねるほど練度が高まり、よりスタイルが洗練されていくと思うので、このG1は実りのあるものとなりましたね。

◼️第8試合 時間無制限1本勝負
G1 CLIMAX 34優勝決定トーナメント・ファーストステージ
辻 陽太 vs KONOSUKE TAKESHITA

一度敗北した相手へのリベンジは物語としては美しいものの、二度負けるわけにはいかないというプレッシャーが強いのも事実で、相手がこのG1でベストバウトマシーンとして猛威を振るい、一昨日の成田戦で外敵ながら主人公としての声援まで受けた竹下相手となるとかなり厳しい戦いが予想されます。

そしてここまで破竹の勢いで勝ち上がってきた竹下でしたが、前述の成田戦でのダメージは思いのほか大きく、試合中に時折左膝を気にする仕草も。悪魔超人・成田の怨念というか、まさに悪魔霊術血縛りですよw序盤こそタケシタラインにエプロンでのDDTとド迫力な技で攻められますが、セントーンの跳躍で膝にかかった負担を見逃さず、剣山で迎撃すると痛めたその箇所に容赦なく攻撃を加えることで打開を図る辻。

一度負けた相手とあってか手段を選ばないガムシャラさがありますし、それでいながら、一点集中で攻められることで外敵でありながらも竹下のヒロイックさが際立っていく。こんな風にどちらの立場でも主人公として見れる試合配分は新日は本当に上手いですよね。目を引いたのは辻の足殺しのレパートリーで使用していたグラウンドドラゴンスクリューであり、これの元祖は棚橋弘至なんですよね。

竹下もセカンドロープからの雪崩式ブレーンバスターに場外椅子盛りへのセントーンアトミコというエクストリームな大技を決めて一気にペースを取り返すも、辻も負けじとケブラドーラコンヒーロからのトペスイシーダというルチャ殺法で反撃。ラリアットのダブルダウンから立ち上がった牛の角突きのようなスクラムでガッチリと組み合う!シンプルな動作ながらその迫力は凄まじく、互いに強さを押し付ける者同士、一歩も引かない名シーンだったと思います。

ブレーンバスターの仕掛け合いでブレーンバスターボムで打ち勝ったのは辻。しかしながら続く決め手のジーンブラスターはピンポイントで頭部に膝を合わせられて一撃で昏倒。いやあ……スピアーに膝を合わせられる精度が凄まじいというか……正確性ってトップレスラーの必須条件なんだなと改めて思いますね。そしてトップロープに上がる竹下でしたが、膝の痛みで躊躇したのを見て辻が後を追い、開幕戦でも見せたスパニッシュフライ敢行を狙います。が、ここで飛ぼうとした辻を竹下がトップロープ最上段からラリアットで撃墜!雪崩式ラリアットと言っても過言ではない一撃でもんどり打つように辻は落下。これには驚かされました。互いの跳躍を必要とするスパニッシュフライを今の膝で受けるには厳しく、それでいて力で撃ち落とすにはこれしかありませんでしたね。

そしてさらに重量感のあるエルボーと同じく重たいラリアットでの追撃。何度も被弾し辻も崩れ落ちるも、起死回生のバイシクルニー。辻の打撃バリエーションの中でも、この二段式の膝蹴りは使い手も多く、謂わばかなり「トレンド感」の強い技であり、持ち技の中ではスピアーやストンプ、ヘッドバットと比べると一枚落ちる印象はありつつも、この局面で放った一発は他の使い手と見比べても遜色ない角度と威力で決まりましたね。足のフリンジもあってか見栄えもよく、また試合終盤でも落ちていない跳躍力もあって非常に綺麗な一撃でした。そこからのダメ押しのラリアットも良かったですね。しかしながらこれをカウント1で返す竹下!意地があるのは辻だけではないのです。

勢いを盛り返した辻が先程の返礼とばかりにエルボー乱射。張り手の三連発。さらにはダメ押しとばかりに振りかぶってのヘッドバットで竹下を倒します。なおも起き上がる竹下に「竹下!」と叫んでのストンプ!そしてマーロウクラッシュを狙うもこれは竹下がブルーサンダーで捕獲して迎撃。竹下のブルーサンダー、回転数含めて本家より上回ってると言っても過言ではありませんね。そしてレイジングファイヤーで終わりかと思いきや、これをドンピシャのタイミングでスタナーで切り返す辻!これはオスプレイのスタンドッグ・ミリオネアを彷彿とさせる一撃で、バイシクルニーもそうですが、ここで辻と竹下の関係性に双方が戦ったオスプレイが関わってくるというのも興味深いですね。

そしてロープワークから「竹下!」と叫びながらのジーンブラスター!竹下は宙を舞うものの、ニアロープによって命拾い。これ位置調整含めて天才的な受けですよね。辻は再びコーナーへと下がって助走距離を取り、対角線中央へのジーンブラスターを狙いますが、これを回避した竹下が投げっぱなしジャーマン。辻の首から突き刺さるほどのエグい角度で、勝利を確信した竹下がエルボーパッドを脱ぎ捨てて片腕を上げてアピールするも、その一瞬の隙をついてジーンブラスターを突き刺して辻の勝利!いやあ……この終盤の攻防は本当に見応えがありました。よりエグく、高角度の投げっぱなしジャーマンだったからこそ最大威力のジーンブラスターの間合いになったわけであり、位置関係上、背を向けてしまったのと技の威力から反撃はないと思ったが故の不意の一撃。ジーンブラスター、もといスピアーは名手の多い技でありながらも辻の一撃はそれらと並べても遜色なく、それでいてシンプルが故に応用性の効く一撃です。不意打ちと説得力を両立するのは至難の業であり、それをしっかり見せたのもあって竹下へのリベンジも納得のいく結果となりました。

竹下のG1の夏はここで終わりを告げましたが、恐らく誰に聞いてもMVPは竹下幸之介になると思います。ベストバウト選定すれば大半は竹下の試合になるでしょうし、この怪物感でG1を蹂躙したという現実は、単なる5勝4敗という結果だけでは語り切れないほどのインパクトがありました。扱いが悪い、新日の評価が低いという声もありますが、むしろ絶妙だと思っていて、竹下幸之介というトップランカーを骨の髄までしゃぶり尽くしたなというのが現時点での僕の感想になりますかね。

そしてそんな怪物竹下に、上村が土をつけ、成田が痛めつけ、辻がトドメを刺すという構図。しっかり新世代の全員がその身を賭してストップ・ザ・竹下を果たした結果でもあり、新日総出で竹下を食い止めたような凄まじさがあります。団体全てを敵に回して走り抜けた竹下が凄すぎるというのもあるのですけど。いやはや、竹下幸之介お見事でした。また再び新日のリングで合間見えるその時を楽しみに待ちたいと思います。

試合後のマイク。「お前はどこを目指すんだ?」とすでに世界の頂上を知る竹下の言葉に対し、辻の解答。IWGPヘビー級は世界最高峰だからこそ、それを目指すと言う言葉。これは新日本所属のレスラーとして完璧な言葉ですよ。そして王者になった暁にはAEWの王者を倒し、互いが互いの世界で頂点を取った時に、再び雌雄を決すると。辻vs竹下は黄金カードになりそうな予感がありますし、辻の言ったそっちの団体には、何を隠そうあのオカダ・カズチカがいる。避けては通れないんですよ。そしてこの後に及んでもIWGP世界ヘビー級ではなく、IWGPヘビーと言い切る辻。素晴らしいですね。そして口に出した春夏連覇の覚悟はいいか。新日本プロレスを背負うと言う言葉に、嘘はありません。頂点まであと二つ。このまま走り抜けて欲しいですね。

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